わらじ荘の荘長すみえちゃんのこと。
すみえちゃんに会いに行く。
ふと見ると、道端の草の合間をモンシロチョウがひらひら飛んでいる。
あ、と足を止める。チョウは徐々に近づいてきて、触れることができそうな距離まで。そのままじっと見つめていると、また少しずつ遠くに向かって飛び去っていく。なんだか少し良い気分になって、私はまた歩き出す。
すみえちゃんを見ていると、そういうちいさな「うれしい」と同じ気持ちになる。派手さはないけれど、よく気がつきよく動いて。その姿に、何かひとことねぎらいの言葉をかけたいな、と心が動く。
大学3年生のすみえちゃんは、わらじ荘初期メンバーのひとり。これまで1対1でちゃんとお話したことがなかったのだけれど、すみえちゃんがわらじ荘の荘長になったと聞き、会いに行くことにした(ちょうど、9月9日~11日と、すみえちゃん主導で昼間は喫茶、夜はスナックをやるという小規模イベントの告知が出ていた)。
それまでの印象から、縁の下の力持ちというか、影のサポーター的存在に映っていたすみえちゃんが、どういう心境で荘長になったのか知りたかったから。
冷たい豆乳ラテをオーダーしつつ、「ちょっとお話を聞きたいのだけど、いい?」と尋ねると笑顔で答えてくれた。外は残暑の陽射しが照っているけれど、カルペの空間は風が通って気持ちがいい。
弁天町をもっと好きになろう
ーすみえちゃんは、いつからわらじ荘の荘長になったの?
「8月20日に荘長会議があって、私がやりますって。あんなさんが全体を見るために、私がわらじ荘の荘長になりました。やっていることは、当番を決めたりお金の管理をしたり…こまごまとしたことです」
ーじゃあ、リーダーというよりはマネージャー的な役割。
「そうなんです。あんなさんへの憧れの気持ちもあって。あんなさんはたくさんの人を惹きつけるリーダー。だけど、私はそうじゃないしみんながそうなる必要もないと思って。あんなさんがリーダーとして突き抜けていくために、私は荘のマネージメントをして支えていけたら」
確かに、すみえちゃんにはマネージャー的素質があると思う。NHKのロケで、みんなでみなも荘の建物を掃除した時、「今すみえが掃除道具取りに行ってくれてます!」。キャンドルナイトのイベントへ行った時も、「すみえ、あれはどこにある?」「すみえ」「すみえ」あちこちから呼ばれ、頼りにされている印象だった。
「そうですね、いろんなことに気が付くので頼りにしてもらっている面はあるかもしれないです。逆に、わらじ荘で生活を始めて、『気にならない人もいるんだな』って思いました」
ーすみえちゃんはいま、わらじ荘をどういう風にしていきたいと考えているのでしょう?
「8月30日にイベントをやったのですけど。たくさんの方が来てくれて、でもふと『あれ?弁天町の人は?』って思ったんです。そうしたら、意外と弁天町のご近所の方は来ていなかった。」
「それで、もっと弁天町の方たちと関わりたい!弁天町をもっと好きになろうって思ったんです。例えば近くを歩いていたら、『こんにちは』ってご近所さんと挨拶できるように。ああ、挨拶できたって、それでその日が良い日になると思うんですよね」
大きなイベントを成功させてたくさんの方に来場してもらえるのは喜びに違いないけれど。わらじ荘のように生活と活動が一緒になっている場合は、すみえちゃんの言うように「毎日の小さな交流」「ご町内規模のおつきあい」というのはとても重要だと思う。そこを大切にしようというのは、とても良いこと。
「毎日を大切に過ごしたい」
ーすみえちゃんといえば、ヨガのインストラクターができるレベルで、古布をリサイクルして小物を作ったり刺繍をしたりしているのよね。個人として「やりたいこと」というと、そのあたり?
それもそうなんですけど、私は毎日を大切に過ごしたいと思っています。丁寧に暮らしていきたい。それにプラスして、弁天町の人たちと仲良く生活したいというのが今目指していることです。
のびやかな笑顔で語ってくれるので、こちらまでうれしくなってしまう。確かに、古民家を再生させたわらじ荘の建物に、地元の食材が手に入る環境、海や山の自然がすぐそばにある暮らし。毎日の食事や生活習慣を「味わいながら」生活するというのも、あらためて素敵なことだと思う。
ー私自身がすみえちゃんと初めて会ったのは、わらじ荘におすそ分けのエビとホタテをもらいに来た時だったと思うのだけど。その時は、落ち着いた口調の子だなぁとは思ったけれど、今のすみえちゃんから受ける印象とは正直違っていた。外見的にも、いきいきしているというか、変わった気がするのだけど?
「変わったねって、すごく言われます。久しぶりに会った知り合いに、『なんか雰囲気変わったね!』って」
最後に、卒業後のことはどう考えているか尋ねてみると
「もう少しここにいたい。NPOを立ち上げて活動をしたり、今お金の勉強をしているので資格を取ったり……大学に入って1、2年生の時は国際系の勉強をして関心がありましたけど、わらじ荘で暮らすようになって『地域』に興味が出てきました。ゼミでも地域コミュニティなどについて勉強しています」
と答えてくれた。
地に足のついた活動。丁寧に毎日を使うこと。仲間と助け合っていくこと。
ありがとう、とお礼を言って、わらじ荘を後にした。すみえちゃんの話を聞いてとてもすがすがしく、「今日はいい日だな」と思いながら。