本を買わないアラブ人は、うちの本屋の常連だ
●いかにもアラブっぽい名前の常連客
今日は当店、ヨルダンの本屋の常連を紹介する。
イブラヒム君である。
イブラヒムは、非常に「周りの見える男」である。例えば私と地元のお客さん達が話していると、だんだんお客さん同士だけで盛り上がって、会話がアラビア語になってしまうことがあった。そうすると私は理解ができない。
そんな場にこのイブラヒムがいると、「おいみんな!おれたちは今フウとも話してるんだからさ、頑張って英語で話そうよ!」と、会話をさえぎって「声かけ」してくれるのだった。その気持ちがとても嬉しい。
あと、チェスがめちゃくちゃ強い。たまに私が負けそうになると「女の子だから」と手加減してくれたが、それでも全然勝てなかった。
●バイク大好き芸人 ヨルダン代表
イブラヒムが本屋に来るときは、だいたい分かる。
一つ目の理由は、ヒゲモジャの店長が「今日あいつ来るって言ってた気がするなー」と、教えてくれるからである。
さすが長年の友情。「ちょっと今日行くわ」ぐらいのLINEでもしてるんだろうか。そういう何でもないやり取りができる友達は、大切である。
来店が分かるもうひとつの理由は、彼のバイクが爆音のミュージックを流して到着するからである。
●彼はブックを買わない
「平和なジャズのBGM」と「アラビア語の談笑」がここちよく流れる本屋に、爆音のアクセントが響いたら、イブラヒムのご来店!
しかし本屋の常連といっても、私たちスタッフや店長とおしゃべりしにふらっと現れるのである。つまり本を買わない。
そしてイブラヒムはいつも私たち店員に、ドライフルーツの差し入れをしてくれた。
毎回すごく嬉しかったけど、そのフルーツがとても甘くて私は苦手だったので、こっそり全部ラウラにあげていた。
いいに決まってるのに、律儀なラウラはいつも小声で「本当に全部いいんだよね...?」とコソコソ確認してくれた。「うん!よろしく」「なら、もらうわね」ここまでが私たちのセットである。
●イブラヒムVSおばけ
彼はだいたい来店すると、夜まで本屋のカフェにいた。
ある日、他にお客さんがいないこともあり、アラビアンな絨毯が敷いてある本屋の床にみんなで座って、お菓子を食べながら話した夜が思い出に残っている。
「夜遅くにバイクに乗ると、怖いんだ」
とイブラヒムは喋りだす。彼の職業は警察官である。
「どうする?もし…バイク運転中にふと振り返ると…白いおばけが…後ろに座ってて…僕に抱きついてたら…!?キャー!!!」
「しかも、どうする!?夜中にツーリングしてたら、大きな大きな、白いおばけが、道に立っていたら!?どれだけ走っても通り越せないほど、でかかったら!?ヒエエエ」
みんなで「んなバカな(笑)」「今度行ってみる!?(笑)」なんて話しながら、ぼんやり二つのことを考えた。
・1つ目は、「全員英語喋れるって、奇跡では?」と急に思ったこと。もし喋れなければ、イブラヒムだって私にとっては「しばしばドライフルーツを配布してくれる細めの外国人」でしかなかった。
しかし、各自が偶然違う国で、今日のことに備えたわけでもなく英語を勉強していたため、現在奇跡的に会話が成立している。彼の人柄や話が分かって、楽しい時を過ごせる。
そのすごさを、もう一人の自分が考えていた。
この「お話会」はとても楽しかった。「彼女と結婚しようかな」とか、「イスラム教のデート事情」「将来はこんな店を開けたら楽しそうじゃない?」などをみんなで話して、幸せな時間だった。
・2つ目の「ぼんやり考えたこと」はもちろん、
「待ってくれ?ヨルダンもオバケって、白なの?」
である。さっきからイブラヒムの話に出てくるお化けはなぜか全員白い。ホラー映画を観ない私は海外のおばけ事情など知らないので、おばけ=白、なのは世界でも共通していたことに大変驚いた。「おばけって白いらしいよ」という噂は国際レベルで広まっていることが、ここヨルダンの本屋にて確認された。
そうこうしているうちに、夜も遅くなった。みんなであったかい紅茶を飲んだら、閉店である。
●追加ニュース
ここまで読んでくれた人は、脳内で彼の名前を、「ブラ」を強く読んで「イブラヒム」と読んでいたのではないだろうか。しかし彼の名前はなんと「ヒ」を強く読んで「イブラヒム」なのだから、驚きである。
もう。そんなイントネーションによって名前のアラブ感を一層強めてしまって、、彼はどこまで走り続けるつもりだろうか?
「ブイブイ!」
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