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知のフォーラム「デジタル×サステナブル社会のデザイン」プログラム社会実装プロジェクト「障害者のサスティナブルライブを目指して」

知のフォーラム「デジタル×サステナブル社会のデザイン」プログラム担当教員を務める、経済学部の高浦康有先生と6名の経済学部の学生たちが、障がい者の雇用と就労の実状を現地調査するために、9月17日に、宮城県美里町のソーシャルファームと仙台市若林区の就労支援事業所で視察調査を実施しました。

スケジュール


 11時から12時にかけて、宮城県美里町にある社会福祉法人チャレンジドらいふ・ソーシャルファーム大崎の受入れで、ソーシャルファーム大崎で障害者就労の実態を視察調査しました。

ソーシャルファーム大崎で育てられる作物
ソーシャルファーム大崎の労働現場

14時半から15時半にかけて、仙台市若林区にある株式会社未来企画と障害者就労支援事業所アスノバの受入れで、障害者就労支援体制と今後の課題について説明を受け、理解を深めました。

障がい者就労支援体制と今後の課題について説明を受ける
課題解決のために必要な取り組みを考案

参加学生のコメント


(1)視察の結果、障がい者就労(及びその支援事業)をとりまくサステナビリティ課題についてどのような洞察を得ましたか?

学生1
 障がい者雇用における課題の1つとして、公費による運営があげられる。昨今、社会保障費の削減が国をあげての課題となっている。莫大な公費に頼りきりの就労支援施設は今後持続可能ではない。ソーシャルファーム大崎は、一般事業所として運営することで、従来の福祉型就労に必要だった公費支援が不要となる。これにより、年間約4000万円の公費が削減されている。現状、工場運営は収益の観点で難しい部分もあるが、売上が確保出来れば、持続可能な運営が可能である。これは、社会全体の負担軽減にも寄与すると考えられる。
 また、社会的包摂の強化にもつながると感じた。ソーシャルファーム大崎では、障がい者が一般の社会人として働くことで、社会全体に対して、障がい者の能力や可能性を示す良い例になることが出来ていると感じた。健常者と障がい者が関わり合い、認められているという安心感を得ることで、活発に自己実現に取り組む姿が見られた。対して、アスノバでは、障がい者と高齢者、子どもたちが同じ空間にいることで、多様性の理解といった相互作用を生み出していると感じた。障がい者が多い空間にいるべきか、健常者の中でも自分らしく生きるために他者に認めてもらう策を練るべきかは検討の余地があると考える。

学生2
 今回の視察を通じて、障害者就労及びその支援事業を持続的に行っていく上では、以下の課題に留意する必要があることを理解した。1点目は、障害者の特性を適切に理解した上で就労を支援することである。障害と言っても、知的障害から精神的障害、身体的障害まで様々な障害が存在しており、その障害の種類及び程度、また障害者自身の特性によって得意・不得意が明確に分かれる。よってそれらを理解した上で、障害者に活躍の場を提供する必要があると実感した。また障害者が自立的に仕事をこなせるように支援することが彼らのやりがいを確保する上で重要であり、その際は彼らに対して過度に穏便に済ますのではなく、適度な厳しさをもって接することに留意する必要がある。2点目は、安定的な収益を確保することである。障害者就労にあたっては、障害者に適切な給与を与えることで彼らの生活の質を向上させるためにも、事業で着実に収益を生み出していくことが不可欠である。今回の視察先は現状、日本財団からの支援が安定的な収入であり、本業たるほうれん草による収入はまだまだであるため、持続的に障害者の就労を支援していくためにも本業での安定的な収益確保が求められる。 

学生3
 見学を通して、障がい者雇用及び支援を行いながら利益を出すことの難しさを学びました。ソーシャルファーム大崎では、公費を使わずに収益化をすること目標としており、サラダほうれん草の出荷を行っている工場です。工場長の方がおっしゃっていたことで印象的だったのが、B型作業所だった頃と違い、ノルマもある上、顧客のためにクオリティーを落とすことができないため、負担が増えたという点です。B型作業所の時には、障がい者の方ができないことは、スタッフが代わりに行っていましたが、脱公費を目指したことで障がい者の方々も責任を持って働く必要が出てきたとのことでした。
実際、作業所の時よりも忙しくなったとおっしゃっている方もいらっしゃいました。しかし、髪を染めるようになったり、車の免許を取得したりなど、このソーシャルファームを通じ活動的になったという面もあるそうです。働いている方の雰囲気も良く、働く環境としては良いものだと感じました。
しかし、このような少し厳しめの工場であっても収益面ではプラスになっていないそうです。稼働が今年の3月から始まったのも、一つの理由だとは思いますが、やはり収益化は難しいと感じました。

