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「普通をずらして生きる〜ニューロダイバーシティ入門」出版に寄せて


2024年4月1日、(株)プレジデント社より、伊藤穰一(千葉工業大学学長)さん、松本理寿輝(まちの保育園・こども園代表、JIREA代表)さん共著、「普通をずらして生きる~ニューロダイバーシティ入門」が発売されました。

私たちは、この本の中で障害者の家族としてインタビューを受け、fuco:誕生から現在に至るまでの育ちや想いを取り上げていただいています。

アカデミックかつ実践を交えた内容


「障害福祉トレンドワード」とググったら「ニューロダイバーシティ」はすぐにでてきました(勿論私は今回初めて知りましたが)。「脳神経の多様性」という意味だそうです。

fuco:のアートと本人にヘラルボニーが光をあててくださった時も、自分たちの現在地とのギャップに唖然としましたが、この本を読んで、社会がどんな風に動いてきたか、都度感じてきた違和感も自分の中でなんとなく言語化されたように思っています。

ご縁をいただいたこの本を拝読し、気になったワードを拾いながら感じたことを、今回皆さんと共有できたらと思います。



「障害」は社会がつくるもの

日本人の障害観は、個々人の身体にあるとする「医学モデル」から物理的、社会的、精神的に存在する障壁の方にあるとする「社会モデル」へ変容しつつある。

これは最近やっと私も感じていることです。私たちは子育て初期、宮崎で長屋みたいなコミュニティ(児童館やご近所さん)があり、そこでは障害をあまり意識してなかったです。

一緒に公園で遊んで、泣いている子がいたら自分の子でなくても抱っこするし、誰かが具合が悪いとご飯を差し入れて。自然なサポートをお互いに。

障害があるなしはお互いにとって、
ほんのある一部分だったかと



ところが学校に入ると支援学級支援学校で分けられていき、もう「障害者」確定、向こうは助けてあげないととなります。

障害が重ければ重いほど、その先もより詳細にわけられ(支援学校卒業後の進路、障害区分、障害年金判定、手帳のランク)、支援「され」続けます。

私たちにとってはアートを通して初めて、支援「される」以外の社会的役割がうまれましたが、その解放感も感動も(そして戸惑いも)とても大きかったです。障害って、本当はいつも感じなくてよいものだったのかもしれません。



合理的配慮より更に広い価値観、ニューロダイバーシティ

今年4月より社会や企業の合理的配慮(障害者が教育や就業、社会生活で平等に参加できるように障害特性や困りごとに合わせて行われる配慮のこと)が義務化され、私たちも先日新聞取材を受けました。勿論とてもありがたい配慮だと思います。

だけど、合理的配慮ってあくまでもむこうが配慮「する」こちらが「される」、一方通行性のある関係なのですね。障害者など非定型の人たちが無理しなくていいようなバリアフリーや支援をさしています。

聴覚過敏の人に
BGMが流れていない場所を
つくってもらうのも合理的配慮ですね


それに対し、ニューロダイバーシティは定型の人にある見えざる困難(例えばあまり喋るのが得意でないとか)にも光をあてていきます。誰もが大小様々な「非定型」を抱えて生きているという現実からアプローチしていくのです。

障害者家族としては、いつも周りに迷惑をかけているという意識がどこかにずっとあります。だけど、誰もの苦手(障害者のできないことだけでなく)にスポットって考え方だと、随分気持ちはラクになりそうです!固定した関係性は、障害者本人だけでなく、家族にも二次的な生きづらさを与えていますから。

このより細やかで広い捉え方なら、いつもどちらかが「される」でなくなります。fuco:も「ごめんなさい、ありがとうございました」は一番言うけれど、本当は「大好き、楽しい、嬉しい」だといいですよね!



従来の福祉視点と異なる、多様化のメリットへのアプローチ


今回私が面白いと思ったことの一つが、この本で理論について語られる伊藤さんが千葉工業大学学長で、極めて理系的視点で多様性の尊重を語られていることです。

「困っている人に親切にしましょう」という感情的福祉視点とは違うのです。AIやWeb3などのデジタル技術の急速な発展が進む現代社会だからこそ、全く違った思考や発想のニーズが高まると言われています。これは新鮮で面白かったです!

知りたいことがあったら携帯でググってみますよね。情報が瞬時に得られ、失敗することも自分で考えることもなく答えがわかります。ただ皆んながそこから選べば選ぶほど、次第に選択肢は少なく、行動も同じになる。それは限られた正解だけがある冷たい社会にむかわせます。

だけど実は、テクニカル的には違う思考が増えれば増えるほど、固定化された常識をゆさぶり、インスピレーションを与え、答えは複雑化し、解決できる問題もその方法も多様化するというのです。

一人で悩んでいたことも、誰かに、そしてできればいろんな年齢の人に話すと、思いもかけない新しい解決策が見つかるのと同じですね。そうなると、普通であることは全く不要になのです!

