絵本『八郎』斎藤隆介
『八郎』
斎藤隆介 作
滝平二郎 画
福音館書店 1983年12月25日 第37刷
自分にとって特別な意味を持つ作品です。斎藤隆介先生の朗読(というよりは、印象としては自作自演の独演会)を、ほとんど偶然の機会から、二度も体験しました。肉声による再現の逞しさを感じました。活字を目で追うだけでは、この作品が秘めた力の、何分の一しか再生できないようです。
一度目は、東京の児童文学の創作の会でした。日本児童文学者協会の主催。1971年か72年のこと。松谷みよ子先生の話もきくことができました。「創作は鍋で煮込むようにコトコトコトコトと作ります。」そのあとが、斎藤先生の番です。前半の講演の内容は、残念なことに覚えていません。後半が「八郎」の朗読でした。
東北弁の力強さが印象に残りました。斎藤先生は孤独な巨人にみえました。そんなに大声を出したとは今は思えません。しかし、当時は、巨人の咆哮をききました。ガラス窓が、びりびりと振動しました(そんな気がするのです)。悲しい話でした。特に小さなわらし子が、何が起こっているのか分からずに、拍手しているところでは、不覚にも涙がこぼれました。何度も、読んでいたはずなのに。
齋藤先生は、そのあとは原稿の仕事があるからと、そそくさと帰っていきました。万雷の拍手に送られていました。
声に出して、初めて完成する作品があるのです。朗読の重要性を認識した体験でした。
イラスト/せん
註 上記の文章は、大幅に書き換えてあります。作者の公的な活動ではない私的な生活の一部を、公開してしまったのではないかと判断しました。訂正します。