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『ニゲラ考察』
エムンニス神話の研究者はアトミヨ教の経典『アウネ』並びにキトヤーユ教の経典『オアエネンヌ』の解読を行う上で、常に命の危険を覚悟しなければならない。これらの解読はアトミヨ教の過激派『黄色殲滅主義』及びキトヤーユ教の過激派『均衡破壊主義』にとって酷く都合の悪い事柄であるからだ。これまでも各国の優秀な研究者達が過激派の攻撃によってその命を散らしてきた。自らの命と研究を守るのであれば、どうか世界組織である国渡警察『ワタリ』を頼って貰いたい。我々ワタリは、この長らく続く対立関係を終結させたいのだ。
――国渡警察長 エムンニス神話研究者への言葉
『アウネ』初版表紙
【ニゲラ考察】
一・アウネ初版の悲劇
藍色の染料で染め上げられた布製の表紙は、その長い歴史の中で何が起こったのかを物語っている。こびり付いた染みは、人間の愚かさを序実に示しており、いかに当時の状況が悲惨であったかを想像するに難くはないだろう。 現在見つかっている歴史書には指導者によって、もしくはキトヤーユ教徒によって大量に処分された記述がある。『アウネ』正式名称『アトミヨ・ウカシス・ネヒス』は、中立教及びアトミヨ教の伝承によればこの世界の創生、二神の誕生、二神の対立を描いた物語であるという。この本の著者であるウコリク・アロトはアトミヨ教並びにキトヤーユ教が対立する以前、アイユ教の開祖として歴史書の中に登場する。この人物について分かっているのは一五〇〇年にアイユ教を開教した男性であるという事。アトミヨとキトヤーユを深く知る者として一部地域のアトミヨ教徒に伝わっている。謎の多い人物であり、出身地や逸話を示すものは現在まで見つかっていない。
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