楽天グループ2024年第3四半期決算短信とCEOプレゼン資料を読む

楽天グループ2024年第3四半期決算発表

2024年11月13日、楽天グループの三木谷浩史CEOが2024年第3四半期の決算発表を行った。

日経新聞をはじめ「楽天G、携帯参入後で初の営業黒字」といったポジティブな報道のみが多かったが、楽天モバイルで継続する大幅な赤字を穴埋めするジャンクボンドの金融費用(支払利息)が急増して最終赤字(当期純損失)が拡大している点を指摘する報道は一切なかった。おそらく楽天グループは報道機関(テレビ、インターネット等)に巨額の宣伝広告費を支払っている関係で、批判的な報道は封じられているものと思われる。

しかし、決算短信とCEOプレゼン資料を熟読したところ、移動体通信事業者(MNO: Mobile Network Operator)にとって重要な財務指標ARPU(Average Revenue per Unit)について、従来、2,000円弱の水準だったものを今回突如、4割も水増しした2,801円と公表している。あまりにも不自然である。

CEOプレゼン資料

ARPUは、MNOがどれだけ稼ぐ力があるかを示す、最も基礎的かつ最重要の財務指標である。昨年秋(2023年7-9月)の時点での各社のARPUは以下の通りである。

NTTドコモ:4,000円(前四半期比10円増)
KDDI:3,960円(同30円増)
ソフトバンク:3,750円(同30円増)
楽天モバイル:2,046円(同33円増)

ご覧の通り、最後発である楽天モバイルは価格競争を挑む他なく、ARPUで他社に大きく差をつけられてきた。

三木谷浩史CEOによる会計操作

ARPU×ユーザー数がMNOとしての本業の売上高となる。そして、データ通信サービスや通話サービス等にかかる売上原価、人件費や設備投資の減価償却費等の販売費及び一般管理費を控除して営業利益が計算される。

三木谷CEOのトップ営業により、ユーザー数が800万件を超えたとのことだが、ARPU(1ユーザー当たり売上高)が上がらない限り、楽天モバイルの黒字化は不可能である。

三木谷CEOが目を付けたのは、依然として好調な楽天モバイル以外の事業である。決算短信では、「アップリフト効果の計算対象事業」として以下の18事業の具体名が開示されている。

楽天市場、楽天ブックス、楽天ダイレクト、楽天ビック、楽天Kobo、楽天ファッション、楽天トラベル、楽天マート、楽天ビューティー、楽天ペイアプリ決済、楽天ペイオンライン決済、楽天Edy、楽天ポイントカード、楽天カード、楽天銀行、楽天証券、楽天生命、楽天損保

「アップリフト効果」という意味不明のカタカナ語を使っているが、要は、巨額赤字から脱する目途も立たない楽天モバイルに対して、他の事業の利益を付け替えるという会計操作である。

具体的には、「モバイルエコシステム貢献額」というセグメント損益の付け替えが決算短信の中で開示されている。例えば、モバイル・セグメントに対して他のセグメントから約200億円の利益が付け替えられている。

決算短信の監査(レビュー)は任意監査

実は、2024年4月1日以降、金融商品取引法の改正により、第1・第3四半期の四半期報告書制度が廃止され、これらの期間の開示は取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化された。

この改正に伴い、四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等に対する監査人(公認会計士または監査法人)によるレビューは、原則として任意監査となった。

今回の楽天グループ2024年第3四半期決算短信のレビューを行ったのは、EY新日本有限責任監査法人であるが、金融商品取引法上の法定監査ではなく、任意監査、それも監査手続が簡素化されたレビューに過ぎない。

そして、移動体通信事業者(MNO: Mobile Network Operator)にとって極めて重要な財務指標であるARPU(1ユーザー当たり売上高)の数字は、監査対象外とされている。決算短信にもARPUの金額はどこにも記載されていない。

三木谷CEOは、そのような監査制度の隙間を突いて、「モバイルエコシステム貢献額」という独自の概念を用いてARPU(1ユーザー当たり売上高)の4割もの水増しを行った。

「粉飾」か、「風説の流布」か?

