一章 アトミヨとキトヤーユ
嘘、奇矯、喜び、気楽のキトヤーユ。
悲哀、疑心、真、誠実のアトミヨ。
世界が真白であった時。アトミヨという青年が一人ぼっちで立っていた。
孤独に耐えかねたアトミヨは、ある日から一心不乱に白土を掻いた。手は傷付いて痛い痛い。それでも止めずに掻き続けた。手から落ちる赤色が白土を次々染め上げていく。いくつもいくつも穴を開け、盛られた土は山脈に、穴は後の湖となった。
月日は流れ、土は知らずに赤から茶色になっていた。そしてやっと見つけた小さな種をアトミヨは大事に抱いて涙を流した。何日も何日も涙を流した。涙を受けた種は堅い殻を柔らかくしてアトミヨの手から滑り落ちようとする。驚いたアトミヨは、土から離したのが悪かったのだと、すっかり解された地面にその種を埋めた。すると埋めた場所から小さな黄色の芽が伸びてきて、生まれたばかりの風を受けて穏やかに揺れていた。アトミヨが囲いを作って見守ると、小さな芽は突然泣き出した。大地を揺るがす様に、大きな大きな声で力一杯泣いていた。
空は白から灰色になり、細い雨が大地へと降り注ぐ。
長い長い雨が過ぎ去ると、世界は白から様々な色へ変化していた。様変わりした世界にアトミヨが見入っていると、とんとん肩を叩かれた。何事かと叩いたモノを見遣れば、なんとそこには黄色の羽織を纏う娘が一人立っている。アトミヨが注意深く正体を問うと、それは黄色の芽であった。娘はキトヤーユと名乗り、雨の青に染まりきって寒さで震えるアトミヨを左手で優しく撫でた。
するとアトミヨの身を染めていた青が綺麗に剥がれて真白の空へと舞い上がる。キトヤーユは明るく笑うと舞い上がった青をむずと掴まえ、思いのままに切り取った。無事だった青はそのまま真白の空に張り付いて青空となり、切り取られてしまった部分は真白が滲みだし雲となった。キトヤーユは切り取った青色を掴んだまま、身に纏う黄色の羽織から適当に生地を切り分け、その二つを合わせた。すると合わさったところから新たな青が生まれ、余すところなく生地を染め上げる。キトヤーユは、作り出した生地をアトミヨへ渡すとアトミヨはそれを体に纏った。しかしキトヤーユよりも体格が良かった為、体をすべて隠すには長さが幾分足りなかった。限られた長さで如何に体を隠すか。アトミヨは何度も何度も試行錯誤を繰り返し、漸く自身の身を隠す纏い方を考え出した。その方法を忘れてしまわない様にアトミヨは指を用いて地面に形を刻んで記録を行った。それがアト語の始まりとなり、その姿を見ていたキトヤーユが真似をして地面に描いたものがキト語となった。
キトヤーユとアトミヨは互いに協力して世界を整えていった。
キトヤーユは、天気、季節、国、食物、生物を創り。
アトミヨは、知識、言語、秩序、道徳、住処を与えた。
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