SESと受託の論議について

最近の傾向にSESは嫌われる傾向があります。
数年前にSNSで「SES叩き」が流行ったのですが、理由は纏めると以下でしょうか。
●案件ガチャに遭遇しやすい
●派遣企業が受注した額の半分が給料の相場
(50万で受けた案件は25万が総手取の基準なので社会保障を引くと手取りは17~18万くらいが基準)
●本人が想定していた将来設計が立て辛い

一方で受託する企業にもデメリットはあります
●基本的に赤字傾向の企業が多い
●赤字企業は新人教育が足かせになり、仕事量に対しての給料が低く結果として離職率が高止まりして自転車操業をやっている所が多い
●受託企業だからと言って必ずしも本人が考えている将来設計が叶う訳ではない
●専門分野に特化している企業に所属して専門分野の仕事に従属しつづけると専門以外の知識が疎かになりやすい(潰しが効きにくくなる)

筆者は受託企業とSES、更にはSESの下で受託している企業も経験があります。
筆者自身の個人的な経験則になりますが、これは本人の考え方によって変わるので一概にSESや受託を優劣で判断する事は出来ないものと考えます。
それそれに良い面もあれば悪い面もあり、そのリスクは本人が納得した上で選択すべきものと考えます。
また、SNSで拡散する流行りには仕掛けた人がメリットになる要素を含んでおり、拡散された内容が必ずしも正しいとは限らない事を踏まえておくべきです。

とりわけSESを必要以上に叩いてきた人の経歴を見ていくと、フリーランスを養成する講師が殆どで、本人も現役のフリーランスで実際に受託している傾向があります。
つまり悪く解釈すればSESを叩いて拡散する事によって、叩いた本人が目立つ訳ですからその人の主張に共感する人が現れたら自動的にお金を払う信者が増えてお金が儲かるという仕組みです。
フリーランスは常に仕事を受託できる訳では無いので、安定した収入を得るには継続的な受講者(信者)を獲得していく必要があります。
そういった意味ではニッチーな商売方法だろうと思います。

SESは基本的に派遣出向で後から受託案件に切り替える企業も存在しますが、大抵の場合は派遣出向で収まります。
理由は凡そ、プロジェクトが中堅規模以上で受託してしまうと赤字になる確率が高くなるからです。
地域によっては赤字でも敢えて受ける企業もありますが、そういう企業は上位会社と特定の親密な関係や別のメリットが無ければ受託しません。

■自転車事業の企業に職場環境の改善は望めない

受託企業もSESも共通しています。
とりわけSES事業者は社員待機をさせない状況が企業安定の鍵を握ります。
SESは利益が出る様に見えて実際には社員を1か月待機させるだけで1年以上働いて貰わないと赤字がペイ出来ないのが通例です。
入社希望が少ないからと言って計画を立てずに未経験者を増やすと教育コストや社員待機の確率が上がります。
理由はSESで求められる事の多くは即戦力を要求されている事が多いからです。
未経験者がSESで現場投入できる条件は限られています。
・実務経験者とペアで仕事に入る
(生産性が落ちるので納得して貰える客先が限られる)
・未経験でも履歴詐称をやっても上手く乗り切れる人(環境に適合しやすく要領が良い人)
・炎上案件で生産性を度返しして急募している所
 (多くの場合は単金が激安な若年層)

悪い例えをすれば、個人で1億の借金を抱えて返済も苦しい状況を想像して頂ければ分かり易いでしょう。
この状況で利子が月100万と仮定します。頑張って月100万稼いでも借金は永遠に返済できません。月に200万ないし300万くらいを返済できるだけの仕事をしなければ返済目途が見えない訳です。
根本的に事業方針などを転換して幹部も刷新してオールリセットしなければ改善しない所が殆どですが、諸事情で現実的には出来ないので自転車から抜け出せないのです。

只、強い忍耐があれば自転車事業を継続している企業に入るメリットが全くないとも限りません。
それは30代までにPMやPLの経験や役職管理の経験が積めなかった人です。
自転車操業の企業は3kを伴っている傾向にあるため、家族経営を除いて離職率が高い分だけ多くの場合は生き残った人が自動的に新人を抱えて管理するポジションに入らなくてはならない状況下になります。
良くも悪くも上に立てる経験が得られ易くなります。