そもそも楽天グループは、国際会計基準(IFRS)の適用企業である。確かに楽天グループは独自の「Non-GAAP営業利益」という概念を用いているが、IFRSに準拠した「IFRS営業利益」も開示してその差額調整を行っているので、明確な会計基準違反という訳ではない。

本来、GAAP (Generally Accepted Accounting Principles)とは、企業が財務諸表を作成する際に準拠すべき会計基準を意味する。もちろん企業内での経営管理目的で独自の基準を用いるのは自由な経営判断によるべきだが、他社との比較や粉飾の防止のため、企業の外部に存在する投資家やステークホルダーに対する情報開示は、GAAPに準拠して作成した財務諸表でなければならない。

その意味で、楽天グループが「Non-GAAP営業利益」を重視しつつも、「IFRS営業利益」も併せて開示している以上、問題は生じない。

しかし、今回の楽天グループ、そして三木谷浩史CEOによる2024年第3四半期決算発表においては、決算短信本体で「モバイルエコシステム貢献額」という「セグメント損益」の調整は開示しているものの、「セグメントにかかる売上収益」自体は調整前の金額しか開示されていない。

また、決算短信では、18の「アップリフト効果の計算対象事業」の具体名は開示されているが、それらの事業がモバイルセグメントに移転した「セグメントにかかる売上収益」の金額も一切開示されていない。

にもかかわらず、三木谷CEOのプレゼン資料では、ARPU(Average Revenue per Unit)という「1ユーザー当たり『売上収益』」について、決算短信からは見て取れない、また計算もできない不思議な数字「Q3のARPUは2,801円」、「エコシステム:MNO契約者によるグループ売り上げのアップリフト効果を分子として算出」が上乗せされている。

通信事業者(MNO)にとって非常に重要な財務指標であるARPUについて、他のMNO(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)と同様の計算方法なら従来から2,000円前後でしかなかったものを今回4割増しの2,801円とCEO自らの決算発表で公表することは、「粉飾」と呼ばれても仕方ないのではないか。

あれだけの大企業なので、「粉飾」という言葉に反応して法的措置に訴えてくる可能性は十分にある。しかし、決算短信とCEOプレゼン資料をそのまま引用した事実の指摘に過ぎないので、彼らも訴訟で勝てるかどうか、よく検討してからでないと動けないのではないか。

むしろ三木谷CEOのプレゼン資料により、投資家が「楽天モバイルのARPUが従来の2,000円弱の水準から2,801円に急激に上昇した」と誤認する恐れがある。CEOプレゼン資料は金商法上の有価証券報告書ではないが、楽天グループ、あるいは三木谷CEOの行為が金商法158条で禁じられている「風説の流布」に該当する可能性もあるのではないか。

【参考】証券取引等監視委員会による解説
https://www.fsa.go.jp/sesc/support/hukousei/hukousei.html?utm_source=chatgpt.com

1.風説の流布・偽計
有価証券の募集、売買等のため、もしくは相場の変動を図る目的をもって、風説(うわさ、合理的な根拠のない風評等)を流布(不特定又は多数の者に伝達)することは、「風説の流布」として、金融商品取引法第158条で禁止されている行為です。
この規定が適用された事例としては、自ら保有する銘柄の株式を高値で売却するため、インターネット上の電子掲示板などに虚偽の情報を掲載し、不特定多数の者が閲覧できる状態に置き、それを見た投資家が同株式を買い付けることにより株価が上昇したところで、同株式を売却して不当な利益を得たもの、がありました。
また、有価証券の募集、売買等のため、もしくは相場の変動を図る目的をもって、他人に錯誤を生じさせる詐欺的ないし不公正な策略、手段を用いることは、「偽計」として、金融商品取引法第158条で禁止されている行為です。
この規定が適用された事例としては、自らが支配するファンドが引き受ける新株を高値で売却するため、上場会社に、自らが支配するファンドを引受先として第三者割当増資を行わせるとともに、当該増資により払い込まれた株式払込金を直ちに社外に流出させたにもかかわらず、当該上場会社に資本増強が図られたとの虚偽の公表を行わせ、株価を維持上昇させた上で、取得した株式を売却して利益を得たもの、がありました。
具体的な条文は、以下のとおりです。
【金融商品取引法第158条 風説の流布、偽計、暴行又は脅迫の禁止】
何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等・・・の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。

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