『東京クロノス』大ヒットで米国Facebookも大注目!投資家から全否定されても突き進むMyDearest経営陣の矜持
皆さんこんにちは。藤原です。今回のスタートアップ取材記事は、VRゲームのMyDearestです。
MyDearestは新作VR長編ミステリーゲーム『東京クロノス』で異例の大ヒットを飛ばしており、僕がベンチャーキャピタリストだったときの投資先でもあります。今回はCEOの岸上さんとCOOの千田さんに『東京クロノス』ヒットの舞台裏や創業時の苦労などをうかがうことができましたので、ぜひご一読ください。MyDearestはいいぞ。
この記事の登場人物
藤原弘之(質問内容を太字で記載)
MyDearest CEO 岸上健人氏(下記写真)
MyDearest COO 千田翔太郎氏(中盤あたりの写真で登場)
みんなが意外と知らないVR市場
今日はよろしくお願いします
岸上「よろしくお願いします。」
千田「ご無沙汰しております。よろしくお願いします。」
早速ですが、ヒットおめでとうございます!
岸上「ありがとうございます。かなりの勢いで売れていまして、もうすぐ累計で大台を突破しそうです。」
1億円てやっぱ良いですよね。スタートアップとしてワンランク上がったというか。
岸上「コンサバに見積もっても今期はもっと行くと思いますよ。ちなみに、VRゲームのヒットタイトルの基準が100万ドルなんです。今のレートだと1億700万円くらいですけど、そこに到達しているタイトルが世界で70本くらいあるんじゃないかと思うんですが、僕らがそこに仲間入りできるというのもめちゃくちゃ嬉しいですね。」
やはりいちばん最後にリリースしたPSVR版がいちばん売れてます?
岸上「さすがよくご存じですね。その通りでして、今のところ『東京クロノス』の売上の50%くらいがPSVR版です。案外知られてないんですが、PSVRが実はVR市場としてはいちばん大きくて、グローバルで500万台流通していると言われています。」
それ以外のプラットフォームで『東京クロノス』の売上ってどんな感じなんですか?
岸上「他で言えば、例えばOculusで30%くらいですね。」
Oculusというのは全部で?
岸上「そうです。RiftとGoとQuestの合計ですね。あとはSteamが残りの20%くらいって感じです。」
Steamが案外大きいですね
岸上「SteamってMAUみたいな『1ヶ月間で1回でも起動されるVRデバイス』が100万台あるんです。これが増え続けていて、年内には150万台になるだろうと言われています。元々はコアなPCゲーマーのコミュニティーですから熱量は高いですよ。」
PSVRに採用されたら広告宣伝なんかもSonyが手伝ってくれるんですか?
岸上「リタゲ広告とかは結構やってくれているみたいで、僕の知り合いからも、『東京クロノス』で一回踏んだらめちゃめちゃ広告出るよって言われていて、かなり出してくれてるんだと思います。さらに、これは細かい話ですが、ゲームのパッケージ版って流通小売の買い切りで、書籍みたいな返品がないんです。在庫リスクがないというのもスタートアップにはありがたいですね。」
パッケージ版の出荷数って国内と海外で差があったりします?
岸上「そこは半々ですね。今後の伸び方は分かりませんが、今のところは半分ずつって感じです。」
体験した米国での盛り上がり
そう言えば海外出張に行かれてたみたいですが、どちらに?
