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【偏愛土木写真023】「立野ダム」の建設現場に潜入してみた

 このコーナーでは、土木写真部の部員が一押しの土木構造物やお気に入りの写真をご紹介します。第23回は、国土交通省九州地方整備局が熊本県中北部を流れる一級河川「白川」の上流に建設中の「立野ダム」について、土木写真部の活動の様子も交えながらご紹介します。


立野ダム(左岸:熊本県菊池郡大津町大字外牧、右岸:熊本県阿蘇郡南阿蘇村大字立野)

 土木写真部では、日頃は、それぞれの部員が時間のあるときに撮影した写真をSNSで情報発信(「#土木写真部」で検索)するとともに、年に1~2回程度の頻度で写真展を開催しています。
 そのほか、不定期で「部活」と称して、複数の部員が集まり、各地の土木構造物を巡っています。

 今回、土木写真部宮崎支部のメンバーとともに訪れた立野ダムは、白川沿川の洪水被害を防ぐことを目的とした流水型ダムです。
 流水型ダムとは、洪水調節のみを目的とするダムで、現在の川の高さとほぼ同じ高さに放流する穴を設置することにより、平常時に流水の貯留を行わないダムです。

立野ダム(下流側遠景)
宮崎支部のメンバーと記念撮影(左から2番目が筆者)
部活動の様子
立野ダム(上流側)

 立野ダムでは、平常時は川と同じ高さに設けた下段の放流孔(1門)を通って水が下流に流れ、洪水により上流から流入する水が増加し、下段の放流孔から流れる量より多くなると、次第に水が貯まり始め、上段にある2門の放流孔からも放流される仕組みとなっています。
 この間、ゲート操作等の人為的な操作は行わず、流入量と放流量の差が貯留されることで洪水調節を行います。
 ダム本体に設けられる放流孔の大きさはいずれも幅5m×高さ5m。洪水時に流木により放流孔が閉塞するのを防止するため、呑口には鋼製のスクリーンが設置されるほか、ダム上流150m地点に流木等捕捉施設が設置されます。

3門の放流孔(写真奥)と流木等捕捉施設(写真手前)
鋼製スクリーンの設置状況(写真左)

 現在、立野ダムでは、九州地方整備局として、34年ぶりとなる柱状打設工法により、ダム本体のコンクリート打設が進められています。

左岸側(2~4BL)の施工状況
右岸側(10BL)の施工状況

 私達が立野ダムを訪問した日も、コンクリート打設が行われるということで、稼働中の骨材貯蔵設備やコンクリート製造設備(バッチャープラント)、コンクリート運搬設備(16.5t吊りケーブルクレーン)も見学させていただきました。

骨材貯蔵設備(遠景)
骨材貯蔵設備(ベルトコンベア)
コンクリート製造設備(計量器)
コンクリート製造設備(操作室)
コンクリート運搬設備(ケーブルクレーン)

 令和2年10月より始まったコンクリート打設の進捗率は既に8割を超えており、このまま工事が順調に進みますと、令和5年の出水期前にはダム本体が慨成する見込みとのことです。

照明に照らされたダム本体
右岸側からダム本体を望む
右岸側(3BL)の様子
減勢工から上流側を望む

 立野ダムの設計にあたっては、景観検討委員会が設置され、自然環境の保全はもとより、天端から管理用のエレベーターや照明柱を無くしたすっきりとしたデザインの採用や導流壁上部を波返し形状とすることで、高さを約6m抑えるなど、様々な工夫がなされています。
 立野ダムが完成した際には、そういったところにもぜひ、着目してみてください。

構造概要

所在地 左岸:熊本県菊池郡大津町大字外牧
    右岸:熊本県阿蘇郡南阿蘇村大字立野
河川名 白川水系白川
形 式 曲線重力式コンクリートダム
堤 高 87m
堤頂長 197m
総貯水量 約1,010万m3
管理者 国土交通省
本体着工 2018年


立野ダムの位置

国土交通省九州地方整備局立野ダム工事事務所ホームページ(動画有り)


写真・文:岡部 章 土木写真部長
 1992年に宮崎県庁に入庁。瓜田ダム建設工事事務所での勤務を皮切りに、県内各地で土木工事の調査・設計・監督業務に携わる。
 土木構造物を世界にただ一つのオーダーメイドの作品と捉え、その魅力をより多くの人に伝えようと、2014年に「土木写真部」を立ち上げる。
 ライフワークは土木広報と景観まちづくり。宮崎県県土整備部都市計画課長補佐(技術担当)、(一財)日本ダム協会認定ダムマイスター