学生4
 義務教育課程を終了後、障がい者の方やその保護者も含めて安心して社会に送り出す環境がまだまだ全国的に普及していないことが大きな課題であると思っている。今回取材させていただいたのは、宮城県美里町にあるソーシャルファーム大崎で、社会福祉法人「ちゃれんじどらいふ」が日本財団法人の企画・助成をうけるプロジェクトだ。ソーシャルファームはホウレンソウ水耕栽培工場で、障がいをもった方々10名と支援スタッフが種まきから栽培、梱包、発送まですべて行っている施設だ。障がい者就労として工賃が公費から賄われる従来のB型事業所とは異なり、障がい者の方は一般雇用の契約を結び、ホウレンソウの売り上げから彼らの給与が賄われるという雇用形態になっている部分は興味深い。一般雇用の契約になったことでB型事業所の工賃の10倍近く給与が給付されるため、障がい者の方はより生活にゆとりができる。実際働いている方にお話を聴く事ができ、同僚と頻繁にコミュニケーションをとり、自分の業務に責任感をもって取り組む姿勢に関心した。保護者も自立を目指す我が子を見て安心して送り出すことができると感じた。
 B型事業所を廃止し一般雇用形態に移行するこの新しい取り組みは、全国の自治体に先駆けて宮城県が手を挙げて開始された。就労支援の新しいロールモデルとして認知してほしいと強く思う。

学生5
 障がい者に求められる業務遂行水準が、就労継続支援B型雇用と雇用契約を結ぶ正規雇用および就労継続支援A型の間で乖離している点だ。就労継続支援B型事業所から障がい者と雇用契約を結び売上で賃金等を完全に賄うよう転換したSF大崎の工場長は、就労継続支援型と一般雇用での大きな違いについて、障がい者の責任と成長を指摘した。就労継続支援型では障がい者のできない仕事やミスに関しサポーターが代行等カバーし、また製品の完成度に厳格な基準を設けなかった。一方雇用関係を結び売上を追求する一員として企業活動に参画する場合、障がい者の自立的な業務遂行と製品が社会一般の厳格な品質基準を満たすことが求められるため、業務上のミスを指摘し自分でできるようになる成長や、製品に対して安全性や品質に妥協しない責任が求められる。現在の就労支援事業からサスティナブルな社会の構築、即ちDE&Iにおける障がい者雇用を達成するためには、企業・社会としていかにこの障がい者の成長及び取り巻く環境の変化を支えていくかが課題であると考えた。

学生6 
 視察に行く前は、障がい者就労施設では単純作業が多く仕事自体にやりがいはあまり感じられないようなものが多いのではないかというらイメージを正直抱いていた。しかし、今回2つの施設を見学しその印象が大きく変わった。まず1つ目に訪れたソーシャルファーム大崎では、今年の3月にB型就労施設から一般就労施設に変わり「脱公費」の取り組みを行っているという特徴から、よりいっそう責任感を持ちホウレンソウ栽培に取り組んでいるというお話を伺った。また脱公費前後で工賃が増え娯楽などにも使えるお金を自分自身で稼ぐことが出来るということ自体がやりがい、そして生きがいに繋がることをインタビューを通して強く感じた。2つ目で訪れたアスノバという地域の人との触れ合いのきっかけを提供する施設はB型就労施設であったため、1つ目と対照的な部分があった。A型就労施設や一般就労施設とは異なり、「今日はあまり仕事がしたくない」といったような気分の動きに寄り添ったり、外部とのコミュニケーションを得られる仕事や内部でひっそりとできる作業の選択肢があったりと、施設を利用する方がストレスを抱え込まないような工夫を採り入れた運営体制であった。2つの施設を見学して、障がい者施設を取り巻くサステナビリティ課題としては、「障がい者ではない人からの認識を変える必要があること」「障がい者が自身のあり方を選べる社会であること」が重要だと考える。現代社会には障がい者に対して、自分とは違う人間であると線を引いている人が多くいるが、年齢を重ねるにつれ障がい者と関わる機会は減っているため「自分たちと同じように働き生きていること」を知るための機会としてアスノバのような施設が増えることが必要だと感じた。また、生き方を複数の選択肢から自由に選べる社会にするため、全ての施設が一般就労施設になることを目指すのではなく、A型、B型がそれぞれの役目を持つことが大切であると感じた。