千田「僕は岸上より一足先に行ってたんですが、Crunchyrollエキスポというサンフランシスコのアニメイベントへの登壇がメインです。ちなみにこれがCrunchyrollエキスポで僕らが登壇したときの客席の写真です。」
おぉ!かなりファンっぽい方々が来場されてるんですね
千田「そうなんですよ。『東京クロノス』のファンもいっぱい来てくださって。前回の藤原さんの記事で取材されていたUNIVRSの『リトルウィッチアカデミアVR』と、あと『狼と香辛料VR』と一緒に登壇したんです。」
凄い。今や日本を代表する感じになってきましたね
千田「実は有名なアメリカ人コスプレイヤーさんもモデレーターとしてアサインしたんですが、某有名VTuberのコスプレをやってくれたりとか、凄い熱気でした。」
ホントだ。雰囲気ありますね
千田「あと東海岸にもAnime NYCというニューヨークのイベントが11月に予定されていて、その仕込みもやってきました。」
東海岸ってそんなイメージなかったですけど、米国全土で盛り上がってるんですね
千田「そうですね。Anime NYCはかなり盛り上がってきているみたいで今年は5万人くらい動員するみたいですよ。」
岸上CEOとの出会い
そもそも千田COOがMyDearestに入った経緯をお聞きしたいんですが、岸上CEOとの出会いはどんな感じだったんですか?
千田「僕は2015年にソフトバンクに新卒入社したんですが、その同期というのが一応のきっかけです。約550人も同期がいたので、岸上と初めて出会ったのはチーム研修を終えて個人研修中に入ったときだったと思います。」
チーム研修というのは?
千田「チーム対抗プレゼン大会です。僕は岩手県出身で、大学が群馬でして、何か『群馬代表としてやってやるぞ!』みたいな感じでやたら意気込んでたんですね。それで、結果3位になれたんですが。」
そのときの1位が岸上さんだったとか?
千田「いえ、彼は予選落ちです」
ちょw、なぜ言ったし。じゃぁその後に出会った?
千田「そうですね。チーム研修の後に個人研修に移ったんですが、全体がダレてきたんで、自分なりに危機感を抱いてしまったんです。『このままだとぬるいから、もっとちゃんとやらないとダメなんじゃないか?』って。それで、昼休みは同期とつるむのを一切やめて、独りで日経ビジネスをひたすら読むマンになっちゃんたんです。」
それはなかなかの仕上がり具合ですね
千田「そうなんですよ。今思うとかなり痛い奴だったんですが、昼休みにそんな過ごし方をしたら、いつも近くで机に突っ伏している奴がいまして。何でみんなとご飯に行かないのかって聞いたら『断食してるんだよね』て。それが岸上です。」
それはそれで近寄りがたい
千田「これはやばい奴だと思って近付かないようにしてたんですが、あるとき彼がヨーグルトを食べるようになりまして。断食しないのかって聞いたら『何も食べないと夜お腹が痛くなるからヨーグルトは食べることにした』て言っていて、益々やばい奴だと思って距離を取りました。」
VR夜明け前の雰囲気
いや、それでも一緒に会社を立ち上げる訳ですが、何があったんですか?
千田「岸上とは共通の友人がいまして、そこからちょくちょく話すようになって、確か2015年の秋頃だったんですが、『VR唐揚げ祭り』というのに岸上から誘われて行ったのが僕がVRに出会ったきっかけでした。その後、いろんなイベントにも行くようになって、僕は白猫プロジェクトが好きだったんですけど、そのVRを体験して感動しまして。これは凄い!って」
でもまだ当時のVR市場環境って夜明け前みたいな感じでしたよね
千田「そうですね。ようやく2016年にはVRが来る、みたいに言われていた時期で、これまで開発者の方々が頑張って培ってきた活動がようやく日の目を見る年だ!みたいな雰囲気で。VR元年が来るって。」
いやいや、去年はGoで、今年もQuestでVR元年とか言われて、いったい元年が何回来るんだって話ですよね
千田「そうなんですよ。でも確かに当時はメディアのVR元年だったんです。当時はまだXRという言葉もなかったですし、ARもVRとあまり区別ついてないみたいな感じではありましたけど。ただ、やっぱり開発者の方々から沸々と湧き出るような熱い想いみたいなのがかなりありましたね。」
それは起業家の雰囲気とはまた違う?
