二章 憂うる男神
キトヤーユは身体から光を放っていた。笑えば光は強くなり、静かな時は仄かに揺れる。光は年々その強さを増し、世界を照らす程となった。色彩はより輝き、地上は小さな植物で溢れかえった。しかしキトヤーユの放つ光は、アトミヨには強過ぎた為、キトヤーユに近付く事が出来なくなり、会話さえもままならない。そこでアトミヨは青々とした地面の一部を剥がし、むき出しの地面に深い深い穴を掘った。アトミヨはその穴に身を隠すと、剥がした青い土を穴の入口に被せ蓋をしてしまった。耳をそば立てて、地上を見守る事にしたのだ。
それから幾年が経ち、キトヤーユはあらゆる世界からやってくる蝶々と会話を楽しむ日々を送った。蝶々は小さな種を渡すと、あるべき所へ帰っていく。貰った種を大事に大事にキトヤーユは地面に埋めた。すると小さな花々が咲き、キトヤーユの周りを彩った。平和な日々はしかし突然消え失せる。
幾年の間、アトミヨは賑やかな声を聞きながら安らかに眠っていたが、ふと目覚めれば、外は怖い程に静かであった。不安に思ったアトミヨが蓋を開けて外へと出れば、青々として力に満ち溢れていた世界は見る影もなく枯れ果てて荒寥としていた。キトヤーユはその中心で独り座っていたのだった。光は安定せずに強弱を繰り返す。アトミヨがキトヤーユに近付けば、その身は酷く傷付き、笑みを張り付けたその顔には亀裂が深く入っていた。
ただならぬ様子にアトミヨが事の次第を問えば、「事も無し」とキトヤーユは答えるばかり。悲哀を抱いたアトミヨがキトヤーユの両目を手で覆ってやれば、放たれた光は途切れ、世界は黒に隠された。光を消したキトヤーユは、その代わりに熱を帯びて、アトミヨの手をじわりじわりと焼いていく。それでもアトミヨが手を離さずにいると、アトミヨの身体は次第に光を放ち始めて黒を淡く照らし出した。こうして夜と月が生まれたのである。
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