【Q10.宇都宮LRTと、その先】1.宇都宮ライトライン完全乗車
東北本線で宇都宮まで
湘南新宿ライン・宇都宮行のボックスシート、進行方向に向いた、通路側の席に座っている。隣の窓際席には高齢女性、その対面の窓際席には高齢男性、私の対面の通路側席にはスーツ姿の中年男性がそれぞれ腰掛けている。
10時12分、荒川を渡り埼玉県に入る。浦和にてスーツの男性が、大宮にて高齢男性が降りる。私は窓際席に移動し、車窓の撮影を開始する。
10時26分大宮発。ここまでは定刻通りだ。東北本線は、昨日4月28日の夜から、今日4月29日の朝まで、工事のために久喜から古河の区間で運休となっていた。この間の下り列車は、全て久喜にて折り返しの特別ダイヤとなっていた。その影響が残って、多少はダイヤが乱れているかも知れないと少し身構えていたが、そんなことは全くなかった。
しばらくは、近郊住宅地が続く。蓮田辺りから、少しずつ農地が見え始める。
栗橋を過ぎ、利根川を渡ったのが10時56分。埼玉県を出て茨城県に入る。次の古河は、東北本線で唯一茨城県内にある駅だ。古河の次の野木駅は既に栃木県である。(野木駅では、何のアナウンスも無かったように思うが何故か?)
11時20分、小山着。ここで高齢女性も下車し、以降ボックスシートを独占するようになる。
11時50分、定刻通り宇都宮着。早朝にブラックチョコを食べただけなので、腹が減っている。入線時に車窓から見えた、ホーム上の立ち食いそば店「野州そば」で朝食。券売機はタッチパネル式だ。腹が減っているので、とにかく何でも美味く感じる。
駅員に場所を尋ね、駅スタンプを押す。
駅東側の窓からは、今回の旅の目標、宇都宮ライトレールの姿が既に見える。
長い連絡通路を渡り、駅東口の複合施設「宇都宮ライトキューブ」に入る。二階には飲食店、小売店、休憩スペース等がある。丁度昼時で、餃子専門店には行列が出来ている。一階はスーパーの、ヨークベニマルが入っている。東北地方に近づいた感じがして、私のミーハー心が少し刺激される。
店内を見て回る。見切り品棚で、二種類の苺を発見した。「とちあいか」と「ロイヤルクイーン」である。いずれも一粒128円が、60円に値下げされている。せっかく栃木に来たのだから、買って食べ比べてみる。とちあいかの方が水分が多く、ロイヤルクイーンはジャムっぽい感じがした。ひっくり返してみると、ヘタの形も違う。
このライトキューブと、周辺の広場は、非常に現代的な空間だ。テラスがあり、イベント広場があり、バスケットボール場がある。ライトレールの停留所「宇都宮駅東口」は、そのような空間と隣接している。
宇都宮ライトライン完全乗車
停留所には定期券や一日乗車券を扱う窓口がある。蛍光チョッキを着た老齢の係員から、パンフレットを貰う。時刻表はありませんかと尋ねると、紙の時刻表は無いので、個々人でスマホからアクセスして下さいとのことだった。
プラットフォームには既に多数の客がいる。列になって並ぶように係員が指示する。そうする。私が並んだのは、三両編成の先頭車両の、一番前のドアの列だ。列の一番前には二人組の女性が居て、そのうち一人はベビーカーを押している。
カーブの先からライトレールがその顔を見せ、ゆっくりと入線してくる。ドアが開き、客が一斉に下車する。降車客とこれから乗車する客とが、一つしかないプラットフォーム上に溢れ、収集がつかない。利用者の動線を誘導、整理するうえで、もう少し工夫があっても良いのではと思った。
乗車する。列先頭の、ベビーカーの女性がつまづいている間に、その後ろに居た老夫婦がシレっと追い抜いて、先に乗車していく。その動作が余りにも自然でスマートなのに驚く。
