宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務①「ガス」
このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。
今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」。
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年1月号』より、生活関連施設の調査④「ガス」を掲載します。
生活関連施設の調査④「ガス」
今回は生活関連施設の最後として、ガスについて解説する。ガスの調査についても他の生活関連施設と同様に、①直ちに利用可能な施設かどうか、と②相手方に発生する費用負担がポイントとなる。
■1.ガスの種類
ガスの種類は、一般に都市ガスとプロパンガスに分かれる。家庭や産業の一般的な需要に応じて供給するガス事業には、主にガス事業法(昭和29年公布)の対象となるガス事業と、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」(昭和42年公布。以下、「液石法」という。)の対象となるLPガス販売事業がある。資源エネルギー庁の調べによれば、販売比率はガス事業が約66 %、LPガス販売事業が約34%となっている(2013年3月時点)。
ガス事業法については、17年4月のガス小売全面自由化により、都市ガス事業(旧一般ガス事業)について、他社との契約や自社の小売部門の要請に基づいてガスの製造を行なう「ガス製造事業」、ガス導管網の維持運用・敷設・保守などを行う「一般ガス導管事業」、ガスを供給・販売する「ガス小売事業」という新しい事業分類になっている。
これが改正前の旧ガス事業法では、ガス事業は「一般ガス事業」と「簡易ガス事業」に分かれていた。このうち簡易ガス事業は、昭和45年(1970年)に改正・施行されたガス事業法改正により創設された制度である。当時、都市周辺部で急激に増え始めた住宅団地にLPガスを導管で供給する「導管供給方式」が各地で採用されるようになった状況を受け、70戸以上の団地に対する導管供給事業を、公益事業としてガス事業法の対象としたものである。
従って、ガスのうちプロパンについては液石法の適用を受ける個別のプロパンと、旧ガス事業法の簡易ガス事業に基づく集中プロパンとに分かれる。以下、物件調査の観点からプロパンガスといえば前者の個別プロパンを指すこととする。
■2.都市ガス供給エリアかどうか
ガスの調査にあたっては、まず利用可能な施設が①都市ガスか②プロパンガスか、または③その両方が利用可能かどうかを特定しておく必要がある。このため、調査にあたって「都市ガス供給エリアかどうか」を確認しなければならない。
⑴ガスの種類の説明誤りによるトラブル
ガスに関する最も多いトラブルは、使用できるガスがプロパンガスにもかかわらず、誤って都市ガスと説明してしまうケースである。このようなトラブルは現地確認とガス事業者に確認すれば防ぐことができる基本的な調査事項である。
都市ガスとプロパンガスとを間違えて説明して紛争になるのは、主に「料金体系の違い」である。都市ガスの料金は17年(平成29年)4月のガス事業法改正により自由化が認められたものの、依然として監視制度や経過措置料金規制など実質的な料金規制がある。一方、LPガスの場合は、液石法に基づき事業の登録が求められるものの、事業認可、供給区域の許可、料金等の供給条件の認可は課せられていない。
このため、プロパンガスは都市ガスに比べて割安な料金設定が可能な代わりに高額な料金設定をすることも可能である。例えば、初期設置を無料として使用料を割高にするなど複雑な仕組みを採用しているところもあり、このような状況が単に重説でガスの種類を誤って説明しただけなのに責任追及される一因となっている。
⑵都市ガス供給エリアの確認
電力で配送電事業を担っているのは一般電気事業者(大手電力会社)10社のみに対し、都市ガス事業者(一般ガス導管事業)は(一社)日本ガス協会によれば現在約200事業者もある。このため、その地域で一般ガス導管事業者を特定するのに時間がかかる場合がある。そこで都市ガス供給エリアかどうかは、(図表1)の経済産業省資源エネルギー庁や(一社)日本ガス協会のホームページを参考にするとよいだろう。
■3.都市ガスの調査
次に都市ガス供給エリアであった場合、以下の調査が必要になる。
⑴図面の閲覧入手
ガス埋設管の図面を入手したら、図面の内容を確認しなければならない。都市ガスに限らず、設備図面を入手したというだけで内容を確認せず、結果誤った説明をしてトラブルになるケースが多くみられる。
特に、配管の状況確認は重要である。都市ガス供給エリアであっても、道路のガス埋設管が敷地の前面まで届いておらず、本管延長費用が発生してトラブルになることがある。延長費用についてはガス事業者が本支管設置工事の一部費用を負担してくれるが、一定額を超える場合はそれを所有者に負担させる事業者が多くみられる。
また図面を見た際にガス管の種類の確認もしておく必要がある。家庭用などの一般用途に使われるのは主に低圧管であり、輸送用や産業用に使われる中圧管、高圧管からは引き込めない。
図表2では、一部の地域において中圧管のみで低圧が配管されておらず、引込み費用が発生する可能性が予想される。このような地域では取引前に必ずガス事業者と協議し、費用負担を確認しておかなければならない。
⑵売主(所有者)や近隣への聞き取り調査・現地確認
