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移行している最中の世界を体験し、新しい世界を描く 〜政治〜

写真:2019年3月NZで起きた悲惨なテロの後に事件の現場を訪ね、ムスリムコミュニティへの深い連帯の念を示したアーダーン首相 Photo: Hagen Hopkins/Getty Images

「移行している最中の世界を体験し、新しい世界を描く」 ですが、これまで「生活様式」、「意識・在り方」、「経済」まで見てきました。
本章では「政治」に焦点をあてます。

良い政府とは何か

「意識・在り方」編で触れたように、「分離」という意識を土台にした「自国第一主義」が、顕在する一方、「和合」を土台にした政治も顕在しています。
ニュージーランドのアーダーン首相は、「和合」を土台にした政治家です。ニュージーランド政府は、2019年5月末、幸せをコンセプトにした予算「ウェルビーイング・バジェット(幸福予算)」を発表しました。
首相は、「経済的な幸福だけではなく、社会的な幸福にも取り組む必要がある」と述べ、国の財政運営への新しいアプローチとして策定しました。

彼女は、2019年7月18日にオーストラリアのメルボルン市庁舎での演説で下記のように述べています。

良い政府は大切である。なぜなら政府はあらゆることに影響を与えるからである。我々は人々の毎日の生活に影響を与えている。我々は彼らの環境に、仕事に、賃金に、健康に影響を及ぼす決定を下している。
我々にできる一つのことは、「繁栄」という概念が意味することを大きく拡大してみることである。もし国家が30年間、経済的に成長してきていても、もし大勢の人々がその恩恵を感じていないなら、真に前進しているといえるだろうか。
もし国家が比較的高いGDP成長率を誇っているにもかかわらず、我々が大切にしてきたこと、例えば子供の健康管理や、すべての人への温かく乾燥した家や、メンタルヘルス行政サービス、泳ぐことができる川や湖などを、ないがしろにしているのなら、良くなっていると言えるだろうか。
今は難しい時代なのかもしれないが、政治は善に向けての変化、崩壊、勢いの場所になり得ると、私は確信している。(ニュージーランド首相・ジャシンダ・アーダーン氏)

一部の経済的な側面のみを捉えて「繁栄」している、と盲信してきた私たちですが、その裏側で、経済格差・貧困、終わらない紛争やテロ、心身の病気の進行、環境破壊などの問題が広がりました。
裏側に焦点をあてると、人類はあきらかに「繁栄」ではなく「後退」しています。
いままで見て見ぬふりをしてきたこの事実ですが、奇しくも新型コロナウイルスによって、直視する機会になりました。

シンガポール、コロナウイルス感染拡大の第二波

人口580万人のシンガポールは大規模な濃厚接触者追跡など、早期から対策を打ち出し抑え込みに成功したとみられていましたが、同国に100万人以上いる外国人の出稼ぎ労働者の間で感染が拡大しました。
同国の新型コロナ感染者は5月11日までで2万3千人強、うち9割が寮に住む外国人労働者です。
彼らは、インドやバングラデシュから出稼ぎにきており、主に建設作業員として働いています。彼らは、2段ベッドが並ぶ相部屋で、トイレや洗面台を共有し、寝泊まりしています。
シンガポール政府による初期の対策では、国の20%弱を構成する外国人労働者を検査対象から外していました。新型コロナウイルスによって、露呈されたのは、弱者を見落とす国の社会構造です。
あれだけ繁栄しているイメージのシンガポールの裏側を象徴するような事象でした。
私がシンガポールで暮らした数十年前も、建設現場で働く浅黒い肌の人たちは、街中にたくさんいました。彼らの休憩中に私がそこを横切ると、子供のわたしに笑顔を向ける人懐こい様子を思い出します。
彼らが脆弱な社会基盤の上で生きていたことに、わたしは衝撃を受けました。

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バケツを手に、食べ物の配給を待つインド、中国からの労働者。この宿泊施設は集団感染が発生して隔離された。4月6日、シンガポールで撮影(2020年 ロイター/Edgar Su)

