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知のフォーラム「デジタル×サステナブル社会のデザイン」プログラム社会実装ワークショップ「持続可能な酒造を考える-DX化による事業革新の構想と提案-」
経済学部の高浦康有先生(知のフォーラム「デジタル×サステナブル社会のデザイン」プログラム担当教員)、経済学部高浦ゼミ4年生9名は山形県天童市にある出羽桜酒造株式会社にて、社会実装ワークショップを開催しました。
参加学生のコメント
1.視察の結果、酒造事業をとりまく環境および社会課題についてどのような洞察を得たか。
日本酒業界を一言で表すなら「復権」であると今回の研修を通して学んだ。若者の飲み会離れ、物価上昇、カクテル類の台頭など様々な要因により、日本酒全体の消費量が下がっているというお話を伺った。個人の見解としては、日本酒と飲み放題のミスマッチングが若者の日本酒離れを加速していると考えた。私は飲み会の雰囲気もお酒も大好きで週に一回は居酒屋に出向くが、その際一番に意識しているのは飲み放題のコスパである。学生が好む、飲み放題コースのメニューには大抵の場合日本酒は入っていない。入っていたとしても、質の悪い(アルコール臭が強すぎる)日本酒で、頼みたいと思わない。日本酒が嫌いなわけでは断じてなく、コスパを意識した結果手に取るのはビールやハイボールその他カクテルなどになってくる。この飲み放題とのミスマッチングが「飲み放題日本酒=度数強すぎて飲みにくい」「日本酒=高い」というイメージを若者に植え付けてしまっていると私は考える。日本酒が好きな私自身も日本酒は特別な日にしか飲めない高貴なものというイメージがぬぐえない。そんな中、試飲させていただいたラフランスのお酒などの日本酒の果実酒は若者人気「復権」のカギになり得ると考える。甘くて度数の強さを感じさせず、飲み放題メニューにあったら頼みたいと思える一品であった。このような日本酒のイメージを一新させるような商品を若者の飲み会の場に提供することで「復権」に大きく近づくと私は考えた。
酒造事業を取り巻く大きな課題は2つあり、酒を飲む顧客の減少と産業構造上の問題があげられる。1つ目の酒を飲む顧客の減少は社会の人口構造にも深くかかわる問題である。この課題に対して出羽桜酒造は「日常感のある吟醸酒の製造」をテーマに富裕層のみならず地元の山形の人びとにもお酒を飲んでもらえるような価格設定などに取り組んでいた。また認知拡大のために積極的に酒造見学を開催したり異業種(Beams・NTT東日本)との協働を行っていた。2つ目の産業構造上の問題は具体的には物流・小売りが価格決定権を持ちやすい点と日本酒産業の技術革新の周期が遅い点だ。物流や小売りが価格決定権を持つことによる弊害は酒の適正価格の不正化である。5000円の酒が小売り側の都合で3000円で売られた場合消費者はそれを3000円の酒だと認識してしまい従来の3000円の酒を受け付けなくなってしまう。そうならないために出羽桜ではメーカーが価格決定権を持つことに拘っていた。また技術革新に対して、出羽桜は酒造業界を先導する立場として新技術を競合に対してオープンにする姿勢を取っていた。そうすることで競合にも新技術が生まれ、中長期的に見れば技術革新のペースが早まるとの見方であった。
視察の結果、酒造環境を取り巻く環境は厳しいと思われる。その理由は大きくつある。1つ目は、市場の縮小である。人口減少や若者をはじめとした酒離れなど、アルコール自体の需要は減少している。その課題に対して、出羽桜では、吟醸酒にこだわるのではなく、甘酒や日本酒ベースのリキュール酒など、幅広いラインナップづくりに取り組んでいる。また、師弟を全国の酒造から受け入れるなど、業界全体の品質向上を目指している。理由の2つ目は、海外における認知度や売上に開拓の余地がある点だ。これは、チャンスでもあると言える。山形県内の酒造会社では、海外輸出に消極的な会社も多い。しかし、仲野社長は、輸出の必然性を訴える。出羽桜では、海外展開にも果敢に取り組んでいる。アジアやアメリカなど、日本酒が売りやすい地域のみならず、ヨーロッパなどワイン・ビールなどの市場が成熟した地域なども合わせて世界35カ国以上に輸出をしている。「何にでも合う日本酒」という強みを活かして日本酒市場を拡大、山形が日本酒の聖地になることを目指す。
