猫・旻・誇り高く純粋な輝き
巨大猫を見るために、新宿東口まで出かける。
スタジオアルタ隣のビルに設置された大型3Dビジョンが、少し前からネット上で話題になっていた。画面から飛び出す三毛猫の動画を、色んな所で何度も見かけた。コロナの感染状況が沈静化したので、無駄な物見遊山をしてみたくなった。単なる散歩であり、純粋な野次馬根性であった。
そのビルを見上げる。良い天気だ。自分以外にもこのビジョンを仰ぎ見ている人が数人居る。秋晴れの午後の新宿の高い空を見上げてしばらく待つと、噂の三毛猫が飛び出してきた。ネット動画で見た通りだ。
皆がスマホを空に向かってかざす。自分もそうする。大迫力といった感じではない。その映像が与えるインパクトとしては、ライオンや大洪水を自由自在に現出する、海外の都市の立体ビジョンには及ばない。だが、これはこれで良い。特に不満は無い。猫というコンテンツ自体が、やはり強い集客力を持っている。招き猫という意匠の淵源を目撃し、かつ体感し、理解できたように思う。
(私が子供の頃の3D映画と言えば、左右にそれぞれ色違いのセロハンを貼った、使い捨ての3Dメガネをかけて見るものだった。)
しばらくビジョンを見続ける。何分かに一回、お笑い芸人、バイキングの小峠が、不意打ち的に登場する。中途半端なキレ芸のような挙動を見せ、今日のこの、平和な街に向かって不平不満を放つが、何を喋っているのか誰も聞いていない。珍獣だ。
だがその禿頭には、一片の未練も残さない、正々堂々とした潔癖さが存在している。濁りが無く、不純物が無く、虚飾が無く、朗らかだ。すがすがしい。この空に相応しい誇り高さだと思う。
秋空に向かって突き出されたその禿頭が、一点の曇りもない球体であるということ、すなわちその球体性が、3D技術によって明確に描写される。角度によっては、秋の陽光を反射して輝いているかのように見える。錯覚だ。小峠の禿頭の輝きは、あくまでも3Dビジョンが映し出した映像であって、その光はビジョン自体から放たれているのだ。
紀伊国屋書店にも、本当に久しぶりに行った。その脇のワンタンメン専門店の地下で、ワンタンメンを食べた。案内によると、ワンタンメンを食べる際にも作法というか、然るべき順序があるとのことなので、それに従った。普通に旨かった。満腹し、かつ満足した。