ジョン・ミアスハイマーのウクライナに関する最新記事"Foreign Affairs" – 批評
ギルバートドクトロウ(Gilbert Doctorow)-ブリュッセルを拠点とする独立系政治アナリスト
数日前、米国で最も多く読まれている国際政治専門誌『Foreign Affairs』に、シカゴ大学教授ジョン・ミアシャイマーの記事 “ウクライナで火遊び:過小評価されている破滅的なエスカレーションのリスク“(Playing with Fire in Ukraine: the Underappreciated Risks of Catastrophic Escalation)が掲載された。
ロシアに関するあらゆることに『Foreign Affairs』が月並みな偏った解釈をしていることを考えると、ミアシャイマーが2014年秋号に“悪いのはロシアではなく欧米だ(Why the Ukraine Crisis is the West’s Fault)”
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という記事を掲載してワシントンのシナリオに挑戦したことは、それだけでも大きな出来事だった。当時、その記事は米国の外交政策コミュニティの大多数を占める強硬派と同誌の読者の間に怒りの爆発を起こした。
記事が出た直後の2014年にミアシャイマーが行った同テーマの講演の動画サイト(http://www.youtube.com)は1200万人以上が閲覧した。今年の春にYouTubeで発表された同じ講演の更新版は160万人以上が視聴している。ジョン・ミアシャイマーは、今日、ウクライナ戦争に関する従来の常識に異を唱える学者の中で、最も広く見られ、耳を傾けられていると言ってよいだろう。
私はミアシャイマーの、ウクライナの紛争がいかに容易に制御不能に陥り、核戦争にエスカレートしうるかを警告する新しい記事の価値を惜しみなく認める。ホワイトハウスの経験不足で無知な顧問団は、その自己満足から脱却しなければならない。Foreign Affairsに掲載されたものには必ず目を向け、一方で例えば http://www.antiwar.com に掲載される記事などは、読む前に燃やしてしまうというような態度から。
しかし、だからといって、ミアシャイマーが主流メディアや主流学者と同じように限定され歪められた情報源に基づいて分析を行い、おそらく彼の結論を大きく変えるであろう他の情報源を無視していることが許されるわけではない。はっきり言うと彼は、反撃によって膠着状態に陥る、またはロシアが敗北する可能性もある、というワシントンやキエフのバラ色の予測に耳を傾けすぎていて、地上での作戦の進展に関するロシアの報告に耳を傾けていないと思われる。ロシアはドネツク州を征服、つまりドンバス全域の掌握に向けて、ゆっくりと着実に進んでいるのである。
ロシア軍の進撃は、頻繁に宣伝されたウクライナの攻撃の芽を摘むためにケルソン地方に兵力を転用したことによってほんのわずかだが減速した。最新のニュースではロシア軍は2014年のドンバス独立運動の発祥地であるスラビャンスクとクラマトルスクの戦略的要衝に接近しているという。これらの中部地方の都市を奪うことで、過去8年間、住宅地を爆撃し、毎日市民を殺してきたドネツク市郊外の最も要塞化されたウクライナ陣地への武器供給を断ち切ろうとしているのである。このことは、彼らが先週、ドネツク人民共和国の首都からわずか2キロのペスキの町で、ついにウクライナ軍の陣地を制圧・破壊したことの説明になる。
ペスキを制圧したことは西側メディアでは報道されなかった。戦争行為に関する国際条約に違反した民間人の標的に集中して行われた戦争犯罪的な活動が決して報道されなかったのと同じである。したがってロシアの前進は「衝撃と畏怖」のニュアンスを全く含んだものではなく、つまり、ロシアは見出しを飾るようなこと、バイデンが不釣り合いに戦争を激化させるようなことは何もしていないのだ。
ロシア側の最新のスケジュールは、テレビで放映される主要なトークショーで発表されたように年内にドンバスの解放を完了することである。その後、ウクライナが降伏しなければ、オデッサを経てトランスドニストリア、ルーマニア国境まで進攻し続けることになり、その時点になれば誰も平和条約を必要としなくなるだろう。ゼレンスキー政権は相互の批判で権力基盤が揺らぎ、このまま消滅してしまうかもしれない。
