ドワーフの鉱物症候群【短編小説】
ドワーフの日記より抜粋
これを「ミネラルシンドローム」と名付けて
少しづつ研究することに決めた。
まずは標本作りをろうそく屋に頼むとするか。
鉱石の採掘も始まるし
忙しくなるな…
Ⅰ
この世界は広く、まだ全体像の地図は完成していない。
命の続く限りこの世界を冒険し
謎を解明するのが一族の定め。
自ら大賢者と名乗ってはいるものの
自分より知識のある生き物が
この世界のどこかにいるかもしれぬ。
その時は潔く
情報を共有し合おう。
そんなことでまた争いが起きてしまっては
この世界も長く持たない。
Ⅱ
採掘場から珍しい地層が出たと報告があった。
知らせを受けた採掘場は
水の地区から遠く離れた西の果てにあるが
青い地層が出たという。
青い地層は水の地区に多く
水の成分を豊富に含んだ物質が多い。
他の地区で出ることはあまりないことで
新しい物質や危険なものも多い。
急いで見に来てみると
青以外にも、色とりどりの美しい地層が顔を出していた。
Ⅲ
しばらくそのあたりを調査すると
この土地にはありえない地域の土や鉱物が
やせた土地の一角に顔を出した。
四角く切り出せば
なんとも美しい標本となるだろう。
誰かに見つかれば
たちまちこの綺麗な物質は
根こそぎ掘り起こされてしまう。
それはいけない。
この世界の謎を解くカギとなるかもしれぬ
不思議な地層は守らねばならない。
ただ、そう思った自分でさえも
心が奪われて吸い込まれていくような
堕落してしまうようなこの感覚は何だ?
まさか、これにも何か魔力が宿っているというのか?
たまらず、この世界の力を抑えることのできる
あの男を呼んだ。
Ⅳ
「あらあら、珍しいじゃない」
いつぶりかなぁ
助けてと言われるのは
楽しそうな声が聞こえた時は
私の意識は宙を舞い、
何とも言えぬ心地よいまどろみに包まれていて
もう目を開けていられない。
「これは僕の力じゃ抑えられないね」
その魔法使いはなぜか楽しそうに言った。
この数と、この強さの香りは
ちょっとキツいよねぇ、何千年も生きてる身体には…
そんな言葉が聞こえて
私は少しだけ意識を失った。
Ⅴ
ほどなくして意識は元に戻ったが
そこにはもう
美しい鉱物の地層は見えない。
「魔法じゃなくてただのニオイだね」
危ないから地層はふさいでおいたよと
魔法使いは言った。
濃縮された様々な香りが
あの美しい鉱物と共に外に出たようだ。
少しの香りなら安らぎを与えるものも
強すぎたり体に合わなかったりすると
毒となる場合もあるのか。
「香りには好き嫌いもあるからね
いい匂いも、強すぎたり好みじゃないと
今みたいに具合悪くなるから気をつけてよね」
何事もほどほどにね、
また見たい時は僕を呼んでよ。
そう言って
やつは魔法陣の中に消えていった。
end
ニオイとは不思議なものだ。
癖になる香りとあの煌めきが
未だ脳裏から離れない。
その昔、ここで何があったのか
研究はまだ始まったばかりだ。