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今日もじじいの顔が良すぎて尊い・其の肆

 実は今日までに七回出陣している。

「刀剣乱舞ONLINE」の話ではない。「映画刀剣乱舞」の話である。
七回観ても、まだ観足りない。2/1から、じじいの出番(であろう)映画泥棒×刀剣乱舞のepisode3が上映されるため、そうなったらあと最低でも十回ほどは観に行かねばならぬ。

 まだ鑑賞を迷っている方は、この文章を読むことでのネタバレが不安であろう。核心部分や重大なネタバレは伏せておく。しかし話の流れは読めてしまうかもしれぬので、そうすると観る気を失くしてしまうという質の方は、鑑賞を終えてから是非また読んでもらいたい。三日月宗近の尊さを思い出し噛み締めつつ。

前置きが長くなって大変済まない。

 それでは 「映画刀剣乱舞」

………始めよう。 

 開始早々、本能寺への討ち入り場面。山本信長の登場により無知な私は非常に混乱する。もしやこの御方は堀北真希殿の夫君か?(言い方) いやいやまさか……こんな(失礼)映画に出ているとは、何かの間違いでは。他人の空似ということもあるだろう。

 そんな混乱の最中にある私の目の前に、窓から入る淡い逆光に照らされた美しい横顔が、すいと銀幕の中央に映し出された。主の御前で垂れていた頭を上げた、その瞬間のカットだ。
 「映画刀剣乱舞」での三日月宗近の、初登場シーンである。

 私の心の中の布袋寅泰が、ドギャーンとフェルナンデスをかき鳴らした瞬間だった。
(相済まぬ、かなり盛った。この時にはまだ主題歌が西川ニキであることも作曲がHOTEIであることも知らない)

 横顔のカットはこのシーンの中でもう二度三度とある。しかしやはりほんの一瞬だ。しかしその一瞬毎に、私の中のそれまでの穿った三日月宗近のイメージは、軽歩兵・並が大太刀_甲に吹っ飛ばされるが如き勢いで全てかき消された。
 私は横顔の美しい男に滅法弱い。
 そのまま残りの95分間、刀装なしの丸裸で、レア5の太刀・三日月宗近(Lv99)と対峙することになるのだった。

 はっはっはっは……
 いや、笑っている場合では無いか(ほんとにな)。

 その後、ややあってカメラは審神者の居る御簾越しに三日月を映す。ここでもし直ぐに直接彼の顔を正面から見ていたら、あまりの尊さに私の網膜は焼け付いていたかもしれぬ。
 老審神者はある複雑な事情から済まなそうにおずおずと、三日月たちに本能寺へ行ってくれるかと告げる。ここでようやく、審神者と向かい合う三日月宗近の優美な座姿を真正面に捉えるのだ。

 おそらく、劇場の審神者のほとんどはここで、この本丸の審神者として彼と向き合っている気分を味わうのだろうが、私はむしろ審神者の前に垂れている御簾になれさえすれば十分だ。恐れ多すぎて自分がこの本丸の審神者になど、想像すら烏滸がましい。さほどに彼は美しい。

 審神者と目の合ったじじいはその蒼い瞳をかすかに細めて優しく微笑みかける。「あるじ」と気遣うように呼びかける柔らかい声も何もかも、たおやかで慈愛に満ち溢れている。

 私の中の布袋寅泰はもう紛う方無きクレイジーギター布袋寅泰だった。ドギャーンどころではない。「スリル」あるいは「poison」のイントロのように、愛器フェルナンデスをかき鳴らしまくっている。
 参った。いやもう降参だ。私の負けでよい。

