
マーガレットの布団は素敵な布団
4月が始まって間もない頃。うさぎのメイリがマーガレットの家に遊びに来た。メイリは、今年の初めに引っ越してきたばかりの子だ。マーガレットとは共通の趣味のお菓子パーティーで仲良くなり、そこからよく遊ぶようになった。
また、2人の家は川を挟んでいて、いつもは事前に約束をしてどちらかの家に遊びに行くのだが、今日は突然の来訪だった。
「こんにちはー。マーガレットさん。突然お邪魔してすみません…。」とても丁寧な口調でメイリはあいさつした。
「いえいえ♪大丈夫ですよ〜♪今日はどうしたんですか?メイリさん。」マーガレットは、優しい声色で返事をした。その声に安心したのかメイリはゆっくりと答えた。
「実は前回のお菓子パーティーでマーガレットさんがお布団ソムリエの資格を持ってるって聞いて、その後近所の人にマーガレットさんのことを聞いたんです。
そしたら、皆さんマーガレットさんのことをすごく信頼している様子で…。だから私、マーガレットさんにお布団のことを相談したいってふと思って今日足を運んでみました。」
マーガレットは2021年の9月頃からぬいぐるみの世界で、「お布団ソムリエ」として本格的に活動していた。今は夏用布団作りの相談が多い冬を越えて、ゆっくりできる時期でもあった。メイリはマーガレットが時間を作りやすいタイミングを選んだようだった。
「そういうことだったんですね♪もし良ければお話聞かせて下さい!」マーガレットは、メイリに新しく仕入れたお菓子を出しながら、優しく笑った。
メイリがマーガレットに話したことをまとめると以下のことだった。
1つ目は普段から自分のモフ毛の手入れを良くしているが、毎日のようにモフ毛が抜けること。
そして、近所の子にこのことを聞いてみたらモフ毛の繊維が細いことで抜けやすくなっているのではないかというアドバイスをもらったということ。
2つ目はぬいぐるみの世界に来てから初めての換毛期を迎えるまでの布団が、自分の体に合わないこと。
さらに自分のモフ毛が抜けて布団に付いていることで、ストレスを強く感じているということだった。
マーガレットは、メイリから聞いた話をノートにまとめ終えた。
「ふむふむです…前からメイリさんのモフ毛はツヤツヤで素敵だなと思っていましたが、想像以上に大変だったんですね…。
それにしても、モフ毛が抜けやすいほど細いとは実際にお布団を作るとなると、たくさんの量が必要そうです…。」
マーガレットの珍しい困り顔を見たのかメイリは、
「やっぱり、自分にあった布団を作るのは難しいのでしょうか…。」と耳を垂れて落ち込んだ。それを見たマーガレットは、
「いいえ!なんとかなります。なんとかしてみせます!」と、ツヤツヤで繊細なメイリをよしよしとなでながら強く言い切った。
メイリからの悩みをじっくり聞いたその夜、マーガレットは自分が書いたノートを見ながら考えていた。
(多めにモフ毛を収穫できれば、多少は改善されるかもしれません…。ですが、あのツヤツヤモフ毛だけでは厚みが出ませんし、形がすぐ崩れてしまいます。根本的な解決方法を考えなくてはいけませんね…。)
「まんじろうは今起きているでしょうか…。ちょっと1人だと悩みすぎてしまいそうです…。」
マーガレットは、隣に住んでいるまんじろうの家に向かった。
「まんじろう〜。起きてますか〜?」マーガレットは、寝ている可能性も考えて小声でまんじろうの家のドアをノックした。
しばらくすると、にんじん柄のパジャマを着て、にんじんクッションを抱いたまんじろうが目をこすりながらドアを開けた。
「あっ…マーガレットだぁ…。どうしたのぉ…。とりあえずお家入って〜。」
まんじろうは、むにゃむにゃしながらもマーガレットを中に入れた。
マーガレットはまんじろうに日中起きたことを伝えた。まんじろうはその話を聞いてじっくりと考えてから答えた。
「マーガレットは1年くらいの実習期間をようやく乗り越えたばかりで、まだ本格的な活動は1年経ってないもんね。いきなりこれは難しいよね。」
「はい。そうなんです。試験は問題なく勉強でクリアできましたけど、実際は複雑ですね。でも、メイリさんのために何とかしてクリアしたいんです。」マーガレットは、メイリに答えた時の強い口調で答えた。
