移行している最中の世界を体験し、新しい世界を描く 〜経済〜
前章の「移行している最中の世界を体験し、新しい世界を描く 〜不足・分離の在り方・意識〜」では、わたしたちの根底にある意識を見てきました。
本章では、不足・分離といった「恐れ」が土台になった旧来の意識がつくりだしている、いまの経済を見ていきたいと思います。
Photo by julian meehan 〜School Strike for Climate Melbourne 30-11-18〜
世界の富裕層2,153人の資産が最貧困層46億人分の資産を上回る
出典:forbes,AFP photo,Getty images
イギリスを本拠とする国際的なNGO「オックスファム」は、2020年1月20日に世界のビリオネア(10億ドル以上の資産を持つ人)の数が過去10年間で倍増し「世界の富裕層の上位2,153人の資産が世界の総人口の6割にあたる46億人分の資産を上回る」という最新の報告書を出しました。
また、国連と世界銀行が実施している貧困の統計によると、世界の人口の半数に相当する30億人を超える人々が、貧困の基準である1日2.50ドル(約280円)未満で生活しており、さらに極度の貧困の標準である1日1.25ドル(約140円)未満で生活する人が少なくとも13億人いると報告しています。ユニセフは1日に22,000人の子どもが貧困(飢餓や医療の不足)によって亡くなっていると計算しています。
これらの数字があらわしていることは、経済の不平等さです。
同じ地球上で、これほどの格差が起きているのは、私にとって衝撃でした。では、どんな経済がいまの土台にあるでしょうか。
成長推進経済モデル
現代の経済は、「成長が社会にとって善であり、必要である」という神話のもとに成り立っています。
経済学者や政治家は、貧困から人々を救い出すために成長が必要であるといいます。
しかし成長によって創出された新たな所得は、人口の60%を占める貧困層にはわずか5%しか届いていません。人々の生活を向上させるためには、極めて不十分です。さらに、現在の成長推進経済は、市場の飽和、資源の枯渇、気候変動、といった様々な問題を引き起こしています。
それを知りながら、まだ私たちは、経済において「成長」を基盤とした制度設計に依存しています。
成長推進経済の負の部分
成長推進経済においては、「利益の最大化」が最優先事項となり、そのために「効率化」が求められます。
労働者の生産性を上げるために、労働者の拘束時間を最大限に利用して価値を絞り出すような制度にしています。そして生産性が上がったことによって、労働者は一時解雇されて失業率が上がります。
次に、現在の成長経済を維持する設計の大きな要因として、「債務」があります。債務には利子が発生しますが、その利子は複合的な機能を持ちます。個人も企業も時には国家でさえ、債務の返済の利息を払うために、成長が必要になっている場合があります。もし発展途上国で経済が少なくとも、2〜3%成長し続けなければ、経済は危機に陥ります。債務を支払うことが出来ずに、企業は破産し、人々は職を失います。
成長推進経済モデルを表現している最たる指標がGDP(国内総生産=国内で一定期間の間に生産されたモノやサービスの付加価値の合計金額)です。このGDPという指標は、「もうけ」だけに焦点を当てたものです。環境破壊、格差の拡大などあらゆる犠牲を払って私たちが依存し手放せなくなっている指標です。しかし、この「もうけ」だけの指標も、コロナウイルス感染拡大とともに、戦後最悪な水準に落ち込みました。
日本におけるGDPは、令和2年4~6月期の成長率が前期比マイナス21.8%(年率換算)となり、減少幅はリーマン・ショック後の平成21年1~3月期(17.8%減)を超えています。
「もうけ」を追う制度だけでは、国民の生活が成り立たなくなっています。「成長」を優先するか、「いのち」を優先するか、文明の選択をする時期が訪れています。
新しい指標GPI(Global peace index)
GDPに変わる新しい指標として注目されているのが「GPI」です。GPIは95年にアメリカで開発された国民生活の真の豊かさを図ろうとする指標です。
われわれの幸福度には家庭や地域など市場外で生み出される価値(家事労働や育児、介護、ボランティア活動など)が大きく関与しています。また、市場取引の中には幸福度にとって直接プラスにならない取引(環境破壊の修復・防止コストやテロ・犯罪防止のためのコストなど)もあります。そこで、幸福度に寄与する市場外の取引を加え、寄与しない市場の取引を差し引くことにより幸福度向上につながる活動に限って集計したものがGPIです。
ブータン、スコットランド、スロベニア、コスタリカ、ニュージーランドのような国々はすでにGPIを用いています。
わたしたち一人ひとりの生活における真の豊かさは、物質的なモノだけに依存しているわけではありません。モノが取引される市場以外の、人と人とのつながり、コミュニケーションのなかで起きる豊かさを表現している指標であり、新しい世界を設計する上での、重要な指標です。
貧困を終わらせる制度
これに至るアイデアは世界から多種多様に出されています。たとえば、世界的な最低賃金制を導入したり、国際労働法を強化したり、富と権力をより公平にできるように所得や富に上限をかける制度等です。従業員所得の協同組合を奨励したり、出資したりすることも可能です。
債務について
経済推進成長モデルに組み込まれた債務の循環を断ち切るには、支払い不能な債務を帳消しにするか、民間の債務帳消しサービスを利用するか。また利子が最初から組み込まれていない新しい貨幣制度も、全く新しい世界の枠組みをつくる良い機会になるかもしれません。
グリーン・ニューディール
写真:グリーン・ニューディールを推進するアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員
2007年頃から始まった「グリーン・ニューディール」というアイデア。環境政策を刷新するだけでなく、大量雇用を生み出す政策であり、大恐慌時代のニューディール政策にちなんで名付けられました。
基本的なアイデアは、2035年までにエネルギー供給を100%再生可能エネルギーにすることであり、新しいエネルギーインフラ建設のために、労働者を投入するというものです。経済と気候に関する世界委員会による最新の研究では、もし私たちが持続可能な開発に移行すれば、世界的にみて、26兆ドルの節約になる可能性があることが示されています。別の最新の研究では、風力発電と太陽光発電は、世界中で最も安価な電力供給源であることを示しています。2016年、テキサス州ジョージタウン市の共和党の市長は、エネルギー供給を100%持続可能なエネルギーに移行しました。長期的にみてコストが安くなるからです。
影響力のある一部の投資家たちは、持続可能エネルギーを保持する企業への投資を積極的に実施し、化石燃料など古いエネルギーを保持する企業への投資を引き上げています。
この「グリーン・ニューディール」は、新しい経済活動の柱になり得ると期待されています。
豊かさ
わたしたちの意識が、「不足・分離」の意識から、「充足・和合」の意識へ向かうと、根本的な制度づくりに転換します。
いままでつくりだしてきた価値観は、世界中で不必要な大量の苦しみを生み出し、文明崩壊を招き、限界を迎えています。いままでの、この古い価値観をいま認識することが、わたしたちにとって、重要です。
地球という豊かな惑星のもと、わたしたちは相互依存をしています。
関連している生命体であるということを今回のコロナウイルス禍によって、気付かされています。
共同体としてどう生きるかを考えて行動していくことは、人類と地球が共存することにつながっていくのです。
Photo by coockiejr 〜Savanna shade〜