水素結合していないグアニン選択的にacetonyl修飾する

Lee, YH., Yu, E. & Park, CM. Programmable site-selective labeling of oligonucleotides based on carbene catalysis. Nat Commun 12, 1681 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-21839-4(OPEN ACCESS)

核酸を化学修飾すると何がいいの?

SARS-CoV-2のmRNAワクチンで広く知れ渡る言葉となった核酸医薬ですが、核酸は生体内で分解されやすいという特徴を持っており、何かしらの方法でうまく患部に届ける必要があります。こういった技術をDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)といいます。

核酸医薬のDDSの主流な方法の1つにはmRNAワクチンの例のように脂質ナノ粒子(LNP)と呼ばれるナノサイズのカプセルに核酸を封入して酵素による分解から保護する方法があります。これはナノ粒子に封入する加工に時間がかかったり、完成したナノ粒子1つあたりに核酸医薬が何個入っているのか等の均一性を担保するのに品質課題があったりします。(上市されているものは苦労しながらもうまくやられているのでしょうが。)

核酸医薬のDDSには他に、核酸そのものに道案内人のような分子を化学結合でくっつけて、患部にいち早く届けることで分解を防ぐような方法もあります。これは案内人分子と核酸が1:1で結合するので、均一性という意味でメリットがあります。これを実際に行っているのがAlnylam社のGalNAcコンジュゲートです。核酸分子にGalNAcという糖を化学的にくっつけることで、肝臓への医薬品の到達を速めて血中での分解を防ぎます。

上記のように核酸分子に何かをくっつけるためには、前もって準備が必要です。具体的には、核酸合成をする段階で、くっつけるためのきっかけとなる部分を作っておいたり、特殊な核酸を入れておいたりする必要があり、少し事前準備と手間がかかります。なんかここに1つ核酸転がってるんだけど、とりあえず何かつけたいな〜と思っても実際はゼロから合成する必要があるわけですね。

今回の論文は、Rh(ロジウム)と呼ばれる金属触媒とジアゾアセトンから生まれるロジウムカルベノイドという化学種を用いることで、天然型の核酸を構成する特定の一部(グアニン)選択的に官能基を核酸修飾することができる、という論文です。

論文概要

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Fig.1より引用

・核酸は自分の持つ塩基を使って、分子間、分子内で水素結合を作ることができる。AとTまたはGとC(U)が水素結合をするのに相性が良いと言われている。水素結合をすることで、核酸は高次構造をとることができる。例えば完全に対応する塩基を持つ核酸のペアは螺旋状の2本鎖核酸を作る。

・実際には2本鎖核酸以外の構造もとることができ、例えば一本鎖が折れてヘアピン構造をとったりする。ヘアピン構造の折れ曲がった部分をloopとよぶ。2本鎖も完全に配列がマッチしていないと「浮いた」(Bulge)領域ができたり、端っこが余ったり(overhang)する。これらの領域の核酸塩基は、水素結合に関与していない。

・本反応では、上記のような水素結合に関与していないグアニン(G)と呼ばれる塩基のみに、アセトニル基を結合させる反応である(図1)。A、T、C(U)には反応しないし、水素結合で塩基ペアを作っているGにも反応しないというのがミソである。

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Fig. 5より引用

・試薬としては[Rh(cod)Cl]2と、ジアゾアセトンが用いられる。THF-バッファーの混合溶媒で反応が進行する。ジアゾアセトンとロジウム触媒でロジウムカルベノイドが生成し、グアニンのO原子のみがカルベノイドと反応ができる。フリーのグアニンがない場合は反応しない(7p)。

・overhang、bulge、loopなど様々なグアニン塩基に大して、70%以上の収率で反応が進行している。bulgeのように1塩基過剰にあるわけでなく、ただのmismatchの場合には、収率は20%程度と低い(8k)。

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Fig.7より引用

・アセトニル修飾した部分には、ヒドロキシルアミンを作用させることでケトオキシムを形成し、コンジュゲートを作ることができる。文献では蛍光分子を導入している。また、還元的アミノ化条件でlysateと混合させることでタンパク質のアミノ基とacetonyl基と結合させて、核酸-タンパク質の相互作用を検出する系としても利用できる可能性が示されている。

所感

・天然型のオリゴヌクレオチドの塩基特異的に修飾ができることはすごい。Open air、水系Buffer存在下で遷移金属触媒反応がここまでキレよく実現できているのには拍手。事前に配列をデザインすれば完全に位置選択的に修飾が可能なのもすばらしい。

・標的核酸にPS(ホスホジチオエート)結合が共存したときにRh触媒活性が失われてしまわないか?

・ジアゾアセトンが市販されていないので、何か類似でいい感じの試薬があると便利かもしれない。





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