千田「違います。起業家ってどちらかというと『行くぞーオラーっ!』って感じですけど、クリエーターとか開発者の方々だったので、ジリジリ湧き上がる地熱発電、みたいな言い方が合ってると思います。」
そこから起業に向かうんですね
千田「僕らはよくベローチェに集まって色んな議論をしていたんですが、結局何も作れていなかったので、VRの未来の話なんかをしながらもある一定までいくと、どうしても議論が抽象的になってしまうんです。これだと限界あるよねってときに、岸上がエンジニア集めたりUnityに突撃していろいろ聞いたりしてましたね。Unityは当時まだVRの分野は民主化されていなかったので、『僕達こんなことやりたいんですが、書籍だけだと限界があって、どうしたら良いでしょうか』みたいな感じでダメ元で行ったら、Unityのある方が僕ら2人のために特別に教えてくれて。ありがたかったですね。」
VR焚き火を見ながら感じた絶望感
じゃぁ第1作の『Innocent Forest』はすんなりと?
千田「いや、結構紆余曲折あって、まずはInnocent Forestのリリースにたどり着くまでが辛かったですね。VRx物語というのをやりたいという明確な目標はあったんですが、それを表現するアートディレクターがいなかったんですね。いないから作れなくて、作れないからいない、みたいな。」
スタートアップのニワトリタマゴ問題
千田「はい。当時辛かったのは、プロダクトを出せない時期と、噛み合わない制作体制というのがあって。Innocent Forest以前のプロジェクトでは岸上がディレクターをやってた時期もあったんですが、やっぱ人には向いてることと向いてないことがありますよね。」
岸上さんは確かにディレクターというよりプロデューサーですね
千田「それが自分たちでは当時分かってなかったんですね。僕自身もプロジェクトの中での自分の役割を明確にできずにいましたし、今でも覚えているのが、数百万円払って外注した3Dモデルの中に焚き火があって、何をすればよいのか分からないまま、その焚き火が『パチパチパチ』て音を立てて揺れてるのをひたすら見てたときの絶望感は半端なかったですね。」
それは表現手法というより全体設計的な?
千田「多くのエンタメ作品には触れているので、作品への愛や表現の部分でのやりたいことというのは色々あったんですが、全体の完成度として昇華できるものというのが、エンタメのディレクターとして未熟なために分からないんです。要素要素でしか。要するに素人だったんですね、ゲームを作るという上では。」
それは大変な難産でしたね
千田「そんな未熟な体制の中でも試行錯誤して苦しみながらも、Innocent Forestは自分たちのコンセプトを初めてしっかり出せた作品だと思っています。VRの中での心を揺れ動かすような物語体験というのと、文字を出すということ。それで柏倉がジョインしたきっかけにもなりましたし。」
ちなみに、その焚き火の3Dモデルはどっかで使われたんですか?
千田「どこにも使われてないと思います。」
せっかくなんで今後どこかで使ってみては?
千田「いや、思い出しちゃうんで、もう見たくもないです(笑)」
投資家から全否定されながら邁進した『東京クロノス』
それから『夢の相談所』を経て『東京クロノス』の制作に入っていかれる訳ですが、僕と出会ったときってまだ『東京クロノス』の東の字もなかったですよね?
岸上「はい、全然ないです。Oculus Goのスタンドアローンでやる、というコンセプトが決まってただけですね。確か藤原さんにピッチしたのは2017年12月上旬で、その数週間後に着金まで行ってるんです(笑)。あれは今までで過去最速でしたよ。」
だって岸上さんが年内すぐ欲しいって言うから(笑)「今すぐ実印押しに来てください!」とか電話しましたよね
岸上「虎ノ門ヒルズのオフィスまで実印持ってダッシュですよ。確か藤原さんと法務の方と3人で一緒に社内カフェでスタンプラリーやったんです。いちばん困ってた時期に出してくれたから、あのタイミングはめっちゃありがたかったですね。」
それで半年後くらいに事業進捗として『東京クロノス』の企画を説明しにきてくれたじゃないですか。その間はどんな活動を?
岸上「まずは三木一馬さんに本格的に関わっていただいて、次にシナリオの瀬川さんに仲間になっていただきました。」
柏倉さんをスカウトしたのはどういうきっかけで?