運賃は、SuicaやPASMO等の交通系ICカードか、もしくは現金にて支払う。停留所に改札は無いため、ICカードの客は、ドア脇のカードリーダーにタッチする。乗車時の乗車用リーダー、降車時の降車用リーダーの二つがある。難しい所は特に何もない。現金精算の客は、先頭車両の一番前のドアにて支払う。そのドアしか使えない。
座席はボックスシートだ。進行方向の右側の、窓際席に座る。実に座り心地が良い。午前中乗ってきた、東北本線のボックスシートとは明らかに異なる。窓も非常に大きく、開放感のある車窓風景を提供してくれる。
13時36分、宇都宮駅東口をゆっくりと発車する。しばらくの間は、市街地の大通りの中央部分に設けられた軌道を走る。右側の車窓から見える車は、ライトレールの進行方向の反対側に向かって走るので、並走シーンが見られないのが残念だ。短い距離の間に停留所が多数も設置され、頻繁に停車する。また、交差点では自動車と同様に、信号待ちも存在する。
市街地を走った後、幹線道路と交差するオーバーパスを登っていく。
「宇都宮大学陽東キャンパス」という停留所で、全体の半分ぐらいの乗客が一斉に下車する。若者から老人までだ。今日は祝日だ。大学関係者ではなく、おそらく近隣の商業施設「ベルモール」の利用者ではないかと思われる。実際この停留所には、「ベルモール前」という副駅名がつけられている。ネーミングライツを買い取ったものと思われる。
ライトレールは進路を大きく南寄りに曲げ、専用軌道に入る。進行方向右側には、水田やビニールハウスが姿を現す。次の停留所「平石」が近づくと、ライトレールの車輛が並ぶ車両基地が見えてくる。この停留所で、乗務員が交代すると、車内アナウンスが告げる。
当然ながら、全ての車輛がまだ真新しい。この時だけは、右側の座席で良かったと思えた。
次の停留所は「平石中央小学校前」だ。自らの母校の名を冠した停留所が出来て、この小学校の在学生及びOBは、鼻が高いのではないかと想像する。特に男子は嬉しいだろう。かつて、東京都東側に、日暮里舎人ライナーが開通し、その「赤土小学校前」という駅名を見た時にも、同じようなことを思った。
平石中央小学校前を発車したライトレールは、やがて専用軌道の勾配を登り始める。この路線中最大の見せ場、鬼怒川にかかる橋梁を渡る。この橋は、このライトレールのために全く新しく架けられたものだという。その長い橋を、車輛はゆっくりと渡っていく。
川そのものも太く、河川敷もまた広大だ。視界が大きく拓け、爽快である。今日は空に雲が多いことだけが、少し残念だ。
もう少しスピードを出しても良いように思うが、現時点では法規によって制限を受けているのだという。
「清原市民センター」停留所の交差点で左に曲がり、進行方向を90度変えて北に進む。次の交差点で曲がり、再び進路を東に取る際には、専用軌道の高架線に入って、自動車道の上空を大きく跨いでいく。縦横無尽であり、飽きさせない。新路線を敷設するに当たっての工夫、また苦心を感じさせる。
「ゆいの杜西」「ゆいの杜中央」「ゆいの杜東」と、いかにもニュータウンらしいネーミングの停留所が三連続で設置されている。郊外ロードサイド型の商業施設の、巨大な建物と広大な駐車場、駐車場に建てられた看板が、次々に車窓を流れていく。「すき屋」「カインズ」「幸楽苑」、その他自分は余り詳しくないバイク用品店や各種専門店。
「芳賀町工業団地管理センター前」停留所にて再度左折。「かしの森公園前」を経て終点「芳賀・高根沢工業団地」に到着する。14時22分着。
この時点を以って、宇都宮ライトレールの完全乗車を達成した。始発駅からこの終着駅まで乗り通した人間、つまりライトレールに乗ること自体を目的とした人間は、私以外にも数名いたようであった。
下車して周囲の様子を見回し、撮影する。無人駅だ。この停留所のプラットホームは、工業団地を走る自動車道の中央に置かれ、歩道橋と直結している。東側にはホンダの巨大工場がどこまでも続いている。自分はこれから、更にその先に進むつもりだ。