水彩画研究ノート 【コチニール色素(カイガラムシ)で絵を描いてみた】
こんにちは。本日、水彩画研究ノートのお時間です。
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前回より耐光性、トレース方法など専門的な話が続いたので、今回は、絵に興味がない方も楽しめるような、単純におもしろ実験やってみたー!✨なノリで進めたいと思います。ではいってみましょう。
今回は、先に絵を見せます!こちらが実際に描いた絵です。
ここから先がコチニールの説明と絵の説明です。
※※注意 虫が苦手な方は見ないでください。※※
1.コチニール色素とは
「コチニール色素」とは、中南米に生息するカイガラムシ(別名エンジムシ)から抽出された、天然由来の赤い染料です。
古くは紀元前、マヤ、アステカ文明の頃から染料として使用されており、16世紀初頭アステカ帝国が征服されたのを機に、ヨーロッパへ持ち込まれます。当時はかなりの高級品で、王族や貴族の衣服に使用されていたとのこと。また、画材として多くの著名な画家にも使用されてきたという…とても歴史ある虫さんなのです。
今現在も、着色料としてさまざまな食べ物(蒲鉾、ハム、ソーセージ、お菓子など)や化粧品などに使用されています。なおカイガラムシは染織物専門店で入手可能です。
過去に食育に関する本を読んで、食品の中に虫から抽出した色素が使用されていると知った時は結構ショックでした。その後、染色屋さんの工房に行った際、瓶詰にされた大量のカイガラムシを見て「わああああ!これがコチニール!」と驚愕したことは今でも忘れられません。
そして、最近、そのカイガラムシをカリグラフィーの先生から分けてもらいましたのでw、虫は苦手ですがどんな風に色が出るのか、そしてその色を塗ってみたい!✨と実験をすることにしました。
これがカイガラムシだー!!※虫さんは乾燥しています。
何も言われなければ、正直、虫だとは分かりません。小さい石の粒のように見えます。本来ならこれを乳鉢などで粉砕、さらにお湯の中で加熱して使うそうなのですが…今回使用するのはごく少量。
潰すの面倒くさい。
生身のまま使わせて頂きます!!!
(これが後々グロテスクになっていきます…)
2.顔料と染料
【顔料と染料の違い】
実験をする前に顔料と染料の違いを簡単に記載します。
水彩や油絵などの絵の具は顔料。コチニールは染料です。
顔料は水に溶けません。また、染料より粒子が大きく、紙の内部までは浸透しません。水彩や油絵絵の具も、水や油と一緒に使うので、「溶けてるやん!」と言いたいところなのですが、実際は粒子が水の中で分散してるだけです。
また染料はにじみやすいです。耐光性も低いので染料系の道具で、大事な作品を描くのはおススメできません。
顔料…代表例 赤土、炭、鉱物、紺青 など
染料…代表例 コチニール、藍、茜、紅花 など
顔料や染料にもそれぞれ種類や分類があり、書くと長くなるので今回は省略しますが、水に溶けるか溶けないかで区別したら分かりやすいですね。
個人的なイメージですが、顔料はゴツゴツして強そう、染料は優しそうな感じがします🍀
【染料を顔料化】
染料であるコチニールはそのまま絵の具としては使えず、顔料化する必要があります。そして水溶性の染料を金属(カルシウム、バリウムなど)と結合させて、不溶性の顔料にすることをレーキ化と呼びます。
こうして生まれたのがクリムソンレーキのように○○レーキと名が付いた絵の具なのです。よって顔料の中には染料系顔料というハイブリットなものが存在します。
ネットで調べると、ミョウバンを使ってコチニールをレーキ化させる方法が掲載されていたので、試してみようかと思いましたが…
今回は単純な実験。レーキ化しません。
生身のまま使わせて頂きます!!!
そういうわけで染料で絵を描くと、どうなるのかな~という点でもワクワクする実験です。
3.さっそく水に入れてみた
【時間と共に濃くなる】
さっそくカイガラムシを水の中に入れてみたら、すぐに色がではじめました。仕事が早い!
