五章 対立
アトミヨが一晩で掘り抜いた湖程の大穴は、際限なく注がれる黒い液によって満たされていった。異常な事態を目の当たりにしてもなおアトミヨは空にいるキトヤーユの安否を気遣った。原因がキトヤーユであるとは夢にも思わなかったのだ。しかし、アトミヨの想いは裏切られる事となる。大穴が黒い液を抱え込めず、いよいよ溢れ出ようとするその時に、液の入った壺を空の上から傾けるキトヤーユの姿をアトミヨは見てしまったのである。キトヤーユに激しい悲しみを覚えたアトミヨは、溢れた出した黒い液の全てを飲み干すと、言葉の鎖を空へと投げてキトヤーユを捕らえ、そのまま黒い液に満ちた大穴の中へ引き摺り落とした。
鎖は大穴の底に固く繋がれ、キトヤーユは黒い液から出られなくなってしまった。森への侵食はアトミヨによって防がれたが、キトヤーユを失った世界は根源となる光を失い、『夜明け』という現象は二度と訪れなかった。世界は白日と夕暮れ、夜の移ろいだけとなり、夜に月だけがあるのはキトヤーユの代わりにアトミヨが地上を照らそうとしているからである。
終
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