墨と筆を渡したら、
シンプルに黄色を全て黒にする(笑)
インクとガラスペンで色と感触を堪能する
絵の描き方バリエーションって
学校で習ったものだけでないんだ!となると
苦手な人の苦痛が緩和



普通でないことこそ価値となる⁈


無限プチプチ流行りましたよね。あれって、いわゆる感覚グッズそのものじゃないですか。最初びっくりしました。例えば、クラスに自閉症の子がいて、ちょっとイライラした時にそれを落ち着けるためにそれをしている。クラスメイトが貸してもらってやってみると、自分もすごく良かった的な?

「落ち着く」っていう方法は沢山あるけれど、その方法が多ければ多いほど誰かにヒットするし、そこで「普通は」っていう限られた選び方をすると、当てはまらない人がでるってことですよね。自閉っ子は役に立ちますよ!ブレない追及者、かつ人目を気にしないですからね(笑)



ヘラルボニーの高い社会的価値


ありがたいことにfuco:はご縁があって、ヘラルボニーの契約作家にしていただき、さまざまなお仕事を頂戴しています。

双子の松田社長たちを始め、社員の皆さまの凄まじい熱量から作家につながる仕事は、内容も報酬も今までの福祉のイメージを覆すものばかりです。

そして、そのクライアントも日本を代表する大企業が多数になってきています。これは社会が求めていることに、ヘラルボニーが極めてマッチしているからだといつも励まされています。

マルイグループとの提携クレジットカードは
「使うたびに社会を前進させる」


社会はその時々の問題解決をしながらいつも進化していきます。「多様化」は今様々な問題解決をしていく中必須で、その中に障害者は欠かせず、更にいうならビジュアルであるアートは、最もシンプルでスマートなのでしょう。



多様化を求める社会と日常の大きなギャップ


ただ現状この社会的ベクトルと普段の私たちは、かなり大きなギャップがあると感じています。fuco:も日々障害者施設に通い、支援を受けながら散歩したり、パズルをしたり、福祉の世界にどっぷりといます。家族、事業所の人以外と関わることはほとんどありません。

変化するには、関わる人、発想、エネルギー、様々ななコトやモノが必要。そのキッカケが、日常ではなかなか持てないのかもしれません。たまたまアートを始めたことは、そんな私たちにとって、福祉でない世界の人たちと接点を増やす体験でもあったのです。

手を借りることが当たり前になりがち…
この時の体験は本人に自信を与え、
生活を穏やかに意思表出を増やすキッカケに



定型の多数派にとっても多様であることはメリットが多い。障害があるfuco:にとっても刺激的で一層細やか(自閉症だからこうというだけでなく、彼女だからという目線がプラスされる)で相互作用があることは確かです。

だから、本著では個性は「分ける」のでなく、もっと積極的に人々は混ざり合った方がいいと述べられます。

私たちにとっても、まさにこの混ざり合う時間こそ(長屋的な育ち、プロダクト制作販売、アート活動)幸せで豊かな時間だったなぁと改めて思い起こしました。しっかりと私たち当事者を交えて、構成してくださったことに改めて心から感謝しています。


いつもちょっと新しいことが好きな彼女
表参道のスマートゴミ箱も、
実際見れなかったけど、沢山の人からの報告で自分ごとに!


なりたい像と現実には当然いつもギャップがつきものです。それでも今、次々経験させていただく新しい出来事は、いつも衝撃的に新鮮!新しい視点を私たちにくれています。

当事者として、「どう感じるか、実際の生活はどうか、どんな変化があるか」を交えながら、これからもみてくださっている皆さんとこのリアリティを共有していきたいなぁと思っています。

今回たまたま関わらせていただいた本著は、ニューロダイバーシティという新しい価値観を私たちに教えてくれました。単純な私はこういうことを多くの人が目指してくださっているんだと、とても大きな希望を感じています。

だから、やっぱりこのワクワクをご一緒に!

著者である伊藤穣一さん、松本理寿輝さん、ライターの柳瀬さん、お世話になったリンクタイズ社谷村さん、表紙に使用した作品撮影にカメラマン吉田さん、繋いでくださったヘラルボニーの方々に心から感謝申し上げます。

是非是非、手にとってお二人のお話を読んでいただけたらと思います。我が家もいつも通りの(笑)秘蔵のエピソードなど、たっぷり取り上げていただいております!


「普通をずらして生きる ニューロダイバーシティ入門」
伊藤穰一(千葉工業大学学長)、松本理寿輝(まちの保育園・こども園代表、JIREA代表) 著
発行:リンクタイズ、発売:プレジデント社


カバーのアートがまたいいのです!感謝!


最後に追伸!本著にも取り上げられるfuco:妹(高一を2回して、人生に一点の悔いもないと言い切るツワモノ)は、このほど無事大学(建築志望のリケジョ)にスリリング合格!

浪人して第一志望をとも言われましたが、車で10分の地元国立大学近くに一人暮らしをすることにしました(いつも普通をずらすを地で行く我が家)。

そう簡単に自立とはいかないでしょうが、少しずつそれぞれの第2ステージも、新たに始まっていきます。いつだってリアリティもチカラ強く、ポジティブに進んでいくのです!


障害のある姉の働いたお金で、
通学リュックと入学式用スーツを記念に購入!ダブルピース!


ではまた次の更新は4/15です。今回も長文ファンの皆さま、お付き合いいただきありがとうございました!
#自閉症#知的障害#アート


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