はじめに、訪問企業の概要や特徴について報告する。出羽桜酒造では、雪国山形における寒冷な気候や豊富な水資源、稲作等、恵まれた資源を生かして、仕入れや製造の多くを山形県内で完結させている、地域密着型の酒造会社である。独自の醸造技術や人材育成の蓄積、蔵人の団結力をもって、地域に愛され、世界に羽ばたく日本酒を製造し、創業からは131年を数える。完全手造りにこだわりを持っており、これまで蓄積してきたノウハウを最大限に発揮し、人の目や手に大きな信頼と責任をもって酒造を行っている。このように、多くの伝統や蔵人の想いをのせた日本酒は、日本だけにとどまらず世界に対しても輸出されており、その数は35か国を超える。
次に、酒造業の特性として、人の目や勘に頼らざるを得ない場面が発生することが挙げられると考えた。時代の流れの中で最適化や効率化を追求するためには、データ等の活用は必至であるが、その中でも、人の目による確認や、これまでのノウハウの蓄積の中で積み上げてきた手順を踏む必要性も生じることは多分に理解できた。そのため、これらの伝統や誇りをどのような形で残し、最適化、効率化のためにはいかなる技術の導入が望ましいのかを時間をかけて検討し、互いの良さを残す折衷のような形が、他の業界と比べて丁寧に行われることが望ましいと感じ取った。
日本酒製造という行為そのものが環境・社会面においてプラスの点を多く持つように感じた。まず出羽桜酒蔵では農家からランクが低い米を買いつけ、米油や甘酒、日本酒等に利用していた。ゆえに、米単体では商品にならないものでも無駄にせず活用することができる。また、農家にとっても利益になるため地域経済の循環につながっている。次に、瓶の再利用だ。瓶の多くが再利用されており、この点も環境配慮の面で優れている。また、社長の仲野益美氏は山形県酒蔵組合会長として、山形全体での酒蔵の発展について熱意を持っていた。日本酒の聖地として山形を有名にするという目標を掲げていた。一方、若者の酒・飲み会離れが顕著であるという問題による日本酒の人気の低下についても懸念点がある様子だった。飲み会で得られる「人との関わり」が薄くなることを防ぐためにも、酒造業界全体で飲み会やお酒を通じた人との関わりについてプロモーションすることも1つの選択肢だと感じた。
酒造事業を取り巻く環境は厳しいものとなっている。一つの大きな要因として現在の若年層においての酒離れが進んでいることが挙げられる。コロナ禍による宴会等の減少や、個人主義の著しい発達などの様々な原因があるが、若年層が酒を摂取する量が減少していることは現状と未来の酒造事業に大きな影響を与えている。現在、取材を行った出羽桜では、現状を打破するものとして吟醸酒を挙げている。大吟醸は常用として飲用するには高価であるため、代替品として比較的安価で購入のハードルの低い吟醸酒を大々的に打ち出している。しかし、前述の通り、若年層の酒離れが進んでおり、若年層が手を出す酒類はカクテルやサワー、ハイボールなど手の出しやすいものに偏っており、宴会の現象により日本酒に手を出すきっかけが失われているため価格や品質の前段階において苦戦を強いられている。そこで大きな役割を担っているものが、日本酒を製造する際に使用する麹を用いた甘酒や日本酒を主原料とした果実のリキュールである。このような若年層が手を出しやすい製品をきっかけに日本酒に慣れ親しむことを目指したマーケティングを行うことが重要となってくると考える。
酒造業界を取り巻く課題について、酒造業界は特殊であり、製造業でありながら製造方法や工程は大きなアップデートを繰り返すことなく、変革が求められる業界ではない。しかし、酒造りに終わりはなく、そこでは人の感覚が求められる。工程の中での味や匂いを辿って、より良い酒造りを進め、それは数値には表れないものである。だからこそ前提として、酒造業界のDX化は大変難しい現状だ。しかし、酒の販売量は年々減少している。その理由として、若者の酒離れが挙げられる。そこに向かって変わることが難しい酒造業界ではあるが変わっていかなくてはいけない。そこで多くの人々はDXによる産業変革をまずは必要だと思うだろう。しかし、酒の販売業者は大手と中小の力の差は歴然であり、大手とは酒以外も手がける飲料メーカーを指す。その力の差とは資本力の差であり、DXにより酒造りに変革を起こそうとしたとすると、資本力により大手の飲料メーカーが中小酒造企業を淘汰してしまう。世間一般ではDX化こそがさまざまな業界の課題を解決するキーだと捉えられているが、実は酒造業界では違う。そことの認識の差を超え、人の力を最大限に発揮できる環境作りが必要である。
出羽桜酒造の見学と仲野社長との対談を通して、酒造事業は生きた酵母を扱うためどうしても人の目、鼻を使って行う作業が多く、仲野社長は特に手作業を大切にされていた。出羽桜酒造は他の酒造と比べても手作業の工程が多いが、他の酒造もまだまだ手作業が多く、高品質少量生産であることがわかった。それに伴って、従業員は昼夜を通した仕事や危険を伴った作業(醪を仕込む際にタンクの中をかき混ぜる作業)など、命をかけて行う環境でもあると感じた。