■業界で囁かれる30代定年説の意味

IT業界には30代定年説というものが存在します。
特にSier企業に強い傾向があるのですが、PMないしPL経験のない人材は30代以降の給与水準を考えるとは赤字になるので30代前半からリストラ対象になります。
SESの企業形態にもよりますがSESで30代までにPMやPLに相当するポジションに入れる確率は残念ながら低いです。
理由はそもそも外注依頼してSier企業の正社員コストを下げる事が目的になっているため、殆どの場合が仕事が掃けたら契約終了になる存在だからです。
仕様やプロジェクトの経緯などを理解している筈のPMやPLに相当する人が抜けてしまったらカットオーバー後の保守フェイズでも対応出来る人がいなくなるため、SES企業に受託させたりPMやPLを任せるケースは特殊事例と考えた方が良いです。

実際にPMに相当するポジションを受け持っている人も出会いましたが、派遣先に従属してきた年数の条件などがあり、上位会社と特定の関係を持っているSES企業でない限りは難しいです。

物は考えようです。
SES企業とSier企業では求められている物が違いますので、SES企業で極端な年齢枠を制限される事は少ないです。
但し、SESに限らず派遣枠で重要なのは扱われ易い人材である事が要求されます。Sierの管理者が20代や30代の層の場合、基本的に40代以上の経験者は嫌煙される傾向にあります。
経験則を主張されて押し通されてしまうと、若年者がプロジェクト管理の経験を積む環境に相応しくないと判断される面を持っているからです。
若年者がPM、PLに就くプロジェクトの多くは40代以上のプロパが裏で助言や指示している事が大半です。
派遣で出向している外野がプロジェクトの方針にいちいち口を出すのは余計な事の方が多いです。
SESとしての役割を理解している人は40代以上でSES企業に所属しても不況が起きない限り、何か不安や懸念を持つ必要は特にないと思われます。

■還元率80%を謡っている企業に注意したいこと

最近、SES事業者が高還元率を売りにして人材募集している傾向が目立ちます。原因はSES叩きが未だに蔓延している事にあると推測されます。
給料が上がる事は非常に良い事なのですが、過去を遡ると性質は違うもののクリスタルグループが類似した業態で破綻しています。
※クリスタルの破綻原因はコンプライアンス違反(偽装請負)ですが、会社に余剰資金がそんなにない状態で成り立っていたので子会社を大量に作って親会社に上納するシステムで何かあると子会社がすぐ潰れる事も普通にありました。
受注単金が安いと言われていましたが採用は大卒が中心で実際にはそんなに安い単金で受注している訳でもありませんでした。
筆者周辺の関連企業は実務経験者で20万に届かない仕事をクリスタルから入った人は新卒の正社員雇用で20万以上貰ってボーナスまでついていました。これが当時の現実です。

企業基盤や資本が確保されていてもSES事業者は待機社員が増えると確実に赤字です。
実際にクリスタルグループに所属していた人と仕事した経験があるのですが、良くも悪くも高還元率の代償として3か月以内に派遣先が見つからなかった場合は問答無用で解雇になっていました。
マスコミを中心に企業内部留保が多いと問題になっていますが、実際に内部留保を無くしてしまうと企業は労働基準法で雇用責任の義務を背負いながら、企業資金は有限なので現実的には雇用責任は持てないという現実が待っています。

筆者自身、80%還元の企業と実際に面談を受けたのですが、不況になった時の雇用について確認すると「不況の状況による」と濁した回答が返ってきました。当然だろうと思います、寧ろ仕事が受注出来なくなった人から迅速にリストラして企業整理や立て直しを図る必要が出てきます。
海外では一般的ですが日本国内では労基順守の問題でこのスタイルは余り浸透していません。

また、80%の還元率を実現するには単価の高い案件を取って来なければ利益が出ないため、ニッチーな特技を持った人で無ければ自動的に採用枠から外れます。
1人月100万で売れる人材と1人月50万の人材では企業が受け取るマージンにも2倍の差が出ます。
正社員を雇う時に50万で商売して20万で雇うか、100万で商売して40万で雇うか、就職希望者が満足するかの話にも繋がります。
(単金50万だったら純粋に40万貰える筈だおかしいと考えるかもしれません。会社利益10万の中で会社が各社員の社会保障の経費を支払う事はまず不可能です。社会保障が引き上がっている事情で総手取りの半分くらいは持っていかれる事を前提に考える必要があります。)
50万で売っても10万の利益しか出ないなら営業マージンの相場は5千円を超える事はまずありません。
売り込む要素が低いならば、そもそもが楽して営業が出来ないですよね。
 ※景気が良くても都合のいい仕事が降って沸いてくる訳ではないので、
 どこのSESの営業も個々のスキルと需要を比較して仕事を取ってくるのは
 簡単ではないです。
 IT業界は景気が悪くなると一気に仕事が縮小する傾向の強い業界です。
 景気が悪くなるとどの企業でも仕事を選ぶ側から譲歩する側に転じてしまいます。
営業価値が薄くても別の強い魅力や将来性を持っていなければ採用が難しい事になります。
この様な事情を理解した上で入社を考えた方が良いでしょう。

