絵本『つつじのむすめ』松谷みよ子
『つつじのむすめ』
松谷みよ子/文
丸木 俊/絵
あかね書房 1974年11月 初版発行
絵本の中には、小学校の図書室の棚の片隅で、自分を必要とする子どもがやってくるのを、息をひそめて待っているものがあります。教会の天使の像のように。
この絵本は、そんな一冊です。
松谷みよ子は、女性に普遍的な物語を、昔話の中に洞察します。
若者に会いたくて、山を五つも越えて走った娘の激しい思いが、つつじの赤い炎の色に象徴されています。丸木 俊の、赤い染料をあやつる奔放な筆づかいが、印象的な効果をあげています。
愛といい、あるいは人を恋しいという思いは、恐ろしいものです。自分では制御できない巨大な花が心に炎えています。そのことに、ある日、あるとき少女は気づいてしまうのです。
恋愛に直面したいとしげな少女の孤独な心を、この絵本は待ち構えています。受けとめてくれます。
おかあさんにも、友だちにも、相談できません。
赤いつつじの花の咲き乱れる光景を、図書室の少女は、ひとり見つめるのです。