ミアシャイマーの記事は破滅的とは言わないまでも、紛争がエスカレートする危険なシナリオの数々について詳細に述べている。しかしそれらは無数にあり、ほとんどが予測不可能であるため、結局のところ、彼がカバーしているのは事態がおかしくなる可能性のほんの一部である。彼が認めているように、それらはあまり起こりそうもないことなのだ。確かにそうなりますように。
その破滅的なエスカレーションの可能性の一つとして、現在世界のメディアが注目しているのが、ロシアが占領するザポリージャにあるヨーロッパ最大の原子力発電所における膠着状態である。紛争の両サイドとも、宣伝のために核施設への砲撃やロケット攻撃に固有の脅威を誇張し、相手側を狂人として描いている。ウクライナ側はクレムリンの指導者を核テロリストや恐喝者と言い、ロシア側は発電所を攻撃したウクライナ軍を「手榴弾を持った猿」と言う。ミアシャイマーが記事を書いたとき、発電所の損傷と大気中への放射性物質の放出が念頭にあったことは確かだ。しかし、はっきりさせておきたい。ロシアによるウクライナの港の封鎖が、紛争前にウクライナに注文した穀物を受け取れなかったアフリカ諸国に飢餓を強いたと言われるのと同じように、これはインチキな争点だ。実際、原子炉は厚さ1メートルのコンクリートの壁に囲まれており、ウクライナ人が発射できるすべての弾丸を通さない。危険なのは管理棟と冷却装置だ。そしてロシアは大惨事を防ぐために、いつでも原子炉を停止させることができる。
ここで、ミアシャイマーが記事の中で指摘している核リスクについて考えてみたい。彼は米国の主流コメンテーターとまったく同じ議論を展開している。すなわち、地上部隊を含む西側諸国の介入レベルが高まって作戦が不利になった場合、ロシアは核兵器に頼るかもしれないというのである。私たちは、その地上部隊がすでにいること、すなわちHIMARS(高機動ロケット砲システム)の射撃を指揮する「指揮官」がいることを知っている。ウクライナ側と連絡を取っている米国や西側の上級将校が、ヴィニツァへのロシアのロケット攻撃で吹き飛ばされたことも知っている。この件はすべてもみ消され、ワシントンにとってこの惨事が漏れてしまった唯一の事件は、翌日、ウクライナ情報機関の幹部が解雇されたことだった。
もちろん、何がきっかけで事態が激化するかは誰にもわからない。しかし、ここでもミアシャイマーはいくつかの重要な検討課題を見逃している。なぜ彼はロシアが核兵器のオプションにまでエスカレートしなければならないと想定しているのか、そしてなぜそのオプションが、たとえばロンドンではなく、キエフに向けられるのか。 さらに言えば、プーチンが最近公言したように、ロシアはほとんど戦い始めていないという事実も見逃している。ロシア国民に総動員も徴兵通知も出していないし、経済を戦争態勢に移行させてもいない。そして、最も重要な兵器を配備していない。それどころかNATOとの直接戦争で必要な場合に使用できるように、武器を隠し持っている。極超音速ロケットやそれに類するものに搭載される、破壊力の大きな通常兵器である。
さらにワシントンかモスクワのどちらが綱引きに勝つかということに決定的な影響を及ぼすにもかかわらず、ミアシャイマーが記事で取り上げていないもう一つの局面がある。それは、秋から冬にかけて暖房の季節になると、制裁の結果もたたらされるヨーロッパの経済的打撃が政治的に維持できなくなるということだ。バルト海とポーランドは、妄想的なロシア恐怖症に導かれているため、今後も論理的に判断することはできないだろう。しかし、私が地元のエリートたちから聞くところによれば、EUの主要国の中で最も不安定なフランス、次いで東ドイツ、さらに受動的なベルギーでも街頭デモが起きるのは必至であり、もしそうなればヨーロッパの政治家は別々の方向に向かい、結束は崩れるだろう。この心理戦はEUの国営メディアがいくら蓋をしようとしても、ロシアが勝つのは確実だ。ドイツのショルツ首相がノルド・ストリームIIの開通にゴーサインを出す日はロシアの勝利を意味し、米国主導の欧州での自殺行為的意思決定には終止符が打たれることになるだろう。
以上の理由から、私はミアシャイマー教授とその支持者たちに、ロシア人が何を言っているのかにもっと注意を払い、ワシントンから発信される熱風にはあまり注意を払わないようにすることを強く勧めるのだ。
John Mearsheimer’s latest article on Ukraine in “Foreign Affairs” – a critique