(2)それをふまえて、デジタル技術による事業革新についてどのような構想・提案を行えますか(あるいは着想を得ましたか)?

学生1
 作業者の特性を考慮した業務マニュアル化ができると考える。現在の日本社会において、仕事という一言の中に定型業務と非定型業務が、内包されているように感じる。しかし、昨今の人材不足を鑑みると、アウトソース可能な業務の切り出しが必要不可欠である。そして、それらは一般的に定型業務と呼ばれるものだろうと推測する。そこで、民間企業が法定雇用率を達成するために、障がい者を定型業務に従事する新たな戦力として雇用することが解決策ではないかと考えた。しかし、これを達成するためには、これまで以上に緻密で簡略化されたマニュアルが必要になると感じる。視覚性や言語化など、誰にでもわかりやすいマニュアルを目指し、フィードバックを重ねる必要がある。そこで、AIを導入し、作業者の作業適正の評価を重ね、個々人に合うマニュアルを作成することを提案する。この結果、障がい者を新たな戦力として活用することが出来るし、なにより総合職はアウトソーシングできないクリエイティブな非定型業務に集中することができるのではないか。そしてこれらが実装されれば、障がい者だけでなく、アルバイト、パート、新卒、シニアなど誰しもが働きやすい社会になっていくのではないか。 

学生2
 1で述べたように、障害者就労にあたっては彼らの特性に応じて支援していくことが必要である。そのため、例えばデジタル技術を駆使し、障害者が自らの特性に合った仕事を見つけられるような職のマッチングプラットフォームを構築することを提案したい。これにより、企業は必要な人材を獲得でき、障害者はやりがいのある職に就くことができる等、企業と障害者双方にとって有益であると考えられる。またデジタル技術を用いることでこれまで彼らが苦手としていたことを得意にし、職の幅を広げていくことが可能になると考えられる。例えば、文字を記入することが困難な障害者のために、タブレット端末による入力や音声入力を可能にする環境を整備することを提案したい。また障害者のスキルアップを支援する目的で、AIが彼らの学習状況に応じて学習方法をカスタマイズするといった学習支援モ提案したい。デジタル技術により、障害者の職の幅を広げることで、彼らの仕事にやりがいが生まれるだけでなく、収入が増えることによる生活の質の向上も期待することができる。

学生3
 このソーシャルファームでは、障がい者のスタッフのためにあえて手作業を残してる部分があると仰っていました。しかし、出荷できるクオリティを保つためにはこなさなければならない増えてしまったノルマも多くあるともおっしゃっており、デジタル技術の導入すべき工程について見直す必要があると感じました。例えば、出荷できるクオリティを担保するための葉っぱの間引き等は手作業としてそのまま残し、代わりに種まきなどは機械化するべきであると考えました。また、天候や水の些細な変化によってほうれん草が枯れてしまうことがあるとおっしゃっていたので、データ分析によって工場長等の一般スタッフの負担を軽減させることができると思います。たとえば、気温や湿度、日照時間などのデータを細かく取り、それとほうれん草の成長度合いを比較することで、どこを気をつけるべきなのかを予測できるのではないでしょうか?それにより、工場長をはじめとする一般のスタッフは、より多くの時間を障がい者の方に寄り添うために使うことができ、結果として障がい者方が働きやすい環境づくりにもつながると思います。