また、日本酒業界全体の社会課題として日本国内での日本酒消費量の減少がある。特に若者はお酒全体の消費が少ない。仲野社長によると、日本酒の品質管理はビールやウイスキーと比べて大変なこともあり、取り扱う飲食店の価格帯が高めであることも問題だとおっしゃっていた。また、飲み会の減少に伴い家飲みの増加があるが、家で飲むために日本酒を1瓶買うのは量が多く、あまり需要がないということであった。そこで出羽桜酒造は、日本酒ベースのリキュールやスパークリングなど、幅広く商品を展開することで、若者や日本酒に苦手意識のある人にも購入してもらえるよう努力されていた。また、出羽桜酒造は海外進出に力を入れており、今後はイタリアやフランスなど、自国の料理とお酒に誇りをもつ国々に日本酒を広めることを目標としていた。現在は若者受けを狙った商品を開発しているが、今後は外国人の好みに合うような商品を開発する可能性もあると感じた。
視察の結果の洞察として、「挑戦と変革、不易流行」に関しては、出羽桜酒造のこれ までの沿革と仲野さんのお話から、まさに最も体現している要素なのではないかと感じた。“挑戦”に関しては日本酒を世界に向けて輸出を始め、現在では 25 か国もの国に向けて輸出している点などがあげられるのではないか。加えて、通年商品と季節限定商品(旬、季節感)の組み合わせで消費者ニーズに応えることや、飲料店向けの販売が中心の地酒専門店だけでなく、百貨店、高級スーパーにも出荷するといった取り組みは挑戦につながるものであり、非常に創意工夫が感じられる。また、三菱ケミカルや王子製紙との共同開発の機会を設けることや、部分最適ではなく全体最適を求めようと特許をとらないと いった姿勢に“変革”の要素が感じられた。さらに不易流行に関しては、売り上げ全体の約10%が海外輸出ということもあり、やはり世界の動向やトレンドといったことも戦略的に は求められる要素だと感じた。
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2.それをふまえて、DXによる事業革新についてどのような構想・提案を行ったか(あるいは着想を得たか)。
酒造工程をDX化することは得策ではないと考えたのが正直なところである。人の手により酒造することの大切さを見学や説明を通して強く実感した。感情論ではなく、論理的に考えても人の手で酒造することの意義を感じ取れた。ではDX化とは無縁かと考えたときにそうではないというのが私の考えである。マーケティング戦略・地方活性化などの方面でDX化することで、酒造事業全体を活性化できると私は考えた。マーケティング戦略としては日本酒の売れ行きをすべてデータとして収集し、消費者の属性別に嗜好を分類し、ターゲットを絞った状態で新たな日本酒を酒造するというような案が考えられる。地方活性化においては、全国の日本酒マップなどをアプリとして開発し、各自治体と協力して地域の魅力とその土地に根差す日本酒とを紐づけ、観光客を呼び込むといった案が考えられる。神社の御朱印のようにコレクター精神をくすぐるような工夫があっても面白い。根幹の部分は伝統を大切に人の手で支え、枝葉の部分でDXを利用することで信用を保持したまま、変化の激しい現代に柔軟に適応した酒造を行えると私は考える。
出羽桜酒造のDXの推進はそれほど進んでいるとは言えなかった。この理由は2点ある。1点目は手作業だからこそ生み出せる酒の味に拘っているからだ。すべてを機械化し酒造を進めると味が画一的になってしまうのだ。それは社長の発言である「人と機械どちらにでもできることならば人の力でやろう」といった考えに反映されている。ただその中でも酒の保存のために酸素を抜く工程などは電気メーカーと協働して業界初の技術を開発していた。2点目は結果論でもあるが手作りに拘っているためにNTTなどのハイテク産業の代表格ともいえる企業との協働案件があるということだ。もし出羽桜酒造がDX化を推進していたらきっとそういった協働案件は行われていなかったと社長は語っていた。以上から私がDXによる事業革新について得た考えは、すべての工程をDX化すればいいというわけではないということだ。ただし地方の中小企業というくくりで出羽桜酒造をはじめとする酒造メーカーを捉えると労働力の確保は重要な問題であることは間違いない。人の味覚に作用する酒造ラインの手作業は守りつつ、瓶詰、ラッピングなどの工程で機械化を推進することが解決策になるのではないかと考えた。
