良質な物事の決めかた
あなたは、これから友人と二人旅をするとする。何をどこまで決めるだろうか?
一緒に旅をするほどに気心の知れた友人であれば、何を旅のコンセプトとするか、という最終目的は多くの場合省略できるだろうから、まずは限られた予算や時間やフライトの条件下で、旅の行き先から決めるだろう。
次に詳細化。日々の行動の合意を取りに行く。ルート選定も、有限である時間の中で必ず見たい場所とそうでない場所を分けておき、時間が余れば劣後する選択肢まで見に行くという案や、寝る間を惜しんででも全部見に行く案を考える。それが決まれば移動手段の案は自動的に決まるだろう。ホテル選びならば快適さと費用はトレードオフだし、食選びも有限な食事回数の中で、ジャンルや金銭感覚が異なればすり合わせが必要となる。そこも知恵を絞って両者納得する案を考える。それ以外はどこまで何を決めるのか、という合意をしておけば概ねプランニング完了だ。
※もちろん、部分的あるいは全ての決定をあなたや相手に任せる!という事もできる。それは自分が決めないという選択であり、その選択もまた、個人の意思である。(任せた以上文句を言わない事は大前提)
プランニング完了後は実行あるのみ。実行時には予期せぬハプニングが往々にして起きる。フライト遅延や欠航などが起こった時にどうするか?ロスバケが起きたら?ホテルがダブルブッキングだったら?レストランが閉まっていたら?博物館が休館日だったら?体調を崩したら?
事前にどこまで考えて行動をできていたか(例えば、保険に入っていたかどうか)によってその後の行動の迅速さが全く異なる。そうして人は物事を決めて行動し修正する経験を多く積んで、徐々にリカバリーが容易になったり、予定通り行かなくてもうろたえる事やうんざりする事が徐々に少なくなる。あるいは意思決定はその場ですればいいや、という流れに身を任せる旅をするスタイルのどちらかに収斂していく。
こう見ると多くの行動は決める事の連続の上に成り立っているという事がお分かりいただけるだろう。
実は普段から無意識で物事を決めていると思いますが、決めるのに必要な要素を頭に入れ、大事なものは言語化しておくと、良質な物事の決め方ができるようになります。このnote記事はそんな話です。
物事の決め方をここからは意思決定と書いて話を進めます。少し抽象的な言葉が並びますが、だからこそ汎用性のあるものになっているかと思います。興味のある方だけお読みください。
良質な意思決定を作るおしごと
長い間、大企業の経営会議の運営を取り仕切っていた。それは僕の担当業務の中のごく一部だったが、他業務やプライベートにも活かせる大いなる気づきと学びに満ちていたから供養として書くこととした。
僕が経営会議で期待される役割は「意思決定の質向上」である。単なるロジ整理や議事録作成者では意味がない。付加価値は意思決定を、迅速で良質な意思決定に昇華させていくところにある。
敢えて公開して書いたのは、意思決定をしてもらう立場の起案者は、経営者達が意思決定の際に何を気にしているかわからない事が予想以上に多いからである。従業員は普段から役員と接していないから仕方ない、とかいう話ではなく、彼らは意思決定の構成要素を知らないのだ。そこで僕が役割として入っていた。
意思決定の構成要素の一部として、フレームワークと呼ばれるものがある。たとえばプロコンと呼ばれるメリット・デメリットを一覧化した表や、重要度・緊急度マトリクスなどが該当する。しかし、面白いことに、あるいは困ったことに、これだけでは決められないのだ。
会議での意思決定が遅れれば、実行が遅れる。したがって「決める」事をゴールにおいた案件の場合「決まる」会議を行わなければ時間の無駄である。さらに言えば、短時間で決まれば、僕の取り組みが価値を持つ。削減できた会議時間で経営者は各管掌範囲の業務に時間を割くことができる。 それも一つの創出価値となる。
ところで短時間で物事を決めるためには、経営者が意思決定をするにあたり必要十分な情報が詰め込まれている必要がある。それでは意思決定に必要な情報とは何だろうか?
少し想像をしてほしい。あらゆる情報の中で経営者が何を気にしているのか、何を聞きたいのか。彼らになにを伝えればいいのか。
それでは下で答え合わせ。たった一つの絶対的な答えはないが、少なくとも実務で試行錯誤した結果これらを使っていた。
良質な意思決定のために必要な要素
①最終的に実現したいこと
・ex:ビジョン、ミッション、バリュー、業績(売上・利益)、価値指標(顧客満足度、シェア)等
②今回の起案のゴール
・〇〇について〇〇(予算、方向性)を承認してもらいたい
③起案の内容
・背景
・現状課題
・課題に対する打ち手案(論点、対案、トレードオフ、判断軸とセット)
・投資対効果、先行指標となるKPI
・リスク(経営資源/レピュテーション/スケジュール等)
④今後のToDo
・スケジュール
※リカバリプラン、撤退プランとその条件
・(プロジェクト発令などの際は)体制。バイネームごとの役職、役割
※上記は起案書一枚にまとめる。一枚にまとめられない場合のみ、参考データやグラフのみ別紙に入れておく。
上記をまとめていれば、下記のようなクソリプ、いや、質問が不要となるかを明記します。
・やりたい事は分かった。でもうちの会社でこの案件を進めて何がしたい?