岸上「僕はずっと、ものすごく強いディレクターが絶対必要だという課題感を持っていて、前々から柏倉には目を付けて追いかけてたんです。VRで演出家って希有で。彼は当時まだスクエニにいて、R&D部門でVRx物語とかVRxマンガというのを研究していた時でした。ある日彼が僕らの『Innocent Forest』についてプレイしてみたいってTweetしてたんで、すぐリプ送りました。ぜひオフィス来てくださいって。」
その後どうやって口説いたんですか?
岸上「彼と意気投合したのはウチも含めて2社あったらしいんですが、最後は、柏倉から見て僕とか千田が、スタートアップのものすごく商魂たくましい感じに見えたらしく『この2人だったら自分の作った作品をガンガン売ってきてくれそうだ』と思ってくれて。」
岸上さんが『東京クロノス』として思い描いていたことはスタッフの皆さんにもスムーズに伝わりました?
岸上「柏倉はじめスタッフにはうまく伝わったんですが、投資家には全然伝わらなかったですね。要するに長編モノのVRのゲームであると。クリアに数十時間欲しいと。それで、ミステリー・サスペンスであると。これは、当時の感覚としてはあり得なかったんですね。ある投資家からは絶対売れないって言われてましたね。30分やれば良いというVRの世界ですから。」
それでも、長時間にこだわったのは何故です?
岸上「数十時間やらないとIPは生まれないんだって僕は断言していて。長時間ドラマに触れていることで愛着ってわくんだから、30分や1時間では愛着はわかないだろうと。」
あとミステリー・サスペンスへのこだわりについては?
岸上「欧米のゲームと戦うとき、おカネをかけたグラフィックの勝負になってしまうと勝てないですよね。当時グラフィック勝負のホラーゲームがすごく多かったんですが、VRのゾクゾクする感じというのは、別にホラーじゃなくても、ミステリー・サスペンスというゲームデザインで勝てると思ったんです。この部分はグラフィックというより知恵とかアイデアの勝負になりますから、おカネの勝負になりにくいですよね。」
ただ、それだけ投資家から懐疑的に見られている中で、普通は不安になると思うんですが、それでも調達した資金で『東京クロノス』を開発するんだ!って邁進できたのは何故ですか?
岸上「段階的に自信を深めていった感じです。まずは凄く良いクリエーターが集まってくれたことですよね。三木一馬さんや瀬川さんや柏倉、あとキャラデザでLAMさんが関わってくれたのも大きくて。」
自信を深めた第一段階が優秀なクリエーター陣の集結ってことですね。その次の段階は?
岸上「やっぱりクラウドファンディングですかね。これで1,800万円を達成できたのがいちばん大きかったですね。ある投資家さんは、クラウドファンディングで成功したら出資したいって言ってくださって、最終的に出資してくれましたから。」
なるほど。では最後に、今後についての展望を聞かせてください
岸上「VR市場のユーザーって増え続けていることは確実なので、結局VRゲームの市場も伸び続けるんですね。そこはようやくいろんな投資家さんにも納得いただけている段階になっています。僕らとしては、次のことももちろんありますし、『東京クロノス』のIP展開についても当然検討していて、米国のFacebookから僕らのオフィスに視察も来たりしている中で、新しい取り組みをどんどんやっていこうと思っているので、楽しみにしていてくれたらと思います。」
お二人とも今日はありがとうございました
岸上・千田「ありがとうございました!」
MyDearestについて
2019年3月に発売したVRゲーム『東京クロノス』がSteamの週間世界ランキング1位を記録。本作はОculus(Facebook)が数千件のVRアプリの中から8つだけを認定する「Оculus Essentials」に日本のVR作品として初めて選出されています。また、彼らはFacebookの最新ハードОculusQuestにてリリース許可を受けた日本で2社しかいないディベロッパーの1社で、2019年8月22日にはPlaystationVRでも『東京クロノス』をリリースし、大ヒットを飛ばしている気鋭のVRスタートアップです。(上記写真右側の人物が東京クロノスのディレクターである柏倉晴樹氏)
先日の東京ゲームショウ2019で待望の次回作について発表し、さっそくファミ通に取り上げられています。これも期待大です。