エムンニス表紙N用

三章 キトの踊り、アトの拍子

 キトヤーユは自身の光で様々な種を出芽させた。その種類は多岐にわたり、地上は下草、小木、中木、高木の層を為す森に覆われた。しかしキトヤーユはその植物の名前おろか、森が広がっている事すら知らずにいた。
 そこでアトミヨは全ての植物の名前を調べ、その特性を全て自らの言葉で記録した。目まぐるしく天候を変え、時に自身さえも傷付けてしまうキトヤーユを守ろうとしたのである。しかしキトヤーユの関心を留める事が出来ず、折角覚えた事もキトヤーユは忘れてしまうのだった。しまいにはアトミヨが植物に関して説明しようとすると、キトヤーユは何処かへと逃げていく始末。このような態度にアトミヨは疑いを抱くようになった。キトヤーユは世界を壊そうとしているのではないかと考えたのである。自らが育てた森に関心を抱かないのがその証拠であると、アトミヨはキトヤーユの天候によって落とされた木の枝をいくつも拾い上げ、それをキトヤーユの眼前に突き出した。

「見よ。不必要に落とされた枝を。直に木も倒されてしまうだろう」

真剣に説くアトミヨに対して、キトヤーユは突き出された枝を全て受け取ると、それを地上に広げ始めた。呆然としているアトミヨを他所に、キトヤーユは一本の枝を選んで手に取るとそれを大事に抱いた。

「名は知らない。しかし、これはいい香りである。三角岩が並んだ所にある、葉が丸く細かい木の香りに似ている」

 キトヤーユは徐に、抱いた木の枝を天に向かって掲げ持つ。そして枝の片側を掴むと、今度は枝先を地上へ向けて風の流れを体現するかのように踊り始めた。その枝は確かに三角岩の所から拾ったものであった。アトミヨは自身の間違いに気が付き、キトヤーユへの詫びにと同じく三角岩の所から拾った二本の枝を掴み、枝同士を打ちつけた。自身の心臓の音に合わせて枝を打ち鳴らせば、不安定であった踊りが落ち着きを見せ始め、涼やかな風が木立を通り抜けていくと、キトヤーユの体は浮かび上がり、あっという間に空の先へと行ってしまった。

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