8.あちらを立てればこちらが立たず
農業用温室で用いられる暖房器具は重油や灯油といった化石燃料を用いた機器が圧倒的に多い。他にも電気で稼働するエアコンや、バイオマスを用いた暖房器具も販売はされているが少数派である。
そのため、バイオマス関連機器による加温はどうしても化石燃料関連機器に比べて割高となる。
まずは設備費だが、1000m2のビニールハウスの暖房器具を新品で揃えると、化石燃料関連機器でおよそ150万円、バイオマス関連機器ではその倍近くとなる。
更に燃料費についても重油が約100kcal/円に対して、木質ペレットは約67kcal/円と、重油の方が1.5倍コストパフォーマンスが高い。竹と比べるとその差は更に大きくなる。
このため、同じ品質の農作物を作っていては、コスト競争力で競合他社に太刀打ち出来ない。そこで、付加価値をつけて収益性を向上する必要があった。トマトで言えば糖度を上げたフルーツトマトや無農薬トマト生産といった方法である。
無農薬トマトは、就農1年目にチャレンジしたが、結果は散々なものだった。ヨトウムシという蛾の幼虫が茎葉、果実を食い荒らし、コナジラミという0.5mm程度の虫が媒介する黄化葉巻病というウィルス性の病気によりその時育てていた500本程度のトマトたちがほぼ全滅したのだ。
それでも諦めず、タバコカスミカメというコナジラミを殺す天敵をハウスに呼び寄せたり、ヨトウムシはピンセットで捕殺するという方法も試してみた。
しかし、タバコカスミカメによってコナジラミの発生は抑えたものの、今度は増え過ぎたタバコカスミカメがトマトの茎から汁を吸うことで、トマト自体がダメージを受けた。更に、次から次へと現れるヨトウムシの無限地獄にすっかり心を折られた。ドラゴンクエストで例えるなら、一歩進む毎にスライムの大群と遭遇するようなものである。これではとても安定生産出来ないと悟り、無農薬栽培は諦めた。
そこで2年目からは味に特化したフルーツトマトの栽培にチャレンジした。静岡県のHappyQualityという会社に教えを乞い、極小培地による低段密植栽培という手法での栽培技術を習得することができた。顧客からの評判も良く大きく前進した。
3年目はさらなる収益性向上を目指し、フルーツトマトの通年栽培に挑戦した。しかし、真夏に収穫したトマトは甘くならず酸味が強くなり、フルーツトマトとは言えないシロモノだった。また、強い日差しの影響で割れる果実が多く収量も激減してしまった。
さらに、日中は35度以上、夜間も30度近い環境ではトマトは凄まじいスピードで成長する。炎天下のトマトの管理作業は体力だけでなく、精神をも削る。
そうまでして育てたトマトが台風で吹き飛ばされたことによってここでも心を折られ、真夏のトマト栽培は諦めた。
商品に付加価値をつけて収益性を上げても、真夏に生産出来なければ単収の減少から設備全体として収益性が落ちるため、設備投資の回収が困難になる。
一方、真夏にトマトを栽培するには台風に耐える頑強なビニールハウスと、強い日差しを和らげるための遮光カーテンが必要となるため、例え栽培できても今度は設備コスト増となり、投資回収が困難となる。
では、トマトの値段を高くしてはどうか?確かに1パック398円や498円のトマトはスーパーでも見かける。しかし、これらのトマトを地元の人たちがどれだけ買ってくれるだろう。我々が目指すのはエネルギーと農作物の地産地消であり、その地域で生活する人たちの力によって廻る仕組みをつくりたいという想いがある。一部の富裕層の力だけで成り立つのであれば、それは企業理念と反することになる。
あちらを立てればこちらが立たず。そこで、この難題を解くために二つの方法を新たに検討することにした。一つは真夏に栽培せずに単収を上げる方法、そしてもう一つはバイマス関連機器の収益性を上げる方法である。