DXによる事業革新についての構想を述べる前に、出羽桜におけるDX化の現状や考え方について述べる。現状、大きく二つの場面で使われている/使われる予定である。1つ目は、製造段階において、発酵状況や品質などをデータ化することだ。2つ目は、酒造の仕方を映像化し、全国ひいては海外の師弟に伝えることだ。これは、まだ行っているわけではなく、今後取り組むべきとの位置づけである。その一方、出羽桜では感度・人の目も重視するべきと考えている。データで基準を満たしていれば合格にするのではなく、最後は人の五感を使って判断すべきだと考えている。また、酒造りにおいても手造りを最重視し、機械と人で同じ成果が出るのならば、手造りで麹と対話しながら作り上げたいとも考えている。全国有数の手造り酒造であるのだ。そんな出羽桜におけるDXは、製造すべてを機械・データ化するべきではないと思う。そこで2つ考えた。1つ目は、米の品種改良においてデータを用いることだ。現在温暖化の進行により、米の生育地が将来的に変わる可能性がある。出羽桜では、地元のお米を使うことに対してこだわりをもっているため、将来適切なお米を山形で育てるためにデータを用いることを考えた。2つ目は、販売によるデータ分析の活用である。山形のみならず世界各国で販売を進めているため、それぞれの販売先でのニーズをデータ化出来たら良いのではないかと着想を得た。
今回の研修の主目的である、DX化に対する適応については、多くの取り組みを実行している段階とはいえず、社員の皆様も課題感をもって取り組んでいる最中であると伺った。これまで完全手造りにこだわりをもってきたことに加えて、人の目に頼らざるを得ない場面が発生する酒造業の特性上、その適応には時間や労力を要するものと推察できるが、顧客データの取得や製造にかかる温度管理や時間管理においてはデジタルの力を導入している現状を考えると、今後もDX化へ向けた取り組みは活性化すると感じ取ることができた。具体的には、これまで部分的な採用にとどまっていたデータによる品質管理を、製造ライン全体に波及させることや、顧客データの取得によって、日本国内、ひいては世界における販促活動の最適化などが挙げられる。この点、社長の仲野様もデジタル社会への適応の必要性を大きく実感していると仰っており、今後人材育成やデータ等の活用に対する知見を深めていくことへの抱負を語っていた。
そのほか、異業種のコラボレーションにも積極的に取り組み、ブランド力のさらなる向上に取り組んでいる現状も学んだ。具体的には、化粧品会社とタイアップして、日本酒の香りを配合した商品開発を行ったり、通信事業の会社とコラボレーションして、お米の製造から日本酒の製造、販売までを、データを駆使して一貫して行うことなど、酒造業内にとどまらない取り組みを遂行している。
事業のこだわりを踏まえると、一概にDX化を推し進めるのは困難である。出羽桜酒蔵では、手づくりにこだわった酒蔵作りを強みとしていた。その強みを活かした上でDX化をするには、企業と話し合いを重ねた上でDX化における「譲れる・譲れないポイント」をまず明確化させる必要があると思う。その上で、個人的にDX化できると思った点は以下の通りである。
・麹造り:管理者1名と残りは機械で業務を担当させる。作業が2日間泊まり込みで続くと伺ったため、作業員の作業効率化を図る狙いも含まれる。
・本仕込み(攪拌):成分量や温度を自動で管理し、合わせて自動攪拌化。作業の際にタンクの中に入ってしまう事故が発生する可能性もあるため、安全面から考えても自動化が好ましい
・販促:現在オンラインサイトは既に確立されているので、顧客のニーズや売上の傾向分析の自動データ収集化。また海外進出のためにどの国・街で需要が高く売上を見込めるかを分析。
・工場内での材料配送ロボット:工場内で材料や道具などを運ぶ際に、重量が大きく人間にとって運ぶことが大変な場合がある。そういった面をロボットに任せ、人間は技術が求められる作業に集中する
今回赴いた出羽桜では、基本的にDX化は十全になされていない。理由として、経営者が掲げる理念に「機械と同等の技術であれば人間の手で行う」というものがあることが挙げられる。菌を利用して行われる酒造においては、天候的な条件を逐一確認しながら毎度作業に小さな変化が必要となるため今現在の技術では機械化では再現できないものである。そこで私が現在の酒造における有効的なDXの活用方法として考えることは、廉価版を作る上においての技術の確立である。出羽桜はその確かな品質で確固としたブランド価値を形成している。そのため、機械の技術では再現が難しい品質を提供しているが、日本酒を飲み始めるきっかけとしては適当ではないと私は考える。