・そもそも、何でこの案をこの場に持ってきているの?
・この場で何がどこまで決まればいい?
・前回から時間が空いていて目的や背景忘れちゃったから説明して?
・結局何を課題だと思っているの?
・課題に対する打ち手になっていないのだけど?
・何の論点について結論を出せばいいの?
・投資対効果は?それって何で測るの?
・結果指標として売上や利益って言えばわかりやすいけど、それまで待ちたくないからKPI設定したい。ところでKPIは何にするの?
・トレードオフ何だっけ?特になければ勝手に案件進めてよ?
・判断軸がないと、後でGOって判断した時に振り返れないよ?
・リスクは何だとおもう?リスクを認識したうえでスタートしたい
・逆に担当者ではなく我々役員の視野で何を考えて決めてあげればいい?
・誰がどういうスケジュールでやるの?
・これが駄目だったら誰の管掌範囲で誰の責任なの?
・仮に駄目だった場合も最後までやる必要なんてないんだから、何をもってどのタイミングで駄目だと判断できるの?そして初速はいつ報告してくれるの?等々・・・。
意思決定の質向上にあたって考える事
・(そもそも)意思決定会議体は適切か
・起案書に書かれている各種単語の定義が明確かどうか
・起案のゴールと最終的に実現したいことの関連が妥当か
・課題と論点は明確かどうか(頓珍漢な課題や、解けない問いを設定しても意味がない)
・打ち手実施により課題は解決されるのか(課題と思っている他人や社会は喜ぶのか。自分が喜ぶだけではないか)
・打ち手実施により最終ゴールに早く近づけるか
・打ち手の投資対効果・KPI数値のロジックが通っているか
※効果は数値で置けているか(できれば業績が望ましい)
※投資は攻めの投資か守りの投資か明記されているとなお可
・原案を採用する判断軸とその理由
・対案とトレードオフ、リスクが仮にない場合、その背景
※限られた経営リソースを割く判断をする経営者に安心してもらう非論理的な個別要素があれば(誰がどのくらいコミットするか、覚悟はどんなものかなど)
※対案もトレードオフもリスクもなければ経営会議で意思決定する必要なし
※他、個別役員の性格を鑑みて必要となりそうな観点を入れる
上記のどれかが抜けていると、間違いなく会議参加者から起案者へ質問が入る。そして事前に指摘できなかった僕は反省をする。
※時に、経営会議こそが意思決定機関だからとにかく決めて欲しい、と原案を出さずに待っている起案者と出会ったが、それは権限を上長に移譲してるどころか職務放棄である。そして起案者側としてはせっかく実行者になるのだから自分の思う案を持っていた方が仕事が圧倒的に面白くなるのにな、と思う事もあった。
事前にここまでの観点を明確ににしておくと、本質的ではないツッコミはほぼなくなる。会議の時間を、最も意見の割れる課題、論点、判断軸やリスクの議論に時間を割くことができ、意思決定の質が高くなる。
※意思決定フレームワークを使い、各周辺内容を網羅し、関係性を理解し、整合性の取れた文書を書けば大体論理的なビジネス文書が完成する。しかし実は本当に大事なのは課題設定。ロジックよりも何百倍も大事であり、ビジネスにおいて持つべきスキルであるが、これも要望があれば書きますが今回は割愛します。
良質な意思決定の面白さ
意思決定をしたものは、その後実際にリソースが割かれて、構想が具体的な形になっていく。それはまるで庭に種をまいたら花が咲くような光景であり、ただ見ていても面白い。でもそれ以上に、要点を押さえた意思決定をすると、あとで振り返りができることが良質な意思決定の醍醐味だと思っている。
振り返りができれば改善点が見つかり、改善をしていけばより良い結果となる。そして組織に知見がたまり、次回はより良質な意思決定ができる(PDCAサイクルが回る)。
※ 振り返りは、計画に対して実績や見通しが上にも下にも乖離している際には、何かしらの指標のロジックや前提条件や見立てがそもそも間違っている、あるいは変わった、計画が保守的あるいはストレッチしていたこと、、などが考えられる。それらを細かい単位で明らかにして、予実差の真因を特定する。真因が特定出来たら解決可能かどうかを測るなどして、打ち手策定につなげていく。
さて、ここまで具体的に書いたのだが、これはすべて経営会議の話ではなく、仕事における個人間の話や、プライベートでの話にも代用できる。だからこそ書いたわけですが、その例としては冒頭にまとめたとおりです。無論、ガッチガチなビジネス用語をそのままプライベートに適用すると間違いなくドン引きされるので気をつけたし。
♡あるいはコメントが励みになります。ぜひ感想など教えてください。
それでは。