Googleは、研究開発をした。OpenAIは、サービスをつくった。

「米イーストマン・コダックのようなイノベーションのジレンマに陥った」
これが上の記事の結論になっているのですが、本当の原因は「サービス化」ができなかったことにあります。

 「グーグルは優れたAI技術を持つが、それが中核事業のインターネット検索を脅かすと同社は考えた。カニバリゼーション(共食い)を引き起こすかもしれないと考えたのだ。結果、同社のAI技術は一般向けサービスとして提供されることはなかった」

事実としては、OpenAIから画像生成AIのDALLE2が出た後、GoogleはImagenという同様のものを出しています。また、Alexaなどの音声デバイスも検索の代替品になりますが、Google Homeは開発していました。

Googleが上手くいかなかったのは、生成AIの「サービス化」でしょう。逆に言えば、OpenAIは、そのサービス化が上手くいったから成功したと言えます。

ChatGPTが優れていたのは、以下の点があげられます。
・研究とサービスの違い
・適度な性能
・シンプルで直感的なUI
・プラグインなどの連携
・ユーザーを巻き込んだ開発
・コーディングの成功
・ブランディングとコミュニケーション

ChatGPTは、研究ではなく、サービスでした。なので、料金設定もあります。GoogleのLaMDAやPaLMがGoogle Researchから研究論文の形で発表されていたのに対して、ChatGPTはサービスとしてとしてリリースされました。そして、GPT4に関しては、研究論文さえ出ていません。(論文はあるが、技術については詳しくは記載されていない。)

いくつかの点で、OpenAIは、ChatGPTをサービスとして「仕上げてきた」と言えます。例えば、従来のAIにあった差別的な発言をしない様に徹底的にチューニングされています。これには、単に研究だけではなく、泥臭いルールベースを含むエンジニアリングも含まれているでしょう。大量のエキスパートを雇って、専門知識のチェックを行ったという記述もあります。これがGoogleには欠けていたと思われます。

しかし、その一方で、性能は完璧ではありません。個人に関する質問は平気でウソをつきます。また、リリースはGPT3.5という一世代前のバージョンで、その後すぐにGPT4を出してきたように、研究開発にある最新のスペックを出していない点も注目です。ある程度、こなれた段階でサービスをリリースしているのでしょう。結果論かもしれませんが、この適度に間違える点が、賛否両論を巻き起こすため、ChatGPTが話題になるのに一役買ったと思います。

生成AIが成功したのは、StableDiffusionやMidjournyからですが、その際には、UGC(User Generated Contents)が、大きな役割を果たしました。ChatGPTも、その点は同じだったと言えます。

プラグインが初期の段階で整備されたのも大きいです。これで、AppStoreのように、エコシステムを作ることが可能になります。今後、様々なサービスとの連携が行われることでしょう。そういう意味では、Microsoftの存在は大きいと言えます。Googleが広告収益をメインにしているのに対して、Microdoftはソフトウェアビジネスに強いからです。

ちなみに、技術的には、ChatGPTのGPT=General Pretrained Model(汎用事前学習モデル)のさきがけとなったのは、Googleの開発したTransformerやBERTですし、技術的には、今でもGoogleは有利な立場にあると思います。ただ、それは研究開発部門の話で、サービスとは別です。

一方のOpenAIは、GPTシリーズを一貫してプロダクトとして提供してきました。GPT2のリリースの際は、「危険すぎるので一般公開は控える」などと言いながらリリースするなど、PRも情緒的でした。ChatGPTのUIはとてもよく考えられていると思いますし、GPTシリーズとしてブランディングもできていると思います。名前もわかりやすいですよね。

よく言われることですが、AIは技術のone of themでしかありません。サービスとしては、それを使って、どういう体験設計をするかが重要です。AIの技術は専門性が高いため、体験設計が難しいのですが、それを成功させたOpenAIは、見事だったと言えるのではないでしょうか。


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