日常ではないところ。
#20231109-284
2023年11月9日(木)
常用薬の残りが1週間分を切ってしまった。さすがにピンチだ。
今日は何がなんでも都内にある病院へ処方箋をもらいに行かねばならない。
明日から天気が下り坂だというので、今日はノコ(娘小4)のシーツも洗濯したい。それを干してから家を出ようと思ったのに、なかなか洗濯終了のブザーが鳴らない。
見に行くと、どうやら脱水時に片寄ったらしく、また水を注入して片寄りを直している。
午前の受付には滑り込みたい。
今日はむーくん(夫)の出勤日。なにがなんでも、ノコの下校時刻までに帰宅せねばならない。
駅まで自転車を走らせ、電車に乗り込み、乗り継ぎに小走りをして。病院の最寄り駅からは人波のあいだをぬって走る。
息があがるが、「今、走らないでいつ走るんだ」とつぶやいた。
午前の受付終了1分前。診察カードを機械に通した。
新型コロナウイルス流行の影響で、薬だけの場合は電話での対応だった。病院で診察なしははじめてだ。診察がある場合は、予約を入れていてもその通りになったことがない。大病院なので仕方がないと諦めている。
それでも、行く度に新しいシステムが導入されていて、待ち時間の短縮に取り組んでいることがわかる。会計もクレジットカード払いならば、診察が終わると即帰宅できる。
診療科の受付に待ち時間を尋ねると、薬だけならば優先されるとのこと。
2ヶ月振りの来院なので保険証の確認を先に済ませていたら、あっとう間に順番が来た。
思いのほか、早く病院から解放された。
ノコの帰宅時刻に間に合うかと気をもんでいたのに、ぽっかり時間が空いた。
11時半。
まだランチタイムではない。今なら店も空いている。家路を急ぐより、腹ごなしを先にしよう。
神田神社へ向かって歩く。陽差しが心地よく、つい何度も空を見上げてしまう。
この辺りは神田川と線路があるせいか、空が広い。
神社の鳥居前や参道には甘酒屋やカフェ、蕎麦屋が並んでいる。
新しいおにぎり屋を見付けた。お米は腹持ちがよさそうだし、なにより人が握ったおにぎりやお味噌汁が魅力的に見える。唐揚げや小鉢がついたセットもよい。
でも、コーヒーが飲みたい。
まだギリギリ午前中。カフェインレスではないコーヒーを飲んでも夜の睡眠に影響しない時間帯だ。すぐそこにカフェがあるのは一度入ったことがあるので知っている。もしそこに軽食があるのなら、ランチとコーヒーの両方が叶う。
コーヒーにつられて、カフェに決めた。
ガラスがはまった木製の引き戸は軽く、カラカラと開いた。
ピザトーストと深煎りコーヒーを頼む。
料理が運ばれてくるまで、テーブルに肘をついて、ぼんやりと窓の向こうに目をやる。
ガラスに書かれた店名は、店のなかから見ると鏡文字になる。
「乙コーヒー」の「乙」はどういう意味を込めてつけたのだろう。甲・乙・丙の乙なのか。時刻や方角などの十干の乙なのか。乙女の乙か。それとも漢字は違うが「お疲れ様」のオツか。
香ばしくて重みのある香りが漂ってくる。
気に入ったカフェを見付ける度に、家のそばにもあればいいのにと夢想するが、近いと近いで家で飲めばいいかと足を運ばない気もする。もちろんコーヒーも大事だが、家とは違うその空間に憧れているのに、途中から目的ずれて妙なもったいない精神がうずきだす。
揺らぐな、揺らぐな。
日常と切り離れた場所。
今、ほしいのはそれ。日常ではないところ。