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大阪府職員採用試験 平成27年度 行政法 最判昭60.7.16

問 題

廃棄物処理業者であるX社は、甲県乙町内において産業廃棄物処理施設(以下「本件施設」という。)を設置することを計画し、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)による設置許可を受けるため、2014年4月上旬に、甲県知事に本件施設の設置許可の申請書を提出した。甲県の担当者は、本件施設の設置予定地周辺の住民や土地所有者(以下「住民等」という。)が本件施設の設置に強く反対しており、このまま許可を出すことは適切でないので、住民等を対象とする説明会を開催するなどして設置計画への理解を得るように指導した。X社が、同年5月上旬に説明会を開催したところ、説明会に参加した住民等は、口々に、生活環境の汚染や農作物等の風評被害の不安を訴え、本件施設の設置に絶対に反対する旨の意見を述べた。X社は、住民等を戸別訪問するなどして説得に努めたが、賛成に転じる者はいなかった。
X社は、同年7月上旬に甲県の担当者と面会し、説明会等の記録を提出の上、これ以上努力しても、住民等の態度が変わる可能性はほとんどなく、また、法は住民等の同意を設置許可の要件とはしていないので、速やかに許可をして欲しい旨申し述べた。これに対し、甲県の担当者は、住民等の理解を得るためもう少し努力を続けて欲しいと述べたが、X社は、これ以上は待てないから、速やかに許可がされない場合には法的手段を用いる覚悟があると述べてその場を後にした。
X社は、その後、何度か電話等で審査の状況および許可の見通しについて問い合わせたが、甲県の担当者は、住民等が反対の姿勢を崩しておらず、このまま本件施設の設置を強行すると混乱が生じるおそれがあるので、もう一度話し合って欲しいと要請した。このようなやりとりが繰り返されたまま同年10月上旬に至ったため、X社が行政不服審査法による不服申立てを行ったところ、甲県知事は、同年11月上旬に、本件施設の設置許可をした。その後、X社は、本件施設を設置して操業を開始したが、許可が長期間留保されたことについて不満を有している。そこで、X社は、甲県を相手取って、許可の留保により操業の開始が遅れたことによって生じた損害の賠償を求める国家賠償請求訴訟を提起した。
当該訴訟において、甲県知事による許可の留保の違法性が認められる可能性について述べなさい。なお、解答にあたっては、甲県が、法による産業廃棄物処理施設の設置許可につき、行政手続法に基づき、60日の標準処理期間を定めていること、および、甲県においては、本問に関係する限りにおいて行政手続法と同じ内容の行政手続条例が制定されていることを前提とすること。

関連条文

行政手続法
1条(1章 総則):目的等
2条8号ハ(1章 総則):定義(処分基準)
3条(1章 総則):適用除外
12条1項(4章 行政指導):処分の基準
32条(4章 行政指導):行政指導の一般原則
33条(4章 行政指導):申請に関連する行政指導
行政事件訴訟法
30条(2章 抗告訴訟 1節 取消訴訟):裁量処分の取消し
国家賠償法
1条:公権力の行使に基づく損害の賠償責任、求償権
2条:公の営造物の設置管理の瑕疵に基づく損害の賠償責任、求償権

一言で何の問題か

行政指導による処分の留保

つまづき・見落としポイント

社会通念上正義の観念に反するなどの事情を膨らませる

答案の筋

行政指導に協力できない旨の真摯かつ明確な意思表明に対して、社会通念上正義の観念に反するなどの事情がないにもかかわらず(住民への十分な働きかけ、建設遅延に伴う損失)、標準処理期間60日に対して3倍もの長期間、処分が留保されたことは違法

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