三日月宗近だ。私の目の前には今、三日月宗近がいる。

 とはいえこの時の私は三日月宗近の懐の深さ広さ、そして恐ろしさをまだまだ侮っていた。ま、軽傷程度で本丸に帰還できるであろうと高を括っていた。

 
 次に私が語彙を失ったのは、本能寺のシーンだ。
 時間遡行軍を慌てて追おうとする不動行光たちの前に、ババーンと立ちはだかるように登場するじじい。こんな場面でも土足を嗜めるとか、じいさんそんな場合じゃねえだろと総ツッコミされそうなのだが、何故だかぎゅんとしてしまう。
 不動くんは色々あって本能寺の出陣に在っては一番辛い思いを抱いている。だがそれもあってか「俺も(奥へ)いく!」と血気盛んな声をあげるのだ。しかしじじいはそんな健気な短刀の心を慮ってか、ここを頼むとビシッと押し留めてからの優しく諭すような

「〇〇○○」

 でまたドギャーンとなった。私の心の中のHOTEIは一心不乱にギターをかき鳴らすしかない。

 その音も冷めやらぬうちに、今にも切腹して果てようかという信長の前に現れるじじい。本音か冗談かわからぬぼやきを云いつつも、敵を薙ぎ払ってゆく。そして時間遡行軍が不躾に開け放った襖を、ひと時も油断せず刀をふるいながら、すっと片方ずつ閉める。
そうして信長に非礼を詫びつつ(この時の台詞がたまらない)も、彼に正面で向き合おうとはしない。顔を見せてはならない、と思っているかのように。

 全てが終わり、身仕舞いする姿は凛々しくも典雅である。しかし閉じられた襖の向こうを肩越しに遣る瞳はあくまで冷淡だ。

 この場面、一度ではわからないが二度三度重ねて見ると実に趣深いことがわかる。正しい歴史上では相見えることのなかった両者が、片や己が相手に所望されていたと心得ており、片や己が焦がれた相手とは知らずに邂逅するのである。
 
 本丸に戻って来てからの場面で、持って来た団子を座卓に屈んで置く時の袖をさりげなく押さえる仕草、長谷部の追及にとぼけてくるりと踵を返す時に腰の刀が少しも揺れないこと、廊下を急ぐ時の裾さばき、審神者の前に慌てながらもきちっと守る座る時の作法。全ての所作が優雅にして怜悧を匂わせる。特に、座る時、そして立ち去る時。カメラは彼の全身を捉えたままだ。余計な切り替えや寄りがない。全ての仕草が終わるまで余さず映されても、彼は三日月宗近以外の何者でもない。ため息しか出ない。

あ…ありのまま  序盤の自分的最高潮場面で起こった事を話すぜ!

「信長がまだ生きていたと審神者が三日月に伝えるところから、出陣のため立ち去るまでのじじいの表情の変化が尊すぎてしんどい」

な… 何を言っているのか わからねーと思うが 
おれも 何をされたのか わからなかった…(だから七度も見ちまった…) 

頭がどうにかなりそうだった… イケメンだとか顔がいいだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

 突如ポルナレフ化するほど本当にこの場面のじじいの表情の変化はしんどい。まっこと国宝………いや、世界遺産に指定したい。審神者の言葉に釣られたとはいえ、迂闊に口走ってしまったことに一瞬その形の良い眉を顰め、笑って誤魔化しながら俯くあたり、フェルナンデスをかき鳴らしながら翻弄で上出来だとか叫びだしたくなる。

 そうしてそのあと審神者の前から立ち去る時、後ろ髪を引かれるのを断ち切るように、きっぱりと袖を払って立ち上がる仕草、真っ直ぐ揺らがず歩み去る颯然とした背中。

 それでいて、何かを察した鶯丸に見せたあの表情。
(それが最善だからとはいえ)誰も信頼していないようでいて、彼はやはり仲間というものを信じて甘えてはいるのだろうとは思う。彼なりに。

 三日月宗近尊すぎる。しんどい。無理。

(ただの鳴き声だ。気にするな)

そう、ここではまだ片鱗しか味わっておらぬ。
三日月宗近という天下五剣が一振りの恐ろしさの。 

 其の伍に続く。

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