だれひとり取り残さない世界

ニューヨークの国連本部で「国連持続可能な開発サミット」が開催され、150を超える加盟国首脳の参加のもと、その成果文書として、2015年9月に採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。
17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
「誰一人取り残さない」世界は、シンプルです。
衣食住が保証され、心身ともに健康であること。教育や福祉がすべての人に届き、環境にやさしい暮らしをしていること。

前述したアーダーン首相が策定した幸福予算は、それを実現しています。

子供たちの政策提言「和合と充足」

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アトランタにあるジョージア州会議事堂の前で、声をそろえてスローガンを叫ぶ生徒たち。PHOTOGRAPH BY ESME BELLA RICE  Mar 2019

大人がいかに、自分さえ良ければ良いという分離と不足を土台にした利己的な意識にあるかを、わたしが実感した『ガーディアン紙』の記事を紹介します。

2018年12月にケンブリッジ大学政治学部部長のデイビット・ルンシマン教授は、現在の民主主義における年齢の偏りを正すために、6歳以上の子どもたちに選挙権を与えるべきであるとする革新的な提案を行いました。
「6歳の子どもに選挙権を与えるというこの考えは、極端に聞こえるし、疑いなく広範囲の拒絶反応を呼び起こすであろう。だが、たいていの国での標準年齢である18歳を引き下げ、子どもに選挙権を与えることについては、強力な民主主義的議論もまた巻き起こるだろう。」

このルンシマン教授の提案に呼応して、『ガーディアン紙』は、6歳から12歳までの子どもたちに、「どのような政策について、あなたは賛成票を投じるか」を尋ねました。
その結果、彼らの知的で正直な答えは、驚くべきものでした。
彼らは、和合と充足を土台にした利他的な意識で、心から正直に何ものにも妨げられず政策提言をしたのです。

10歳の英国在住のトーマス・アトキンソン君は「ある日ぼくは、見知らぬ人が路上に座っているのを見ました。その人は、20歳くらいでした。彼には仕事と家が必要です。必要とされる仕事はたくさんあります。例えば、バンゴール市の海岸周辺一帯にプラスティックゴミが散乱しています。これを取り除く人が必要で、彼はその仕事ができると思います。」と述べました。

同じく英国在住の9歳のトム・アッシュワース君は、こう述べました。「気候変動は政治家が何とかしなければならない大問題です。でも私たちは起こるのに任せていて何もしていません。わたしたちは気候変動を起こす原因を取り除かなければなりません。・・・私たちは食べ物の浪費、あらゆるものの浪費をやめなければなりません。」

子どもたちは、非常にシンプルに「誰一人取り残さない(leave no one behind)」考えを示します。

誰かの利益を優先する考えや、経済的な繁栄だけを考えた政策は、コロナ禍においては、露呈します。国民が自分たちの「いのち」が政府に左右されることを知り、「いのち」最優先の政治を要求し、政治家たちを見張っているからです。

老子の言葉〜最上の指導者(リーダー)〜

老子の言葉を紹介します。
加島祥造氏が詩のように意訳をした老子の言葉、筑摩書房 『タオ』より

最上の指導者(リーダー)
道(タオ)と指導者(リーダー)のことを話そうか。
いちばん上等なリーダーってのは
自分の働きを人々に知らさなかった。
人々はただ
そんなリーダーがいることだけを知っていた。
その次のリーダーは
人びとに親しみ、褒めたたえられ、
愛された。
ところが次の時代になると、
人びとに恐れられるリーダーが出てきた。
さらに次の時代になると、
人びとに侮られる人間がリーダーになった。
ちょうど今の政治家みたいにね。

人の頭に立つ人間は、
下の者たちを信じなくなると、言葉や規則ばかり作って、それで
ゴリ押しするようになる。
最上のリーダーはね
治めることに成功したら、あとは
静かに退いてみている、
すると下の人たちは、そのハッピーな暮らしを
「おれたちが自分でつくりあげたんだ」と思う。
これがタオの自然にもとづく政治であり、
これは会社でも家庭でも
同じように通じることなんだよ。

まさに利他の精神にのっとった指導者の在り方です。





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