学生4
 AI支援により仕事内容を単純化、マニュアルを作成し汎用化することで、障がい者の方がさらに働きやすい環境を作ることができると着想を得た。一般企業で障がい者の方を雇用をする際に障壁となることとして、支援する側のノウハウが無く一人ひとり特性の違う障がい者を雇用する余裕が日常的にないということだと思う。各自の業務をこなすのにいっぱいでマニュアル作成やノウハウ言語化まで手が回らず、結果としてて情報が共有されないので、業務の属人化が悪影響を与えてしまっている。マニュアル作成は単に障がい者の方が働く上での基礎的な部分ではあるが、それ以上に新卒者や業務に慣れていない従業員にとっても働きやすい環境づくりにつながる。結果として障がい者雇用を促し、業務効率改善や人手不足解消を手助けすることになり、障がい者だけでなく企業側にとってもメリットの多い施策なのではないだろうか。AI支援という部分で業務効率を上げることは簡単ではないかもしれないが、今回取材した社会福祉法人「ちゃれんじどらいふ」が障がい者と企業との間を取り持ち支援していくことに期待したいと思う。

学生5
 障がい者の業務をRPA業務とシェアする研修の導入だ。障がい者の業務遂行可能な作業をRPA業務から切り分け、あえて手作業にする。修得した作業はRPA業務に戻し、より複雑な業務を手作業に切り分けることを繰り返す。自立的かつ責任ある労働について、➀業務量②業務の複雑さ③業務スピード④作業ミスの量⑤作業ミスの重大性の5要素に分けて考察すると、就労継続支援B型での業務は一般職員と比べ➀少ない業務量②単純③遅くても問題ない④多くても問題ない⑤重大事故に繋がらない業務が中心である。一方でDE&Iを達成するには➀一般職員と同程度の量・時間で②機械化のできない複雑または困難な業務を③一般職員と同程度の速さで行い④ミスなく⑤重大事故に繋がる恐れがある業務でもトラブルなく遂行する、といったことが求められる。取材したSF大崎では②業務が非常に複雑なビニールハウス内の温度や日照管理をオートメーション化しており、その他農作物の土落としや袋詰め、種まき等比較的単純な作業から従業員に割り当てていたことを参考に、RPAの特徴である単純作業を敢えて障がい者にアサインしかつ機械でいつでもカバーできるような体制を構築することでまずは②以外の要素で成長を促し、徐々に②のレベルを上げるような研修体制が必要ではないかと考えた。

学生6
 1つ目に訪れたソーシャルファーム大崎では、あえて自動化できる所を自動化せず、手作業で行う仕事を作り出すことで障がい者の方がやりがいを感じながら作業を出来るようにしているという背景を伺った。そういった障がい者が働く施設は多くあると予想できるため、作業以外の部分で効率化を図るためのデジタル技術導入を行う必要があると考える。例えば、新しく施設に加わった人材に仕事を教える際に付きっきりで細かく作業内容を教えると、教える人の時間が拘束され他の人材のサポートができない場面がある。そういった場面に備え、それぞれ作業を行う場所や器具に使用方法が詳しく表示されるタブレットや小さい画面を用意し、一つの手順が終わったことを認識したら次の動作が表示される、といった画面上で確認できるマニュアルを導入することを提案する。自動的に手順を表示するマニュアルを導入することによって、人材の研修期間における指導者の負担緩和ができ、人材側も自分のペースで覚えることが可能になると考える。

自由記述
学生2
 
今回の視察で印象的であったのは、何よりみなさんが楽しそうに働いていることであった。インタビューに応じてくださった方々は皆収入が増えたことにより美容室に通う余裕ができる等、充実した生活を送っていた。またある1人の方は大崎のソーシャルファームに入社したことにより、以前に比べて活発的に行動するようになり、免許の取得をされていた。視察を通じて、ソーシャルファームの社会的意義の大きさを実感した。

学生4
 社会福祉法人「ちゃれんじどらいふ白石社長、「アスノバ」職員の方が共通して仰っていた、「障がい者の方が働きやすい社会は、誰もが働きやすい社会」という言葉が印象的だった。ともに助け合って共生していく未来を実現するため奮闘する現場を間近で取材させて頂き、改めて一般企業での障がい者雇用の難しさが実感できた。

この視察調査を通して、学生たちは、障害者の就労と雇用に直面している課題、今後必要とされる取り組みについて認識し、そして障害者が働きやすい環境を作ろうとしている人々の姿をこの目で見て、理解を深めることができました。










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