見出し画像

この世では「言わなきゃいけない」ことほど言い出しづらい説 @閉店後の本屋

あらすじ
中東ヨルダンの本屋に住み込みしている私と、イタリア人スタッフのラウラ。「2人で本屋の休みをとって、遺跡や砂漠をめぐる大冒険に出よう」と話していた。

●一緒に行ける人がいる、って最高!

ヨルダンに来る前、この未知の国についてあれこれ調べていた時のこと。

「せっかくヨルダンまで行くなら、世界遺産の遺跡や、人生で縁のない砂漠に行ってみたい…」

「インディジョーンズ」の撮影にも使われた「ペトラ遺跡」※1
映画「トランスフォーマー」の撮影にも使われた「ワディラム砂漠」※2

しかし、そんな大層な場所に一人で行くのはちょっと寂しい気もするな。いくら、いくら一人旅プロの私でも、さすがに一人で死海に入って「ウオオ!ほんとに体が浮くわ〜笑」とか盛り上がるのもなんか寂しいなと思っていたのである。

できれば本屋のスタッフと一緒に行けたら最高だけど、他のスタッフたちはもう行ったことあるのかなあ…。それとも「何度でも大歓迎!」と、また私と一緒に行ってくれるだろうか。

そんな不安を胸に本屋に着くと、私と「ヨルダン到着日」の近しいスタッフがいることが判明。しかも歳も住む部屋も同じで、とっても仲良くなるという奇跡が起きた。それがイタリア人のラウラだった。

出会って初日に「え〜!ラウラはまだ遺跡に行ってない!?」「え〜!よかった、一緒に行きましょ!!」と大いに盛り上がった私たちは、とっておきの「世界遺産めぐりガールズツアー」を夜な夜な計画したのであった。同じものを同様の新鮮さで面白がれる友達がいて、私はとてもラッキーである。

旅の計画中、ラウラが「フウ、私、旅の間ずっと上下同じ服で行こうと思う…どうか気にしないで..」と恐る恐る言うのがとてもかわいかった。「え!?私もだよ!数日間同じ服でかましていきましょ!」「優しいのね、アイラブユ〜〜〜〜!」

●2人で作った旅の草案(初心者版.pdf)

私たちは、こんなプランを考えた。1日目に全ての予定を突っ込んで、砂漠で寝て、2日目はゆっくり本屋まで帰ってくる日程だ。

1日目【本屋】→【遺跡】→【砂漠】
2日目【本屋】←←←←←←←【砂漠】

「せっかく行くなら、もっと長い方がいい?」「あなたが行きたければ長くても歓迎だけど、私は2日間でOK」とお互いが同じ考えだったので、このプランで十分という判断に至った。移動手段は全て、長距離バスを取ることにした。

それを店長に話すと「いってら〜。ただ、日程の片方は定休日(=水曜日)に被せてね」と言われた。店長は「いってら」と口では言ってくれていたものの、正直人手が惜しいなという顔をしていた。

●旅のプラン改訂版(大冒険版.pdf)

私たちのプランについてを、長くからこの本屋で働いているアリス(フランス人のベテランスタッフ)に話すと「わ〜、私もそのコースの旅をしたことあるわ」とのこと。

まだ私とラウラがこの本屋に来る前、アリスは当時いた海外スタッフたちと遺跡や砂漠を旅したらしい。「うん、何回も行ったわ。ねえ、『遺跡から砂漠』の移動は、ヒッチハイクにしてみたら?やったことないなら良いチャレンジになるかもよ?

「「ヒ、ヒッチハイク!?」」


1日目【本屋】→【遺跡】→ヒッチハイク(?)→【砂漠】
2日目【本屋】←←←←←←←【砂漠】

アリス姉様、!?何を言ってるの!?

それって危なくないの?日本ですら怖いけど。大丈夫なのか?というか、なに?どうやってやるの?もしも車に乗れなかったら野宿になるの?

