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銀行貸出による信用創造に上限はあるのか?
銀行貸出によるマネーストックの増加
SNAの金融勘定における信用創造(マネーストックの増加)は、会計恒等式①によって示される。
[借方]銀行システムの金融資産(投融資)の変動
≡ [貸方]マネーストックの変動
なお、マネーストックの一部を構成する預金金利については、SNAの所得支出勘定の「財産所得」として銀行の支払利息(会計恒等式②)と預金者の受取利息が(会計恒等式③)として示される。
会計恒等式② 銀行の仕訳
[借方]支払利息(財産所得[支払])≡[貸方]マネーストックの増加
会計恒等式③ 預金者の仕訳
[借方]マネーストックの増加≡[貸方]受取利息(財産所得[受取])
上記銀行の仕訳(会計恒等式②)の[借方]支払利息は、銀行にとっての費用(資本の減少)を意味するので、銀行の資本金額が上限となる。
これに対して、銀行貸出によるマネーストックの増加を示す会計恒等式①においては、一見すると論理的には無限に銀行貸出を増やすことにより、同額のマネーストックを無限に増やすことが可能なように見える。
巷ではMMT信者が「国債を5000兆円発行しても大丈夫」と主張しているようだが、本当にそんなことが可能なのだろうか。
銀行側が負担する不良債権化リスクと金利コスト
現実には、貸手側である銀行が負担する①資産側の「不良債権化リスク」と②負債側の決済用の資金調達に関する「金利コスト」の存在により、銀行貸出による信用創造(マネーストックの増加)には自ずと上限が存在する。
詳しくは動画をご覧いただきたいが、銀行貸出による信用創造(マネーストックの増加)がなされる場合の貸手側の民間銀行Aのバランスシートをご覧いただきたい。
![](https://assets.st-note.com/img/1676591626907-g2hP05MDwQ.png?width=1200)
一国経済全体で見れば、確かに民間銀行Aの貸付金100と同額で銀行預金の形態でマネーストック100が増加している。しかし、民間銀行Aから借入をした債務者が、民間銀行Bに預金口座を有する取引先に対して取引代金を口座振替で支払った結果、マネーストック100は民間銀行Bに振替えられる。
とすると、民間銀行Aのバランスシート上、①資産側の「不良債権化リスク」と共に、②負債側の決済用の資金調達に関する「金利コスト」が残存することがわかる。
このうち、①資産側の「不良債権化リスク」については、仮に民間銀行Aが民間部門の家計・企業に対して貸出したのではなく、政府に対する信用供与,
すなわち国債を購入した場合にはこれを無視することができる。また、無事に債務者が民間銀行Aからの借入金を全額償還した場合にも、この不良債権化リスクは解消する。
しかし、②負債側の決済用の資金調達に関する「金利コスト」については、民間部門の家計・企業に対する貸出であろうが、国債購入であろうが、その負担を避ける方法は存在しない。
従って、会計恒等式①「[借方]銀行システムの金融資産(投融資)の変動 ≡ [貸方]マネーストックの変動」だけを見れば、無限にマネーストックを増やすことも可能だと錯覚してしまうが、実のところ、貸手側である銀行が負担する①資産側の「不良債権化リスク」(国債購入の場合には無視できるが)と②負債側の決済用の資金調達に関する「金利コスト」の存在により、銀行貸出による信用創造(マネーストックの増加)には自ずと上限が存在するのである。
本日のまとめ
1.会計恒等式①「[借方]銀行システムの金融資産(投融資)の変動 ≡ [貸方]マネーストックの変動」に従い、中央銀行を含む銀行システムは貸出を行うことによって、マネーストックを増加させることができる。
2.しかし、そのことは必ずしも無限にマネーストックを増やせることを意味する訳では無い。なぜなら、貸手側である銀行が負担する①資産側の「不良債権化リスク」(国債購入の場合には無視できるが)と②負債側の決済用の資金調達に関する「金利コスト」が存在するからである。
3.従って、銀行システムによる信用創造(マネーストックの増加)にも自ずと上限が存在するのである。