砂漠ですれ違った人に「また後で」で本当にまた会えるのか?
●大冒険を経て、やっと本屋に帰る
旅行の準備段階から早速大変だったこの大冒険。ペトラ遺跡、ヒッチハイク、砂漠、を通して私たちの旅程は全て終了し、あとは住んでいる本屋に戻るだけだった。
砂漠のツアーを経て、英語のチグハグな砂漠ホテルスタッフたちと、アラビア語の壊滅的な私たちはなんとか意思疎通をし、なんとか砂漠の受付センター(つまり砂漠の出口)まで辿り着いた。
さて、次の課題は、本屋のある街までどうやって帰るかだ。
本当は長距離バスを取る予定だったけれど、さっき砂漠で遊んでいる時に偶然イタリア人夫婦の観光客とすれ違い、ラウラが咄嗟に「今日もし街に帰るなら、車に乗せてくれませんか」とイタリア語でお願いしてくれたのだった。(身体にヒッチハイクが染み付いている笑)
ご夫婦は快く承諾してくれ、「じゃあ昼ごろ、受付センターで待ち合わせましょう」と言ってくれた。
しかしこれが大問題だった。まず、「昼ごろって」いつなのか??「昼ごろ」ってなんだ「昼ごろ」って。しかも、ご夫婦のお名前も連絡先も聞いていなかった。
そう。私たちはすっかり「砂漠暮らしマインド」になっており、時間の概念も、連絡先の概念も忘れ、「じゃあまた後で。ごきげんよう〜」としか挨拶を交わさなかったのだった。
私とラウラは、後になって「うわあ本当にしまったな..」と途方に暮れた。車に乗せていただくのをお願いした手前、私たちが行方を勝手にくらませられない…。
受付センターに来たはいいものの、どの辺りにいればいいのか。何時までご夫婦が現れなかったら諦めればいいのか。もう行ってしまったのか?まだ来ていないのか?何もわからなかった。
私たちは結構な間、受付センターでご夫婦を待ってみた。が、、再会することはできなかったので、「本当にごめんなさい..!」という気持ちでご夫婦の車は諦め、長距離バスで街まで帰ることにした。
ああ、もしこの後すぐご夫婦が受付センターに来て、私たちを探してくれたらどうしよう..。しかし「すみません、やっぱり自分達で帰ります」と連絡する術がないため、もう懺悔するしかない。
一応この罪悪感を晴らすため、受付センターの人に「もしイタリア人らしき夫婦が女子二人組を探していたら、申し訳ないけど『先に行った』と伝えてもらえませんか」とお願いしてみた。「了解!砂漠にようこそ、問題ないよ!」とのことだ。受付の彼がご夫婦に伝えてくれる可能性は2%、いや0.2%ほどだとは察しているが、彼の「問題ないよ」を信じるほかない。。
帰りの長距離バスを待っている間、ラウラは「そろそろ1人でぼーっとする時間がほしいわ」というモードなのか、ベンチに座るとリンゴを食べたりスマホを見たりして静かに過ごしはじめた。そういえば私たちはこの数日あまりの大冒険っぷりに、「まったり」の余裕などまるでなかったのだ。
バスが来るまで二時間ほどあったため、私はそんなラウラに「ちょっとウロウロしてくる」とだけ声をかけ、バス停のあたりを散策した。
しばらくするとやっと来たバスに乗り込み、そしてタクシーを乗り継いで、とうとう我らの住む本屋に着いた。私たちはこの大大冒険を経て、「一回りも二回りも成長した、スーパー双子ガールズ」のような、達成感あふれる気持ちだった。
店に着くや否や砂まみれのまま、本屋の姉であるアリスに「ただいま!!!ねえ〜〜こんなことがあったの!」「ほんと、すごかったのよ!?」とひたすら話を聞いてもらう「旅の報告会」を行った。
その日はなぜか都合が良すぎることに、本屋前の広場にソファーが置かれていて…と言うより、ソファーが外にほっぽり出されていて、そこは私たちの報告会の"会場"にぴったりであった。
アリスは私たちより前から本屋にいることもあって、もちろん遺跡も、ヒッチハイクで砂漠に行くって星空を見ることも経験済みだ。そんなアリスが私たちの旅の準備に多大なサポートをしてくれたのだから、報告したいことがあってあってたまらなかった。
そんな姉妹三人で話しているとほんとうに安堵というか、充実感で胸がいっぱいになった。本当に楽しくて幸せで面白かった。三人で「ねえ私さ、今この瞬間のことずっと忘れたくないなって思いながら話してたの」「え!私も」「私も!」と、夕方の風にあたりながら旅の思い出を話していたのであった。
●もはやなつかしい「あの男」!!
そうして報告会を終えた数日後、本屋での後日談。
ある日の本屋の閉店後、部屋にいたアリスが、パソコンで「何かのwebページ」を見せてくれた。先に来ていたラウラが食い入るように画面を見ていて、アリスは「フウ、あなたこれ知ってる?」とやけにニヤニヤしている。
私も画面を見ると…
んえっ!?!?!?!?!?
えええええ?!!?!?!
画面に写っていたのは、あの、ペトラ遺跡で「ヒッチハイク頑張ってるねえ、手伝ってあげるよ」と声をかけてきた、"謎の男"の顔写真!!
バンっと載っていて、「ペトラ遺跡周辺に出没する要注意詐欺師」と書いてあるではないか!!!!???
「うわああああ!!!こ、こいつ!!!??!!??」
もう、やっぱりな、としか言いようがないぐらい、「やっぱり」すぎた。私とラウラは顔を合わせて、「え、えええ!?!」ともう大爆笑し、息ができなくなり、「あ、苦しい、、これは、、死ぬ、、のかな!?」と思うほど笑いが止まらなくなった。
やっと息ができるようになって、私はぼやいた。「最初から怪しいって思ってたわ。だって裏の目的もなく助けようしてくる人なんて、絶対におかしいもん」
するとすかさずアリスが「フウ!そんなことはない!本当に助けたいと思って近づいてくれる人もいる。それは忘れないで。」と私の発言を訂正し、またにっこり笑顔に戻った。
ああ、そうかごめんなさい、なんだかアリスらしいなあ…と思いながらも、「というかさ!?この情報にどうやって辿り着いたわけ!?」と、その画面を見ながら、やっぱり私たちはゲラゲラと笑いが止まらなかったのであった。
「ヨルダンの本屋に住んでみた」世界遺産ガールズツアー編・完!
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