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事例研究 適正な不動産取引に向けて①

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回掲載するのは、知っておくと役立つ不動産トラブル事例を紹介する人気コーナー。(一財)不動産適正取引推進機構の方に、実務に役立つ判例を開設していただきます。

★給湯の不備により退居した
賃借人の損害について
水道代給湯代の8割相当を認めた事例

 給湯が集中方式である居室を賃借したが、たびたび給湯されない不備があり、改善要請にも応じてもらえないことから退去した賃借人が、賃貸人に対し給湯不備による損害、引越費用、敷金の返還等を求めた事案において、引越費用等は因果関係がないとして認められなかったが、水道代給湯代の8割相当額等について損害を認めた事例(東京地裁 平成29年9月22日判決 一部認容 ウエストロー・ジャパン)。

事案の概要

 平成26年8月11日、アパート全体に給湯を行なう集中方式のボイラーで給湯を行なっている本件居室について、賃借人Xは、賃貸人Yと賃貸借契約を締結し、同月25日引き渡しを受けた。契約の内容は、賃料:月額6万円、敷金:6万円、礼金:12万円、水道代給湯代:月額5000円。

 ところが、本件居室に入居当初から、たびたび給湯がされない不備があり、XはYに改善を求めたが、改善はされず、Yは開き直るような態度を取り続けた。平成28年5月25 日、Xは本件賃貸借契約を解約し、本件居室を退去。Yに対し、次の損害等につき、計145万円余の賠償を求める本件訴訟を提起した。

 ①給湯されなかったことによる損害:28万円余(銭湯入浴料460円×630日)、②引越費用:28万円余、③現在の居室との賃料等の差額(3ヵ月分):5万円余、④本件居室トラブルによる精神科専門クリニック病院の通院費用:16万円余、⑤慰謝料:59万円、⑥過払い賃料および敷金:7万円。

 これに対しYは、Xの主張はいずれも否認ないし争うとし、また敷金については、Xの原状回復に次の費用を要したことから返還義務はないと主張した。
 ①ハウスクリーニング代:2万8000円、②消毒代:1万8000円、③クロス直し:11万円、④ベランダ波板修理代:8000円

判決の要旨

 裁判所は次の通り判示し、Xの請求を一部認容した。

 ⑴Xは、水道代給湯代を毎月Yに支払っており、Yは、本件アパートの居室について、適切に給湯をすべき義務を負い、その履行のために給湯設備を管理、整備および保全する債務を負っていたところ、証拠等によれば、本件居室において、割合にして10回のうち8回程度、湯が出ず水しか出ない給湯の不備による債務不履行(本件債務不履行)の事実を認めることができる。

 このため、風呂やシャワーの使用ができず、月額5000円の水道代給湯代のうち、その8割に相当する分(月額4 0 0 0円)の損害を受けたというべきであり、本件債務不履行により、8万4000円(4000円× 21 ヵ月)が損害と認められる。

 ⑵Xは、給湯の不備がありながら約21ヵ月間本件居室に居住し、引越しは管理会社から提案されたことからすれば、Xの引越しは余儀なくされたものとはいえず、引越費用および現在の居室との賃料差額は、本件債務不履行と相当因果関係ある損害とは認められない。

 ⑶Xは、本件居室に入居する前から精神科に通院していたこと、Xは診断書を提出するのみであって、診療録等の提出はなく、従前からの病状の経過等や本件債務不履行により病状が悪化し、Xが主張するような通院等が必要になったかは不明であり、また、本件債務不履行が病状を悪化にどの程度寄与したかも不明である。従って、通院費用および慰謝料は、本件債務不履行と相当因果関係ある損害と認めることはできない。

 ⑷本件賃貸借契約の終了により、Xが支払った平成28年5月26日以降の賃料については過払いとなっていることが認められる。

 Yが主張する原状回復費用であるが、Y提出の証拠写真は、同年7月ごろ撮影されたものであることから、本件居室明渡し時の状況のものと認めるには足りない。そしてYは、主張を裏付ける客観的な書証(原状回復行為を行なったとする契約書、発注書、代金の領収書等)を提出しない。

 従って、Yは費用をかけて原状回復を行なったと認めるに足りない。よって、Xの請求する過払い賃料1万円および敷金返還の6万円は理由がある。

 ⑸以上により、Xの請求につき、15万4000円およびその遅延損害金について認容する。

まとめ

 本件のような賃借人の解約・退去という手段に至るまでの手法としては、賃借人が修繕してその費用を賃貸人に請求する方法(民法608条の賃借人による費用の償還請求)があり、各行政庁で行なっている無料の弁護士相談でアドバイスを受けることも考えられる。また、本件は、賃貸人が主張する原状回復費用が認められなかったものであるが、原状回復費用については、過去の判例をもとに国土交通省で作成された「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版平成23年8月)」の考え方に沿って、契約当事者双方で十分な調整を図ることが望ましい。

 なお、本件は、賃貸人が敗訴部分の取り消しの控訴をしたが、棄却されている。

(誌面・1ページ目)

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※事例に関する質問には応じることが出来ません。また、上記は執筆時点での事例の内容・判決です。その後変更している場合がございます

★次回予告

次回は3月18日(金)に『月刊不動産流通2019年2月号』より、
「まちの履歴書②」を掲載します。お楽しみに!


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