【小説】再起の光
今日から小説を書いてみようと思います☺️
ぜひ読んでいってください😊
瑞希は、夜道をふらふらと歩いていた。
薄いコートのポケットには、安い缶ビールが二本。
家賃滞納でアパートを追い出されて数日、寝る場所もはっきり決まらないまま、街の片隅を彷徨っていた。
工場をリストラされてからというもの、すべてが崩れ落ちた。職も住まいも、そして自分の価値すら。
「普通の生活がしたいだけなのに」
瑞希は、誰に向けるでもなくそう呟いた。
誰かが彼女の声を拾ってくれることを期待するほど、もはや甘い幻想は持っていなかった。
ただ、心の中でぽっかり空いた穴は埋まらない。
数日後、街の図書館で雨宿りをしていた瑞希は、ふと一冊の古びた旅小説を手に取った。
ぼんやりとページをめくる中で、ある一文に目が留まる。
「人生に迷ったときは、地図の白い場所に行け」
瑞希の心に微かな火が灯った。
白い場所――知らない場所。どこか、自分を縛るものが何もない場所。
数週間後、瑞希は借りたリュック一つで、山間の小さな村に向かう電車に乗っていた。
ネットで偶然見つけたボランティア農場。
そこでは住み込みで働く代わりに、寝床と食事が提供されるという。
行き先に具体的な期待はなかった。ただ、この都会から離れたかった。それだけだ。
農場の門をくぐった瑞希は、出迎えた初老の女性に一瞥され、厳しい口調で言われた。
「ちゃんと働けるの? 都会の人は根性がないって聞いてるけど」
その言葉にムッとしながらも、反論する気力はなかった。
農場の管理人・百合子は、厳しそうな目つきの中にもどこか母親のような温かさを漂わせていた。
瑞希は小さなプレハブの部屋に荷物を置き、翌朝から農場での作業に取りかかった。
朝5時。空が薄明るくなる中、瑞希は慣れない手つきで鍬を振るい、土を耕す。
しかし、想像以上に過酷だった。
手に豆はできるし、腰は痛い。
昼食のときに地元のスタッフが話しかけてくるが、瑞希は上手く会話に加われない。
「都会から来た人って、もっと話せるかと思ったけど」
無邪気な村の青年にそう言われ、瑞希は悔しさと恥ずかしさで心を閉ざした。
だが、夜。疲れ切った体を休めながら外に出ると、満天の星空が目に飛び込んできた。
都会では見ることのできなかった星々が、静かに瞬いている。
瑞希は、思わず深呼吸をした。ほんの少しだけ、心が軽くなる気がした。
数カ月が経つと、瑞希は少しずつ村の生活に慣れてきた。
鍬の使い方もうまくなり、収穫祭の準備を手伝う中で地元の人々と笑い合うことも増えた。
特に嬉しかったのは、自分が植えた野菜が芽を出し、すくすくと成長するのを見たときだ。
「私にも何かを育てる力があるんだ」
瑞希は初めて、自分に価値があると思えるようになった。
しかし、そんな平穏は長くは続かなかった。
ある嵐の夜、瑞希の小さなミスが原因で、大事な作物が泥水に流されてしまったのだ。
翌朝、百合子の怒りを感じる目線と、村人たちの冷ややかな態度に、瑞希は耐えられなくなった。
「やっぱり私には無理なんだ」
瑞希は荷物をまとめ、農場を出ようとした。
しかし、その夜、百合子が部屋にやってきた。
「逃げるの?」
百合子の言葉に、瑞希は何も言い返せなかった。
「私だって昔は何度も失敗した。けど、そのたびに誰かが手を貸してくれたのよ。あんたにも、そういう人がいるって気づかないの?」
その言葉に続いて、村の人々が作業場に集まり、瑞希の手助けを申し出た。
瑞希は驚きとともに、自分がここで受け入れられていたことを初めて実感した。
それからの瑞希は変わった。失敗を恐れず、困ったときには助けを求めるようになった。収穫祭の日、瑞希は自分の育てた野菜を誇らしげに並べ、人々と笑顔で語り合った。
都会を逃げ出してきた瑞希だったが、今では「逃げ場」ではなく「居場所」を手に入れた。そして何より、再び自分を信じられるようになったのだ。
「白い場所」は、瑞希の人生を塗り替える始まりだった。
続編に続く。