時間の経過と共にどんどん赤くなります。最初にも書きましたが、コチニールは本来、粉砕後、加熱して色素を抽出するものなので、耐熱容器に入れて20秒ほどレンチンもしてみました。(荒業すぎる)
無臭だったのに、加熱したら腐臭が…。虫さんも膨らんで見た目もグロい…。粉砕しとけばよかったかなと後悔。思わず、キッショッ!!!!と本音がでてしまいました。
【紙に塗ってみた】
①10分後
10分後の液を水彩紙(ウォーターフォード/中目)に塗ってみました。
モーヴがかったピンクというのでしょうか、液体のような鮮やかな赤色ではなく、くすんだピンク色になりました。品がいい色。
②加熱後
レンチンしてトマトジュースのように濃厚な色を紙に塗ったら!!全然赤くない。もはやグレーっぽくなってしまいました。しかも塗りムラができる。やっぱり絵の具とは違いますね。
おもしろいことに塗った時、紙の上では赤かったのに(左)、どんどん色が沈んでいきます(右)。不思議! 顔料と違って濃度の度合いがつかめません。暗く見えているだけで実際は赤いのかな。
何故だ!?水彩紙のせいなのかもと、試しにキッチンペーパーに吸わせてみましたが、こちらは綺麗な赤色。染料は「染める」の適しているのであって、紙に「塗る」には不安定なのでしょうか?!おバカな私に誰か教えてください。専門家の先生!!
参考までに、カリグラフィーの先生がカイガラムシで書いた文字がこちら。くすんだピンクと赤みグレーのグラデーション。(PMパッド紙)
色調が安定しない点が美しいです。もっとケバケバしい色を想像してましたが、とても落ち着いた色です。
4.pH変えてみた
コチニール色素はpHで色調が変わるとのことなので、以下の3つを用意してみました!理科の実験みたい✨ ちなみに分量は適当です。
①お酢を入れたもの(酸性)
②何も入れないもの
③重曹を入れたもの(アルカリ性)
◆実験結果
①お酢入れたもの…オレンジにはならない。
ピンクに少しだけ黄色を足したような色。塗った後に色が沈む。色が安定しない。
②何も入れない…くすみピンク、濃くぬると色が沈む。色が安定しない。
③重曹を入れたもの…色が鮮やか。色が安定している。
唯一、③だけが濃く塗っても色が沈みません。これだったら絵が描けそう!
5.描いてみた
4.の3色を使ってまず初めに描いてみたのがこちら。
②と③を花びらに、変色する性質を活かして①を濃い枝等に使ってみました。まったりとして優しい色調。勝手にピンクとグレーのグラデーションになるので面白いです。サラサラして粒子の細かい絵の具で描いている感じ。吸い込みは普通の絵の具より遅め。
だんだん色の使い方がわかってきたので、バラも描いてみました。アンティークな色合いでいいですね。
良かった点は、下書きの鉛筆線が綺麗に消えること。(顔料絵の具だとあまり消えない)
使い勝手の悪い点は、紙の奥に染み込んでいくせいか、塗った色を抜きたい時に、シャープには抜けないこと。色を水で溶かすという感覚。
顔料は紙の上に乗ってるだけだから、剥ぎ取りやすいんだな!と理解できました。
6.実験をやってみた感想
今回初めて、コチニールで絵を描いてみて正直な感想。
最初は気持ち悪いな~と思いつつ実験してましたが、こんな小さい体で大昔から、我々の世界に彩りを与え続けてきたんだなと思うと、生命のありがたみと、色の神秘性を実感。体液で染色するって…王蟲!!!命の色!
また、染料のまま使用しましたが、レーキ化されたコチニールはもっと色鮮やかで真っ赤なはず。いつかレーキ化に挑戦してみようかなと思いつつ…大変そうだから多分やらないですw
色が安定した絵の具で、気軽に絵を描けるのは、日々研究と改良を続けてこられた絵の具メーカーさんのおかげなんだなあと、感謝の気持ちが湧きました。
絵の具、大切に使おう!
以上、コチニール色素の記事でした✨