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【Q3.拡大版立山黒部アルペンルート】1.水橋漁港から立山駅まで(富山地方鉄道立山線完全乗車)

(前回の記事はこちらです)


水橋漁港→富山駅でブラックラーメン

 フィーダーバスは定刻通り、一五時五九分に水橋漁港バス停を発車する。

 順調に走る。進行方向右手の車窓には富山湾が、左手の車窓には立山連峰が時折顔を覗かせる。つまりこのバスは、西に向かって進んでいる。来た道をそのまま戻るのだから、当たり前だ。あの山塊を貫く旅が、今ここに始まる。乗客は少ない。

 一六時一一分、岩瀬浜駅前に着く。ここでやっとトイレに行ける。 
 一六時一六分、岩瀬浜発。LRTにて富山駅を目指す。
 この車両の終点は富山駅ではなく、駅南側の路線まで直通運転をしている。進むに従い乗客は順調に増え、座席は全て埋まる。特に、下校中の高校生が多い。車内も車窓も、思うように撮影できない。いつしか寝てしまう。

 一六時四八分、富山駅着。
 新幹線の車内にてビールのツマミを齧っただけで、昼食らしい昼食を食べていない。遅い昼食兼早い夕食に、富山らしい物を何か食べたいと思いながらエキナカ商業施設を歩いていると、日雇いバイト時代に世話になった人からメッセージが届く。富山に来ているのだったら、「勝駒」という日本酒を土産に欲しいという。 


 富山ブラックラーメンの店を見つける。ブラックラーメン発祥の店の、支店とのことで、地元では有名店らしい。丁度良い。 ブラックラーメンは、胡椒が良く効いた醤油のラーメンだ。いわゆる醤油ラーメンのスープとは異なり、本当に醤油そのもののような真っ黒なスープで、味も醤油の味がそのまま、極めて濃厚に前面に押し出されている。旨い。腹が減っているので、何でも旨く感じる。チャーシューも本当に旨い。

 
 


 今朝、朝一番で飲まされたバリウムの白が、胃の中でブラックラーメンの黒と混ざったら、灰色になるのだろうかと、ふと思う。 

 「勝駒」を探す。土産物屋を探すが、見つからない。マイナーな酒だという。かろうじて、料理屋の看板にそのラベルが使われているのを発見しただけに留まった。
 

電鉄富山→岩峅寺駅→立山


 富山地方鉄道の、電鉄富山駅に向かう。立山方面への列車は、現在遅れているという。取りあえず、次に出る、途中の岩峅寺という駅止まりの列車に乗ってみる。全く未知の、何の知識もない駅だ。切符は立山までのものを買っておく。 

 一七時四〇分、電鉄富山駅発。 
 富山の市街地をしばらく走った後、田園地帯に入る。前面展望にも側面展望にも、ローカル線の景観美が溢れている。列車は山脈に向かって進んで行く。真正面に山の姿を常に捉えて走る。 

 富山地方鉄道は単線のため、途中駅でしばしば列車交換を行う。
 駅間は短く、速度は速くない。良く揺れる。座席は柔らかすぎて弾力が無く、激しい揺れの衝撃がダイレクトに尻に伝わる。実に素晴らしい。 
 車窓に見える水田は、まだ苗が伸びていない。水面に映りこむ山の姿を楽しめる。この時期ならではの景観だ。日がかなり長くなっているので、その風景を充分に楽しむ時間がある。 

 田園地帯には、南に進むたびに、少しずつ上り階段のような段差がついている。高低差を用いて、利水を効率的に行うためであろう。勾配を少しずつ着実に登って、着実に立山に近づいていることが、視覚的に解る。 
 駅に止まるたびに、少しずつ乗客が降りていく。

 一八時二二分、岩峅寺駅着。

 学生が多数下車する。ホーム上を一通り見て回った後に、かなり高齢の窓口係員に立山までの切符を見せると、自由に途中下車して良いとのことだった。「途中下車前途無効」ではないらしい。 
 駅前には、商業施設のようなものは見当たらない。自動販売機と公衆トイレがあるだけだ。中高生の男女がたむろして、雑談をしている。楽しそうだ。ずっと話し続けている。青春だ。周囲はまだ明るい。 
 駅舎のファサードには、レトロ風味が横溢している。濃い灰色の瓦屋根と、年季を感じさせる砂色の壁が渋い。大満足だ。この駅舎を撮影するためだけに、途中下車する価値があると、自分は思う。



 農業倉庫がある。駅前一等地に農業倉庫、鉄道シミュレーションゲームのような土地利用だなと思い、撮影する。



 次の立山行きには、絶対に遅れてはならない。さっきの駅員に切符を再度見せ、早目に再入場する。時刻通りに来る。 
 一八時五四分、岩峅寺駅発。 
 今度の車両は、随分と良いモノのようだ。四列シートの座席。大都市の大手私鉄で、優等列車として使用されていた車両の、中古品であろう。


 車道と並走してしばらく走っていると、さすがに徐々に暗くなってくる。車窓も田園地帯から、森林に入る。森、トンネル。渓谷に架かる橋を渡る。既に夜となり、肉眼でその風景を楽しむことは難しくなる。 
 乗客は少ない。この車両には、私以外には、アジア人の家族連れらしきグループ一組しか居ない。 

 一九時二四分、立山駅着。これにて、富山地方鉄道立山線を完全乗車した。駅にはほとんど人の気配が無い。先程の家族連れを迎えに、宿泊施設の人間が来ている。すぐに姿を消す。 


 明日乗る予定のケーブルカー乗り場は、完全に閉鎖されていて、商業施設も全て営業を終了し、照明を落としている。 

 駅の外に出る。暗くて肌寒い。小雨が降ってきた。 今夜の宿に着く。入った瞬間に名前を呼ばれる。どうやら自分が、今夜の最後の客らしい。チェックインの際に、全国旅行支援の割引を受けるために、ワクチン接種証明書のコピーを見せる。とやマネーカードを貰う。アプリをダウンロードし、コードを打ち込むと、ご当地電子マネーの「とやマネーポイント」が賦与されるサービスだ。県内の飲食店や土産物屋で使える。宿代自体の割引と、このポイントで、かなりお得だ。 
 
 カウンターの女性から、明日のケーブルカーの予約は取っているのかと尋ねられる。いや、まだだと答えると、ケーブルカーに乗るには、切符の他に便の予約券が必要になる、当日予約券は、早朝から列が出来るから、早起きして並んだ方が良いと教えられる。 
 部屋の名前は「ちんぐるま」。高山植物の名前らしい。立山駅を見下ろす最上階の部屋であった。周囲の飲食店などは、全て終わっているようだ。空腹だが、素泊まりのプランなので今からではどうにもならない。今日はバリウムの白で始まり、ブラックラーメンの黒で終わる。それで良いではないか、上手くまとまったと頭では考えても、胃袋は納得しない。 
 温泉に浸かり、とやマネーアプリをスマホにインストールし、明日に備えてさっさと寝る。宿の壁には、見事な熊の皮が飾られている。
 


水橋漁港から立山駅までの時刻表

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青条
詩的散文・物語性の無い散文を創作・公開しています。何か心に残るものがありましたら、サポート頂けると嬉しいです。

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