というわけで私たちは、砂漠まで「ヒッチハイク」で行くことにした。


●絶対に乗りたい我々 vs 絶対に満席のバス

住んでいる本屋の「自習室」にコソコソ集合

そうして旅行日の迫った日、本屋閉店後の夜中。本屋の「自習カウンター席」に集まった女子三人は、ブルブルと寒さに震えながら、「旅に必要なバスを予約するぞ〜!」と、チケットを取る会を開いた。ヒッチハイクしない区間はバスで移動するから、あらかじめ予約しておくのだ。

旅行に行くのは私とラウラなのに、アリスまで来てくれた。さらに、予約に使用するのはアリスのパソコン。私たちはどこまでもアリス姉様に頼りっきりなのだ。

「ここのサイトからチケットを買えるのよ」
「ほうほう」

そうして画面を覗くと…。あれ…なんということだ?まさかとは思うけど、「FULL」って「満席」って意味だったかな?ヨルダンにおいても、FULLの定義は同じなのかな?

誰か、違うと言ってくれないか(号泣)

私たちは、「んん、FULL?いや〜?まさかねえ?笑」という感じで、何回も画面を再読み込みしたり、じっと見つめたり、ジロジロと画面を睨んだりした。

しかしう〜ん、やはりどうやら…。希望日程のバスは売り切れている…!?

・・・。

無言になる三人。

日程をずらせば空きがあるが、それだと本屋の定休日に被せることはできなくなってしまう。

「今週がダメなら来週行けばいい」と思うかもしれないが、実は今週は"新月"の週。つまり「月が無いから砂漠の星空が一層綺麗に見える」ため、どうしてもこの週がいいのだ。これはアリス姉様によるアドバイスである。

だんだんと状況を飲み込んできたラウラと私は「え!?まずい、取るのがギリギリすぎた!本屋を1日休むだけでも気まずい感じだったのに、2日間も2人で休むことになっちゃう!!あああどうしようどうしよう…」と大混乱。

「え、これって…定休日に行くのは諦めなきゃかな…」
「いやいや!どうにかして定休日に合わせなきゃ!」
と焦りに焦った。

我らの姉であるアリスは、「ヘイ、ガールズ?落ち着いて。まずは何とかしてみよう」と、ヨルダン版の「ジモティ」的なサイトを開いてくれた。地元の人と助け合いのできるネットサービスサイトだ。

日本の「ジモティー」はこんなサイト。さまざまな「○○してほしい、してあげます」を地元の人たちで叶えてあげあうサービス

アリスは「乗せてあげます」のカテゴリで、遺跡まで乗せて行ってくれる人を探し始めた。こんなサイトのことを知っているなんてすごい。

この「ヨルダン版ジモティー」でいろんなドライバーを探してみたり(アリスが)、連絡して手当たり次第に相談してみたが(アリスが)、私たちのプランに合う「遺跡まで乗せていってくれる人」は見つからなかった。やはり急すぎるのと、何より長距離すぎたのだろう。

「ああああ、どうする?…やっぱり定休日に行くのは諦めて…他の日に行く?」「いやいや…何としても定休日に合わせなきゃ!」という会話がまた起こった。それにこのやり取りはもう、数回目だ。

ラウラは「オーマイガ〜〜!?もうどうしようどうしよう!?よし、OK、私一旦、お風呂行ってくるわ!」とパニックになって、なぜかシャワーに行ってしまった。

こんな夜中にシャワーなんて大丈夫だろうか。当店は「お湯」のボタンを押しても、水がお湯になるまで40分かかるけれど…。

その間もアリスが一生懸命、チケットを買うのが遅すぎた妹たちのために手を打ってくれた。アリスが行くわけでもないのに、こんな夜中の寒すぎる本屋に残って協力してくれるなんて…。私はもう、アリスの後ろに立ち尽くして、画面を見守ることしかできなかった。

