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【小説】再起の光-続編

収穫祭が終わった夜、瑞希は星空を見上げながら一人で農場を歩いていた。
収穫祭で感じた温かさがまだ心に残っている。
笑顔で自分を褒めてくれた村の人々の声が耳に蘇るたびに、瑞希は胸の奥がじんわりと温かくなった。

しかし、その感覚の裏には一抹の不安もあった。
この生活は本当に続くのだろうか?自分がまた失敗をして、すべてを台無しにしてしまうのではないか?瑞希は、自分が手に入れたばかりの新しい居場所を守れるのかが怖かった。

そんな思いを抱えながら農場の小屋に戻ると、百合子が待っていた。農場の帳簿を広げながら、古い眼鏡の向こうからじっと瑞希を見つめている。

「瑞希、少し話せる?」

瑞希は頷いて、百合子の隣に腰を下ろした。

「正直に言うけど、あんたが最初にここに来たとき、長く続くとは思わなかった。都会の人間は、うちのようなところには馴染めないことが多いからね」
百合子は小さく笑った。その声には皮肉よりも優しさが込められていた。

「けど、収穫祭のときのあんたの顔を見て、変わったなって思ったよ。この村の人たちに頼られるだけじゃなく、頼ることもできるようになったんじゃない?」

瑞希はその言葉に驚いた。
自分では気づいていなかったが、百合子の言う通り、以前の自分なら失敗を一人で抱え込み、逃げ出していたに違いない。
それが今では、村の人々と助け合うことが自然にできるようになっている。

「でもね、これからはもっと考えなきゃいけないことがある」
百合子は、帳簿の数字を指差した。

「この農場は長くやってきたけど、正直、もうギリギリだ。人手も足りないし、作物の売り先も少ない。あんたにこれ以上迷惑はかけたくないけど、もし協力してくれるなら、一緒に考えてくれないか?」

瑞希は戸惑った。
これまでの生活では、与えられた仕事をこなすだけだった。それ以上の責任を持つことには不安があった。

だが、百合子の真剣な眼差しを見ていると、瑞希の中に何かが芽生えた。
「この場所を守りたい」という思いだった。

翌日から、瑞希は百合子と共に農場を改善するためのプランを立て始めた。
最初に取り組んだのは、村外での販売ルートを探すことだった。
瑞希はスマホを使って、地元の農産物を取り扱うオンラインショップやイベント情報を調べた。都会では当たり前だったインターネットを活用する方法を、百合子や村の人々に教えると、みんな興味津々で話を聞いた。

「瑞希、こんなこともできるんだな!」
村の青年がそう言って驚いた顔を見たとき、瑞希は初めて自分の経験がこの場所で役に立つと実感した。

ある日、瑞希たちは小さなマルシェに出店することを決めた。村で採れた野菜を持っていき、都会の人々に直接売るという試みだった。瑞希は最初、うまくいくのか不安だったが、いざ出店してみると、多くの人が興味を持って足を止めた。

「こんなに美味しそうな野菜、都会では見かけませんよ」
「農場に泊まる体験とか、やってみたいです!」

予想以上の反応に、瑞希は驚きつつも喜びを感じた。
特に「農場体験」に興味を持つ人が多かったことに目をつけ、瑞希は新たなアイデアを思いついた。

村に戻ると、瑞希は百合子と相談し、「農場体験プログラム」を始めることを提案した。
都会からの観光客を受け入れ、農作業を手伝ってもらいながら、収穫の楽しさや自然の魅力を伝えるという計画だ。
百合子は少し不安げな顔をしたが、瑞希の熱意に押されて同意した。

最初の体験客が来た日は、瑞希も百合子も緊張していた。
だが、都会から来た親子連れや若者たちは、泥だらけになりながらも笑顔で作業に励み、夜には星空を眺めながら感謝の言葉を伝えてくれた。その姿に、瑞希は自分たちがやってきたことが間違いではなかったと確信した。

数カ月後、農場には新しい風が吹いていた。収穫物の売り上げは少しずつ伸び、村に訪れる。


続く。

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