決断にも練習が必要だ。~母のこと①~
#20241201-497
2024年12月1日(日)
どうも実家の冷蔵庫の調子が悪いという。
冷凍庫が凍る、霜がつくというので、実家に行った際に見てみた。冷凍庫はすき間なく入れたほうがいいそうだが、それにしても詰め込み過ぎだ。ところどころ凍っているため、開けるのに引くと、ガガガと氷が削れる音がする。
閉まりが悪い。
ドアパッキンがゆがんでいる。
母が出してきた取扱説明書を見ると、もう購入して10年は経っていた。
「買い替えてもいいと思うよ。新しい冷蔵庫のほうが性能もいいし、消費電力も小さいし」
そう会話したのが前回の実家訪問時だ。
今日は冷蔵庫を買いに母と行く。
父が生きていた頃なら、車で街道沿いにある大型電気店に行くのだが、今はそうはいかない。母が電車で出やすい都内の大きな店舗で探すことにした。
我が家もおととしに冷蔵庫を新調したが、インターネット通販で購入した。サイズと容量と価格、それから色が希望に合っていればそれで構わなかった。型落ちの新品で、今のところ不便はない。
いつのまにかガラスドアが主流になっていた。マグネットがつかないというのが気になったが、ついレシートやら小学校のプリントやら留めてしまうので、いっそつかないほうが諦めがつくと思った。気軽に留めてはいるが、その混沌振りは好きではなかった。
母は1人暮らしになるのだから、今の冷蔵庫より小さくしたいといっていた。
母のいいたいこともわかるが、1人暮らしになったからといって、いきなりスーパーで人参を1本買いするとは思えない。やはり3本パックを買ってしまうと思う。キャベツだって、半玉買うだろうか。そう考えると、あまり容量を小さくするのもよいとはいえない。
消費電力も大差ないと思うので、心持ち小さくする程度でいいのではないか。
冷蔵庫売り場に立つと、店員がすぐに寄ってきた。
「少し見させてください」といって、まずは離れてもらう。
母は「こんなの大きいわ」「もっと小さいのがいいのよ」と立ち並ぶ冷蔵庫の林をを突進していく。
「野菜室は今くらいがいいのよ。やだ、これ、小さすぎるわ」
小型冷蔵庫の野菜室を覗いて、母はぼやく。
「冷凍した物はあまり食べたくないから、冷凍庫は小さくてもいいけど」そういいつつも「こんなに小さいのは困るわね」と唇をとがらす。
「四角張って、どの面も平らすぎるのは嫌い。少し丸み帯びたのがいいわ。色は白かクリーム色かしら」
次々と冷蔵庫を開けては、思うことを口にする。
「あら、これは値段がかわいくないわね。ええええ、これはなんでこんなにお安いの?」
退いていた店員がじりじりと近付いてきて、商品説明をはじめる。
「これは国産品でして、どうしてもお値段が張っています。こちらは現品限りなのでお安くなっております」
私は少しだけ容量が小さい、奥行きが浅い冷蔵庫がいいと思った。キッチンでも圧迫感がない上に、私より背の低い母は奥行きがあると上段のものが見えないし、取り出せない。型落ちの新品で値段も安くなっている。
「これがいいんじゃない?」
私は好ましく感じた点を並べる。
「うううん」
母が首を傾げる。
「じゃあ、こちらはいかがですか?」
店員が母を発売されたばかりの国産品の前に連れていく。
「これだとお値段が予算を越えちゃうわ」
「ご予算はおいくらですか?」
店員の問いかけに私が止める間もなく、母が予算を伝えてしまう。
「20万」
あとから私を追いかけてきたむーくん(夫)とノコ(娘小5)が電気店に到着した。
「お義母さん、小さいのっていってなかったか?」
母は先ほどの冷蔵庫よりワンランク下だという型落ち新品の冷蔵庫の前に立っていた。
「そういってたんだけどねぇ。小さいのを見たら見たで、小さすぎるって」
「あれだと、今使ってるのとあんま違わなくないか」
むーくんの言葉に私は肩をすくめる。
「これだとリサイクル料金も含めて、ご予算内ですし、ポイントがこれだけつきます」
すばやく店員は電卓を叩き、母に見せた。
おそらく母は広いフロアに並ぶ冷蔵庫をいくつもいくつも見ているうちに疲れてきたのだと思う。
「そうねぇ、予算内だしねぇ」
むーくんが私の袖を引っ張る。
「いや、もっと低価格で要望に合うものがあるんじゃねえか」
「多分ね。いろんななかから選んで決めるのに、疲れちゃったんだと思う」
私は一応母に先ほどの商品を小声ですすめる。
「あっちの列にあったさ、奥行きの浅い冷蔵庫が使い勝手もいいと思うよ?」
「ううううん」
母は唸るが、どの点にためらっているのか私にはわからない。
「いいわ、これで」
店員がすすめた予算ギリギリの冷蔵庫となった。
「もっと早く着いていればなぁ」
母の決断にむーくんは納得できない様子だ。
私が決めてもいい。
だが、この冷蔵庫を使うのは母だ。気に入ればいいが、気に入らなければ毎日その気に入らない冷蔵庫と母は向き合うことになる。
母の予算内なのだ。
母が自分で決めることが一番なのだ。
母は洋服やアクセサリーなどといったこまごましたものは自分で決めて買っていたものの、こういった電化製品や大きな買い物は父に依存していたところがある。
父の判断は正しい。
父のいうことに間違いはない。
父を頼って、母は人生のほぼ四分の三を生きてきたのだ。
今しばらく、母は父と暮らした家で過ごすことになる。
だが、母も高齢だ。父の手続きが済み、母の気持ちが落ち着いたら、今後の住まいも考えねばならない。
母の意思を尊重したいが、冷蔵庫よりも大きなことだ。
母に決められるか。
私はどう住まいの情報を集め、どう母に決めさせればいいのだろう。
決断も積み重ねだ。
日々の暮らしのなかで、決断する練習が必要なのだと思う。