●「言わなきゃいけないことほど言いにくい」説

しばらくすると、バスタオルに身を包み、子犬のようにブルブルと震えたラウラが本屋に戻ってきた。

旅行に行かないのに熱心に手を打つフランス人、途方に暮れて無力な日本人、そしてなぜかびしょ濡れのイタリア人。女子三人が、真夜中の本屋で凍えながら「どうしたものか、、。。」と言葉を失っていた

アリスはパソコンを睨み、私は俯き、ラウラはあたふたしている。


ものすんごい、
ものすんごい、
もんのすんごい沈黙の末、ラウラが口を開いた。

「…..。ねえ、あのさ、フウ…私たちさ、定休日にさ、行くのさ、もう…」

破れた沈黙を合図にふと顔をあげた三人の目がバチッと合って時が止まる。その瞬間、本屋の壁が吹っ飛ぶほどの大爆笑が沸き起こった。私たちはもう、ほんっっっとうに笑いが止まらなかった。

はあ。まったく、諦めるも何も、バスが無い時点で行きようがないのだ。誰かに頼むとしても、あまりに急すぎるし、遠すぎる。「どうする?諦める?」という会話を何度も何度も何度も何度もしては「いやいやいや!他の手は無いか…」と巻き返してきたものの、本当は「諦める」しかないことを、全員が最初っから分かっていた。

それでも店長に向ける顔がなくて、なんだかここまで粘っておいて諦めてはいけない気もして、こんな凍える薄暗い環境で、ゴソゴソいろんなサイトに行ってみたり、無謀にも画面を再読み込みしたりしたりしながら、あの手この手を試していた。そのもがく「糸」が全員同じタイミングでプツンと切れて、もうほんとうにここまでの全てがおかし過ぎて、笑いが止まらなくなってしまったのだ。

私たちはもう本当に、笑いすぎて死ぬかもと思うぐらい笑った。笑いすぎた。

息ができるようになった私は、やっとのことで「…Hmmmmm.  Maybe!?!?!?(ま、それもいいっちゃいいかもね?)」と返事をし、2人でアリスに「ほんっっとうにありがとう。明日店長に謝って、定休日以外に行くことにする」と罪を認め、「もー!本当に、なんだったの!?笑」と爆笑しながら電気とストーブを切って各自の部屋に戻り、またたく間に眠りに落ちた。


次の日。「店長ごめんなさい…水曜日のバスが売り切れちゃってて…」と伝えると「ふん、好きな日程で行けばいいじゃないか」とやっぱり不機嫌になってしまった。

はあ。圧倒的反省だ。まったくの無力。定休日に空席無し。國破れて山河在り。 時に感じては花にも淚を濺ぎ、売り切れを恨みては鳥にも心を驚かす…。

あまりの罪悪感で、咄嗟に漢詩「春望」を詠んでなんとか気を紛らわせる。これは日本人特有のやり方だが、あとでラウラにも教えてあげよう。

あ〜もう、本当にごめんなさい!でもやっぱり、人生に1回行くか行かないかの砂漠(多くの場合は行かないが)に行くなら、新月の今週しかないのです!

そうして私たちは遂に今週、ペトラ遺跡と砂漠をめぐる、「オリジナル・ガールズスペシャルツアー」に旅立つことになった。

旅行準備編・fin
~feat. 春望 杜甫~

●次回、ペトラ遺跡へ…!

ヨルダンの本屋に住んでみた」の女子旅シリーズ一覧。どこからでも読めます。

1・旅行の準備←今ここ
2・遺跡 (探検編)
3・ヒッチハイク (苦戦編)
4・ヒッチハイク (成功編)
5・砂漠 (星空編)
6・砂漠 (青空編)
7・帰宅と後日談

●「ヨルダンの本屋に住んでみた」他の話

写真引用元
※1:https://www.traveltalktours.com/13-things-to-know-about-petra-jordan/
※2:https://wadirumjordanguide.com/en/

いいなと思ったら応援しよう!

「ヨルダンの本屋に住んでみた」のフウ
いただいたサポートは、書籍化の資金にさせていただきます。本当にありがとうございます!