旧ソ遺構・マンガン鉱山の街
ジョージアを友人と一緒に回っていた時の話。我々の目的地は、ジョージアにおいてはツカルトゥボとチアトゥラ。どちらも旧ソ連の遺構物のある街だ。そんな辺境とも偏狂ともいえるような場所を目的地としていたのだが、どちらも大変満足であった。一つ目のツカルトゥボは先日noteにまとめたため、忘れないうちにもう一つのチアトゥラについてもnoteにまとめる。
チアトゥラ入口。「Mn」はマンガンの元素記号
旅の収穫は何か?もちろん人により色々あると思う。僕の場合は、ストーリー(あるいはコンテクスト)の多さこそが収穫である。実際、周りから見たらどうでもいいことでも、その時考えたことがそのまま記憶に残る。そして、その時考えていたことは往々にして一般的な事象ではなく、自分の志向に偏ったことや再現性のない事象だったりする。教科書的にどこどこが綺麗だった、と言えても実はそれ以外の事を考えていることの方が多いだろう。でもそれでいいのだ。
今回はジョージアのチアトゥラを回って、この地の有名観光資源であるロープウェイの事を日中はずっと考えると同時に、朝晩はジョージアのとあるレストランが出してくれたハルチョー(牛肉の煮込みスープ)のことばかり考えていた。
おばあちゃんのハルチョ―
チアトゥラ中心部。一軒だけ明らかに地元の人でにぎわっている食堂があったため、入った店が大正義・大正解だった。
店には座席に加えて、8個のコンロがあるオープンキッチンがあり、そこを切り盛りするのは3人のおばあちゃん。全員見た目がそっくりで、おそらく親子+姉妹の家族経営をしている。おばあちゃんたちは背丈が150cm強くらいで、見事に丸々としている。ジブリに出てくる典型的なおばあちゃんを想像してもらえればOK、それぞれ会計担当、スープ担当、仕出し担当と役割分担をして店を回している。
スープ担当のおばあちゃんに至っては、ずっとスープを温めていて、なんなら自分で作ったスープをずっと飲んでいる。自分の作った美味しいスープを飲むなんて最高ではないか。
中央アジア・コーカサス地方ではスープのバリエーションが多く、ジョージアもそのご多分に漏れずに10を超えるスープがある。おばあちゃんの店で僕と友人は、スマホで赤いスープと白いスープの画像を見せながら、2つのスープを頼んだ。
仕出し担当のおばあちゃんはOKといいつつも、最終的には赤いスープのハルチョ―を2つ持ってきた。
素朴なおばあちゃんに悪気はないのは目を見れば一目瞭然で分かる。そのようなところも含めて可愛らしいし、まず第一にスープがとことん美味しかった。どこまで飲んでも飽きないのだ。ヨーロッパではハーブ料理が多用され、アジアではスパイス料理が多用される。コーカサス地方では双方が混ざり合い、かつ、クルミやレモンなどもブレンドされ、どこまでも深い味わいのスープが出来上がっている。
ハルチョ―があまりに美味しいからその日の夕方にまた訪れた。夕方も別のスープを注文し、OKと言われたが、案の定2つ出されたハルチョ―は、どこまでも美味しかった。
翌日の朝にも訪れた。その時はケバブの入ったハルチョーも指差しで頼んだ。これまた飽きずにとっても美味しいスープで、すぐさまにたいらげた。そして次の都市へ向かうバス停へと向かった。今思い返すと、おばちゃんたちの仲の良さや店の雰囲気を写真に収めなかったことだけが大変もったいなかった。
旅をしている最中、僕と友人はずっとそのスープの事を考えていた。それくらい本当に美味しかったのだ。あのおばあちゃんとスープにまた出会える日を心待ちにしている。
マンガン炭鉱のロープウェイ
前置きが長くなりましたが、ロープウェイの話をします。
チアトゥラの起源はこうだ。1877年にマンガン鉱山ができる。1954年、旧ソビエト連邦時代に渓谷の街のマンガン採掘生産性を最大化するためにケーブルカーが作られた。ケーブルカーは炭鉱労働者以外にも、市民の足としても使われた。また無料で乗ることができた。その後、ソ連は崩壊し、1990年代には国営の鉱山企業が倒産。2018年に老朽化を理由に、人間の乗るタイプのケーブルカーはすべて使われなくなった。
ジョージアの首都ティビリシから車で四時間とそこまで行きにくい場所ではないが、役割を終えたような町はどこか寂れていて、風情にあふれていて、僕と友人はその街の雰囲気が気に入りすぎて、ついつい連泊をした。代わりに町に点在するロープウェイやトロッコを見ることができて本当に満足をした2泊3日を過ごすことができた。
レーニンとスターリンのモザイク画が描かれたロープウェイ駅舎。ヨシフ・スターリンはジョージア出身。
ロープウェイの下側の駅。壁には炭鉱夫の絵
夕暮れ時と朝のゴンドラ。どちらも趣がある
町の至る所にあるゴンドラ
唯一稼働していた貨物運搬用ゴンドラ。マンガン鉱石?が運搬されては空になって戻ってくる往復作業を繰り返していた
丘の上に登ったらトロッコを発見。下を見下ろせば別のゴンドラも宙ぶらりんになっていた。
配管室と廃墟のロープウェイ駅舎
グッときた光景
ところで2019年11月現在、新しいロープウェイの建設が始まっている。まだ基礎工事の途中であり、完成までは1~2年かかるだろう。新しいロープウェイは、旧来の4人乗りのそれとは異なり、かなり大きめになりそうだ。もしチアトゥラに向かわれる場合は、新旧混ざり合うその素晴らしい光景と、おばあちゃんのハルチョ―をぜひ味わっていただきたい。
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日本帰国後、イベントバーエデン神田で作ったハルチョー。一緒に行った友人曰く「おばあちゃんのハルチョーとは別の食べ物として食べた」「あの味わいを出すのは無理」