ブランド価値を持つものは概して高価になると言えるが、どの分野においても安価なものが入口となることが多い。そのため、出羽桜のような歴史とブランド価値をもつ酒蔵の作り方を学習させたAIを開発し、そのデータを用いて安価な製品を大量に機械生産することが日本酒離れの解決策となるのではないかと考える。品質的な観点から見ると人間の手で僅かな調整を行う酒蔵の品質には敵わないであろうが、きっかけとしては十分なものとして生産することは可能であると思う。幸いなことに、出羽桜の経営者は技術は隠すものではなくオープンにするものであると語っていた。上記のようなデータを用いた機械化を行うことでマーケットを拡大し、ブランド品に興味を持つ可能性を高めることが現在の酒造事業に必要なのではないかと考察する。
新たな構想として、私は2つ挙げる。1つ目は人の力の最大化である。酒造業界において、機械化がメインとなる産業構造の変革は難しい。なぜなら人の感覚が酒造りにとっては重要だからだ。だからこそ人がより酒造りに集中して、他の必要のない作業を行わなくてもよい環境を作ることが重要なのだ。具体的には簡単作業の機械を駆使した効率化である。人間が行わなくてもよい作業を極限まで減らし、他に割り当てることができる環境を作り上げる。ここで余分な業務を取り除かれた人間が行う業務とは本業酒造りや営業、マーケティングである。2つ目は後継者育成に対するデータ管理である。近年は酒造業界だけでなく、他の業界にも言えることではあるが人手不足による後継者不足が顕著である。そこで現状の酒造りのデータを数値化・洗練をすることで技術責任者がいなければ酒ができないという環境から脱却することが重要だ。責任者が辞めた時こそ、その企業の真価が問われるときであり、スムーズに次世代に移行していくためにも現状の酒造りデータを洗練化し、同じクオリティで酒造りができる環境を整える必要がある。以上のように、どちらにも共通して言えることは人の力を最大化できるような環境をDXで整えることが求められるのだ。
作業工程でのDX化は、手作業を大切にされている出羽桜酒造では難しいと感じた。一方で従業員の方のお話では、人の目によるものなど指標がないものは仕方ないが、指標があるものはデータとして残して翌年の事業に活用しているとのことだった。そのため、このデータと、米の品質など毎年変化する他のデータを組み合わせ、最適な作業温度などを導くことで、作業効率を上げたり手作業の時間を削減したりすることができるのではと考えた。
また、手作業が多いことに伴って危険を伴う作業が増えてしまうため、異常検知装置や故障予兆検知などを導入することもよいのではと感じた。特に作業場の酸欠が危険でこまめにチェックしているとのお話もあったので、センサーなどで一目見て危険がわかる設備があると安心だと感じた。
さらに、出羽桜酒造は海外進出に力を入れているが、今後さらに多くの国々に進出していくことを考えると人手もさらに必要になると感じた。そこで、海外の顧客データや消費者動向の分析などによるマーケティング施策にもDXが活用できるのではと考えた。
現在DXが注目されるなかで、DXに向けた新しい取り組みに関してより一層事業革新に取り組む必要があると思う一方で、やはり変えてはならないところという点に重要性を感じた。特に社員の方及び社長から伺った話として”機械化はなるべく遅くに、なるべく人の手でお酒をつくりたい”というお話は非常に興味深かった。また、アナログの要素の良さを生かしている点に注目し、ブリジストンの副社長などといった大企業の方が視察に来るという話を知り、大企業の視座の高い方々(DXなどを積極的に推奨している組織)がアナログの要素に含まれる良さを再認識しようという試みをしているところに、やはり大切にすべき要素があると感じた。出羽桜酒造の事業方針に関して最も印象的であったことは、特許をとらずに全体最適につなげることで業界を超えたイノベーションを大切にしているという点だ。出羽桜酒造は民間企業ということもあり、必然的に利益の創出が存続と発展に求められる。1980 年代より吟醸酒を他社に先駆けて販売を開始し、業界においても先駆者的な存在である一方で、特許をとることなく、酒業界の発展を望むところに倫理的な善さがあると感じた。 私自身、ゼミでは企業倫理学を専攻しており、具体的には CSR や CSV を学ぶ。様々な企業のケースを取り扱ってきたが、やはりその業界の先駆者という存在でありながら、 特許をとらずライバルの隆盛にもつなげるという姿勢は稀に見る会社であった。
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