【詩集の自費出版の事例】汐海治美『詩集 宙ぶらりんの月』
~乳ガンの体験から生み出された
命との対話~
著者汐海治美さんは、仙台在住で、
聖ウルスラ学院英智高等学校の副校長先生であり、
同校の文芸同好会顧問として、生徒と共に詩や俳句を創り、
また詩人武田こうじ氏とポエトリー・リーディングを開催されています。
本書は、昨年秋に乳ガンが発見され11月18日に入院、手術そして12月初旬に退院するまでの2週間あまりの間に書かれた詩集です。
もう昔みたいに、
一晩うなって一字も書けないなどということもなく
いくらでも言葉は出てくる
それは確かに薄っぺらなのだけど
自分自身の人生がそうであるから仕方がない
生徒にいつも言うように
「この一行は本当に必要か」と自分に問いかけると
「この一行」は恥ずかしそうに身をくねらせて
消えていくのだ
そのうち一晩うなって一字も書けないなどということもなく一行も残らなくなっていくらでも言葉は出てくる無言のままに、私の人生だけが自分自身の人生がそうであるから仕方がない立ちすくんでいる
消えていくのだ
消えていくのだ
消えていくのだ
消えていくのだ
「11月19日(水) 手術の日」の文章から一部抜粋
この詩集は、36ページの「薄い」詩集ですが、
書かれた作品を読めば「薄っぺら」どころか、
濃密な生の息づかいが聞こえてきます。
友よ
私に書く資格はあるか
たかが、乳房一つ失って
書く資格はあるか
何かと引き換えに
神々しいものを
受け取る人もいる
「11月22日(土)」より一部抜粋
自らの命と向き合う非日常の体験は、
詩人をして、他者にも命の手触りを感じさせる見事な詩を紡がせた、
と言えるのではないでしょうか。