図面は個人情報保護のため、宅地内の引き込み状況やガスの使用状況は表示されていない。これまでの経験や相談事例からみて、本支管の引き込みより先にある宅内側の配管状況を示した図面は、個人情報を理由にガス事業者から開示してもらえないと考えてよい。従って、詳細を調べるには所有者の協力が必要である。
都市ガスはガス事業者がガス導管を通して供給するものであるから、建物付きの物件であれば、売主から利用明細や請求書を見せてもらうとよい。利用明細や請求書をみれば、述のガス事業者やカロリー数を確認することができる。
一方、隣地と配管を共有していたり、相互にガス管が土地を通過していたりすることがある。水道や下水はそれぞれ止水栓や枡のフタを(無理やりでも)開いてみれば、予兆だけでも分かることがあるが、都市ガスは残念ながらそのような予兆さえ知る手がかりがない。このため、売主や近隣への確認がとりあえずの調査手段といえる。
もっとも売主や近隣も配管状況を知らないことが多い。ガス事業者が宅地内の図面を開示してくれない現状では、このような紛争が発生しやすい状況にあるため、買主への容認事項として重要事項説明にはこのようなこともあり得ることを説明しておきたい。あわせて重要事項説明書および契約書には特約条項として明記しておくべきであろう。
そして現地確認については、前述した図面に基づき目視可能な部分を確認する(図表3)。
特に道路と敷地に高低差がある場合は引き込みできない場合があるので、そのような場合はガス事業者に引込可能かどうか確認しておく方が安全である。
なお、都市ガス供給エリアであった場合、買主等の現在の住まいがプロパンガスを使用していたときは、都市ガス利用にあたり現在使用中のガス器具が使用出来なくなることがある点もあわせて伝えておきたい。また都市ガス供給エリアであっても、売主はプロパンガスを利用していることがあるので注意が必要である。その場合は、次のプロパンガスの調査をあわせて行なわなければならない。
■4.プロパンガスの調査
都市ガス供給エリアでない場合は、必然的にプロパンガスを使うことになる。プロパンガスは、買主の意向に応じて自由にLPガス販売事業者を選択できる。このため更地の取引にあたって都市ガス供給エリア外であれば、重要事項説明では直ちに利用可能な施設がプロパンガスであることを伝えればよい。
一方、建物付きの物件の場合は前述の通り都市ガス供給エリアであってもプロパンガスを使用していることがある。このような場合は、重要事項説明で都市ガス供給エリアであることに加え、現在はプロパンガスを使用していること、さらに都市ガスに切り替えた場合の費用負担を相手方に伝える必要がある。以下は、建物付きの物件でプロパンガスを使用していた場合の注意点である。
プロパンガスはプロパン液化ガスをボンベに充填して販売するものであるか ら、建物付きの物件の場合は現地での確認が容易である。プロパンガスの場合、確認すべきなのは現所有者(売主)とプロパン販売事業者との契約内容である。
例えば、販売事業者が工事やガス機器の費用を負担するケースがある。このような場合、多くは貸与されたガス配管や機器の所有権が販売事業者にあり、利用料が月々のガス料金に上乗せされる契約がみられる。さらに販売事業者との契約期間が終わる前に家を売却し買主が販売事業者を変えたり、都市ガスに変えたりするときに違約金が発生、この点を重説で説明せず買主とトラブルになるケースが多くみられる。
この点に関して国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」においても、図表4のように記載されている。
実際には単に所有権が販売事業者にある旨だけでなく、解除に伴う違約金をはじめとした契約内容まで具体的に伝えておく必要があるだろう。
契約内容の確認にあたっては、「14条書面」をみせてもらうと良い。LPガス販売事業者が消費者と契約を締結したときは、液石法第14条および同法施行規則第13条に基づき、LPガスの価格の算定方法などの料金に関する事項や、消費設備の所有権がLPガス販売事業者にある場合の販売契約解除時における消費設備の精算額などを記載した書面を遅滞なく交付することとされている。この書面は通称「14条書面」と呼ばれており、現所有者とLPガス販売事業者との契約において必ず交付されている書面である。なお、契約書と14条書面の記載事項はほぼ同じであるため、契約時書面の内容を盛り込んだ14条書面のみの交付が認められている。
この14条書面には、一般に図表5のような内容が記載されている。
LPガス業界では、過去に無償配管によるトラブルが多発したことを踏まえ、販売事業者が消費配管やガス機器等を自らの費用負担で設置し、利用料金や中途解約時の買い取り費用を徴収する場合(いわゆる貸付配管)は、必ず14条書面を交付し相手方が納得した上で契約することが義務付けられている。
従って売り主または貸し主は、販売事業者との契約内容を知っているものと思われるが、しかし不動産業者としてはこれら売り主や貸し主からの聞き取りのみの調査だけではなく、さらに14条書面で契約内容を確認し、あらかじめその内容を相手方に伝えておく必要があるだろう。
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★次回予告
次回は3月4日(金)に、『月刊不動産流通2019年1月号』より、
「地図博士ノノさんの鳥の目、虫の目」から
「高度経済成長期の築地と豊洲」を掲載します。お楽しみに!