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貨幣と資本(最終回):第11章 信用連関逆行列分析の結果

前の第10章「BS勘定行列分析の枠組み」の10-2.「分析方法」に基づき、エクセルで「信用連関逆行列シミュレーター」を作成した。その上で、以下の6つのシナリオに従い、実体資産(土地/生産資産/株式)ベクトル$${\overrightharpoon{R}}$$の変動等を入力し、それに伴って発生する金融資産ベクトル$${\overrightharpoon{A_f}}$$、負債ベクトル$${\overrightharpoon{L_f}}$$及び資本(国富)ベクトル$${\overrightharpoon{K}}$$に対する波及効果を測定した。加えて、実体資産(土地/生産資産/株式)ベクトル$${\overrightharpoon{R}}$$の変動による資本(国富)ベクトル$${\overrightharpoon{K}}$$に対する波及効果を測定した上で、「国民所得方程式」により、翌期(t+1期)の国民所得($${Y_{t+1}}$$)及び名目経済成長率を測定した。

11-1. シナリオ設定

バブル崩壊のインパクト

①実体資産の価格(地価・株価)の下落

第8章で見たように、1990年代後半以降のバブル崩壊に伴う再評価による資本蓄積(ΔKv)の大幅な下落には凄まじいものがあった。シナリオ①では、事業会社及び家計の保有する実体資産(土地/生産資産/株式)のうち、株価・地価が100兆円(50兆円ずつ)下落するものと仮定する。

なお、バブル崩壊に伴う株価・地価の暴落は政策当局者の意思決定によるものではなく、また、事前に予想できるものでもない。従って、制度部門(内生変数)相互間に一定の関係性(規則)は存在しないから、バブル崩壊に伴う実体資産(土地/生産資産/株式)ベクトル$${\overrightharpoon{R}}$$の変化については、外生的なショックとして他の内生変数には影響を与えない「ジャンプ変数」の変化として扱う。

アジア決済同盟(CUA)の政府出資による設立と中銀ネットワークを通じた運用

元来、信用連関逆行列分析は、1990年代前半の日本のバブル崩壊や1990年代後半のアジア通貨危機の原因と波及効果を分析するため、筆者がPh.D.論文の中で開発した分析ツールである。そこでは、安定的な国際通貨制度を構築するため、ケインズ型の決済同盟(CUA: Clearing Union of Asia)の政府出資による設立、そして加盟国の中央銀行ネットワークを通じての運用を想定している。

そのシナリオは、以下の2つのステップから構成される。

ステップ1. 政府出資によるCUAの設立

CUAの設立時に、CUA自体がブロックチェーン技術に基づく暗号資産としてケインズ型決済同盟の発行するデジタル通貨「Bancor」10兆円相当を加盟各国政府に対して配分する。その複式仕訳(単位:兆円)は以下の通りである。

【シナリオ】CUAの設立:CUAによる暗号資産(Bancor10兆円相当のEB:Equitized Blockchain)の発行、各国政府によるBancor建EB(Equitized Blockchain)の引受による出資(円建交付国債10兆円)。

1. 日本政府
(借方)出資金(Bancor建EB)Bancor10兆円相当
   (貸方)政府資本(円建交付国債)10兆円

2. CUA
(借方)基金Bancor10兆円相当
   (貸方)資本(Bancor建EB)Bancor10兆円相当

ステップ2. 中央銀行ネットワークを通じた運用

CUAの運用:CUAと中央銀行ネットワークを経由する各国中銀の当座預金(30兆円)とCUA当座預金30兆円相当との預合いを通じて、貿易等の決済を実施する。

3. 日銀
(借方)CUA当座預金(Bancor建)Bancor30兆円相当
   (貸方)CUAからの日銀当座預金30兆円

4. CUA 
(借方)日銀当座預金30兆円
   (貸方)CUA当座預金(Bancor建)Bancor30兆円相当

【図表31】

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