「システム」への普遍的恐怖を描く『オフィサー・アンド・スパイ』
試写会にて鑑賞。史実を基にした作品。
軍の近代化はとりもなおさず軍の官僚主義的なシステム化でもある。上位下達、前例主義などが蔓延る。本作はそんな軍のあり様を描いている。
普仏戦争の敗北後、ヨーロッパの覇権をドイツに奪われたフランス。そんななか兵器(大砲)などの情報をドイツに漏洩したスパイ容疑で、ユダヤ人のドレフュス砲兵大尉(ルイ・ガレル)が逮捕される。
反ユダヤ主義が広まるフランスでドレフュスは軍の防諜(カウンターインテリジェンス、スパイ狩りなども任務)担当部署の調査結果から軍事法廷で有罪となり、軍籍を剥奪されたうえ国賊の汚名を着せられ「悪魔島」という孤島に幽閉される。いわゆる「ドレフュス事件」の発端である。
その後、軍防諜部に若く優秀なピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)が部長として赴任。ピカールが目の当たりにしたのは現代風に言うと「グズグズな」防諜部の組織体制。聡明かつ勤勉なピカールは組織の刷新に乗り出す。
その過程でピカールは、「ドレフュス事件」で本当のスパイが別にいることを察知する。探偵のように事件を追い、ついに証拠を押さえるピカール。ここまでで終わっても、十分物語は成立するだろう密度の作劇である。
しかしここまでは前半部(ドレフュス事件の経緯と同じ)。軍という巨大なシステムが判定したドレフュスの有罪を覆すことを今さら認めようか? ピカールの本当の闘いはここから始まる。ここからはぜひ劇場でご覧になってほしい。
さて試写会とともに楽しみにしていたのは上映後の黒沢清監督と松崎建夫氏(映画評論家)のトークショー。本作は少し苦い結末をみせ、その点については黒沢監督の感想と同じなのだけども、監督はそこに至る伏線となる数シーンを挙げてみせた(唸るしかなかった)。
さらに黒沢監督は本作は史劇であるものの、巨大なシステムに飲み込まれる恐怖は現代に通ずるものがあると指摘。慧眼である。
余談だが黒沢監督は映画学の教材として本作の監督ロマン・ポランスキーの『フランティック』を好んで用いるとのこと。ちなみに『フランティック』のミシェル役エマニュエル・セニエもピカールの愛人役で本作に出演している。
以前黒沢監督は、歴史的事実を扱った作品を撮りたい、と言っていた気がする。『スパイの妻』の後の新作が待たれる。