すると、それを聞いたまんじろうは優しく笑って、少し前の話をし始めた。
「マーガレットは、すごいよね!だってさ、自分がよく寝れなくて困ってた時、自分で色々調べて試して、そしてまた調べて…。
その繰り返しを一人でやってたんだよ。ぼく、その姿を見た時、絶対マーガレットならこの強みを生かせるって思ったんだ。
だから、お布団ソムリエを勧めたんだよ。きっと、マーガレットならやり遂げるってね!!」
まんじろうは、よどみなくマーガレットに向けて素直な気持ちを伝えた。
すると、まんじろうの真っ直ぐな気持ちが届いたのかマーガレットはにっこり笑って、
「ありがとうございます♪まんじろう。おかげでちょっと落ち着きましたし、自信を取り戻せた気がします。後日このお礼をさせて下さい♪」と答えた。
まんじろうと束の間のほっこりタイムを過ごした後、マーガレットは改めて自宅で今日のことを振り返っていた。
「メイリさんのようなモフ毛の話、どこかで見た気がするんです。羊毛の他にも種類があるって…。もしかして、これでしょうか。」
マーガレットは、去年の冬にメモしていたページをめくった。そこには、マーガレットの丁寧な字で簡単なメモが残されていた。
「モフ毛には羊毛のほかに獣毛というものがあり、中でもカシミヤという種類は見た目はとても美しいが、繊維が弱く摩擦や水にも耐性がない。
対策として、ボアと混ぜることによって強度が増す。また、ボアのモフ毛と混ぜることができれば、重すぎない布団をつくることができる。」
マーガレットは自分の書いたメモを見つめて、新しいページにメモを残した。
「明日、メイリさんに連絡する。忘れない。」
次の日、マーガレットはメイリに連絡をした。返事はすぐに届き、午後にメイリが遊びに来た。
「まさかすぐに連絡を頂けるなんて驚きました。解決策が見つかったと聞きましたが、本当ですか?」メイリは、ふわふわのシフォンケーキを食べながらマーガレットに聞いた。
「はい♪ なんとかみつかりまして、不安にされているかと思ってすぐに連絡してしまいました。メイリさん、お布団つくれます。今よりも快適なお布団になりますよ。」
マーガレットはメイリから貰ったふわふわのシフォンケーキを食べながら、昨日調べたことを伝えた。メイリのモフ毛はカシミヤで出来ていること、カシミヤはボアと混ぜることで強度が増し、それによって暖かくふわふわな布団が作れるということ。
そのことを聞いたメイリは、
「マーガレットさん!調べていただいて本当にありがとうございます!これで私も自分にあった布団が作れるんですね。とっても嬉しいです!」とこれまでの不安が一気に消えたのか一番の笑顔を見せて言った。
マーガレットも笑顔で、「方法が見つかってよかったです。私も嬉しいです♪」と答えた。
しばらくお菓子を食べながら話をしていると、
「メイリさん、もし良ければ私にお布団を作らせて頂けませんか?受けたお仕事は最後までやり遂げたいんです。」マーガレットは、はっきりした口調でメイリにお願いをした。するとメイリは、
「えっ。いいんですか?実は私もマーガレットさんにお願いしようと思ってたんです。
やっぱり対策が見つかったとは言え、初めてのお布団作りですし上手くできるか不安で。」と安心した声で答えた。
「もちろんです!私がメイリさんのお布団を完璧につくりあげてみせます!その代わり、1つお願いがあるんです。」メイリはお願いとはなんだろうという顔をしている。
「メイリさんのモフ毛を頂けませんか?毎日抜けてしまうモフ毛を年中開いている畑に植えて、皆さんの布団に混ぜてあげたいんです。
皆さんのお布団をよりふわふわに、皆さんをより幸せにしたいんです♪」
するとメイリは、今度はキリッとした表情で、
「はい!もちろんです!私も皆さんを幸せにしたいです!」そう答えた。
マーガレットに作ってもらった布団には、より幸せに眠ることができる素敵な魔法が詰まっている。
そう話すぬいぐるみがこの日から段々増えていったのだった。
おしまい
「マーガレットの布団は素敵な布団」
より