別の側面を見ると本人にニッチーな技能を持っていて、その技能を生かす希望を持っている人には適合しやすい環境になるのではないかと思います。
一般的にはSESで案件ガチャに遭遇するという話はウソではないですが、特定技能のウリを提案する営業なら需要が存在する限り、本人の希望に沿った仕事が得られ易くなるというのも理屈として合っています。
結果として企業評価が良くなるという話かと思います。
こういった傾向の企業に悪い評価は見当たりませんでしたので、それが事実かと思います。

■受託中心の企業で注意すること

受託中心の企業はSESと違い、社内の人と長期に渡って接触する機会が増えます。

●理不尽な事があっても耐える必要がある
●余計な事は言ってはいけない
●必要以上に仲良くなってはいけない

SESの枠では本当にソリが合わない人と遭遇してどうにもならなかった場合、不況で無ければ営業が出て物を申すか本当にダメな場合は別案件に移動する選択があります。
しかし、受託中心の企業に入るといちいちそんな事に構っている余裕は誰にもありません。
多くの場合、ソリが合わないなら我慢するか退職するかです。
そういった意味ではSESも過去に仕事した人と遭遇しやすい狭い業界でありながら、良くも悪くも人間関係のしがらみは薄いケースが多いです。

エンドユーザでも社内でも余計な事を発言した事が切っ掛けであらぬ方向に向いたり余計な責任を背負う結果になります。
受託ではよく「言った」「言わない」という話が金銭事情に繋がって問題になる事が多いのですが、確実になっている話以外の不明確な事を発言してしまうと想定していない事態を引き起こす可能性があります。

必要以上に仲良くなって慣れあってしまうと仕事とプライベートの見境がつかなくなってしまいます。
コミュニケーションが無ければ人を動かす事は出来ないので必要ですが、必要以上に接近するとプライベートの領域まで踏み込んでしまって、それが原因で割れてしまうと関係がギクシャクしたまま改善が難しくなり、自分で墓穴を掘って居心地の悪い状況を作ってしまいます。
多くのSES企業は派遣出向なので、まず馴れ合いが生じる事はありません。
セキュリティーの厳しい出向先になると飲み会や納会などに一切案内しない企業もあります。悪く言えば仕事だけやって下さいという話です。
案内しない理由は外部からの余計な情報の吹込みを抑制する為です。
特に新人プロパが外部の派遣社員に不要な情報を吹き込まれて事実ではない話を信じてしまった場合、それが引き金で仮に企業損益を被る事になったとすれば責任所在を追及が出来なくなってしまいます。
しかし受託で長く仕事付き合いが続くと、気が緩んで慣れ合ってしまうリスクが生じます。

■小規模で新鋭を固めている企業は1案件の単価相場が低い

この傾向は30年以上前から変わっていません。
過去にはVBAやAccessが流行っていた時代は2日で設計、製造、テスト、納品といったものがザラでした。
受注単金が10万に満たないものが通例のため、1人しか割り当てていなくても3日使ってしまうと人件費は約5~6万使った事になりますので赤字のラインに入ってしまいます。

PHPの案件に多いのですが、受注単金は中小企業向けに10万を切っている所が多いです。
10万切ってSEO対策やレスポンシブデザインや販売管理機能を提供している所が多い訳ですから、この労力を1人で2日以内に納品しなければ採算が合わない事になります。
当然、普通に0から構築しては2日で納品は出来ないので独自のフレームワークなどを構築していてベースを元に改修するものと思いますが要領良く作業しなければ難しいです。
実質1日で設計・製造・テスト・販売データや顧客データ投入まで完了する必要があり、2日目には納品です。

実際、20年近く前に筆者の住んでいる県の支援事業でRubyの受講枠を取った経験がありますが、講師の方が仰るには2日で納品するのが通例との事で明方まで作業しているのが常習化しているとの事でした。
20年前と比較して今はもっと良いフレームワークや企業独自のフレームワークを構築しているケースが多いので徹夜までして頑張る所まで必要が無いと思われますが、作業効率を求められるのは間違いないです。

高い額を取って中堅規模以上の案件に設計・開発を当てるか、安く大量にサービスを提供して稼ぐかは意見の分かれる所かと思います。
安く大量に提供する場合、単純計算で1か月に10件分を納品しなければなりません。
只、10件納品すれば単純計算で1人月で100万の収益が出ます。
諸事情で納期が遅れるものが発生した事を想定しても、作業者本人が優秀であれば正社員で月収40万も夢ではありません。
結局の所、本人がやりたい仕事なのか、仕事量に対して満足できる給与なのかなどが焦点になると思います。

■受託中心の企業は下流から上流までの経験を積みやすい

SESの弱い所は基本的に今までの実務経験の中から営業枠で取れた仕事を基準にして面談で採用された企業に入るのが通例です。
よって、下流の経験は簡単に積めますが上流の経験は最終的に面談に通った上位会社の都合に左右されます。
上位会社との個人的信頼関係を長く構築する事によって上流を任されるケースもありますが、基本的には上流は単価が高いので上位会社のプロパが優先され易いです。
残念ながら上流経験が無い人は基本的に上流の席に着く事は難しいです。
その理由の一つは折衝や仕様の正確な記憶量やコミュニケーション能力を要求されるケースが多く、ホールスタッフなどで接客経験を積んでいると積んでいない人では短期記憶能力も含めてどうしても差が生まれます。
結果として上流や下流の経験すら積んでいなくとも、接客経験のある人の方が上流に食い込み易い傾向にあります。

SESの枠だけで仕事をしている限り、下流から上流に食い込めない人は求められている所に転職するか、自分の努力や責任でなんとか必要とされる能力を補完しない限り、上流には入れません。
多くのSES企業は抱えている社員をとにかく出向先に出す事が手一杯でそこまで面倒を見てくれません。
そういった状況下にある場合、一番の近道は同じ上位会社と何年か良い状態を保って付き合って信頼を得てから交渉する形になるでしょう。

受託中心の企業はその点、下流から上流まで経験を積ませる傾向にあります。
ソフトハウス系の企業になると未経験でいきなり設計書作成から入る事もあります。
筆者自身がそうだったのですが、本人の能力を試す意味と製造工程の前で不明瞭な部分を潰しておかないと本人が製造に入って困るからです。
そういった意味、上流から下流までの経験を積みたい意思のある人は受託中心の企業に入れる様に頑張った方が恐らくは本人が望むスキルを得られ易くなるでしょう。


わりかしネガティブな内容になってしまいましたが、SESと受託のどちらを選択しても最終的には本人次第です。
本当に箸にも棒にも掛からない孫請け以下の企業に所属していると色んな意味で本当にどうにもなりませんが、SES、受託、Sierのそれぞれで一長一短があり、何が間違っていて何が正しいかは当事者の運にも委ねられる所があるので正解は無いのではと考えます。

悪く言えば漫画家や小説家、作曲家の先生で有名になった人の中に本当にやりたかった事がヒットしているものは限られているのが現実です。
有名な話にB'zが「これがやりたかった曲だ」とjuiceという楽曲を発表して壮大にコケてそれ以降、B'zはやりたかった路線を封印してしまいました。
直木賞作家の中に篠田節子という方がおられますが、この先生はホラー作家にも関わらずホラーとは全く関係ない、しかも洋書の原作から当時の日本の社会に置き換えて書き起こした小説が受賞された事を受けて「意外かつ不本意だ」とコメントしています。
この例は極端な話ですが、IT業界も時の流行りで例えばGO言語をやりたいからと言って新人でどうしてもと強い熱意を持って実務経験が積めたとしても、GO言語が永遠に持続する事は限らないし、20年前に日本で君臨してきたVBAやVB6が時代の流れで総スカンを食らってしまう事もあります。
今主流になっているC#やJAVAも将来的には別の新しい言語が主流になるかもしれません。

本当にやりたかった事が実益に繋がるかを一歩踏み留まって冷静に考えてみる事もありなのではないかと思います。
結局の所、受託でもSESでも変化する市場ニーズに一致していないと仕事って取れない訳で、筆者自身は良くも悪くも仕事と割り切って拘りは持たない様にしています。
だからと言って企業の言い分を全て聞く必要があるかと言えば、それはまた匙加減の違った話にはなりますが。

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