TV版名探偵コナン最長シリーズ「赤と黒のクラッシュ」OPは“13”という数字を意識して作られているという説を主張したい
うん。このことが書きたかったんです。
検索をざっくりかけた範囲では見つけられなかったから、もし考えついた人がいたとしても、広く浸透していない話であることはたしかだと思う。
本編には、まったく関係ない話だしね。
1996年1月に放送が開始されて、2020年で放送開始から24年、いまなお25年めを歩み続けるアニメ『名探偵コナン』。
アニメオリジナル、いわゆるアニオリの話を中心に一話完結の話が多いなか、原作回は前後編に分かれていることが多く、なかでも、原作の重要なエピソードはTVスペシャルとして放送されたり、あるいは、長い話数をかけて作られたりしています。
たとえば、いまではホイホイ灰原にAPTX4869の解毒薬をねだり、身体の伸縮自由自在の江戸川コナン=工藤新一ですが(少し言いすぎか)、
「死ぬかも知れないけど… 試してみる?」(原作26巻)
と彼女に言われてはじめて解毒薬を飲み、新一に戻った際のエピソードを含む一連の流れは「命がけの復活」シリーズとして、6話をかけて放送されました。
そんなアニメ『名探偵コナン』の数ある原作回長編シリーズのなかでも最も長いのが、FBI捜査官赤井秀一の死までを描いた、全14話からなる「赤と黒のクラッシュ」シリーズです。
「えっ、赤井って生きてるじゃん、映画の予告で見た」というあなた。安心してください、死んでません。でもこのときは死んだことになり、全米が喪に服しました(全米が泣いた、くらいの意味合いでとらえてください)。
赤井の同僚であるキャメルが階段を使って筋トレをしていたホテルに、たまたま平成の死神・江戸川コナンご一行さまがバイキングをエンジョイしにきてしまったことで、彼は殺人事件の容疑者になってしまいます。
コナンからの連絡で、同僚のキャメルを助けにいくことにしたジョディ。FBIの詰所を出ようとする彼女に、赤井が声をかけます。
「気を付けろ… 今日は何か嫌な感じがする…」
「ああ 13日の金曜日だからでしょ?
私、そういうの気にしないから…」
「…そうか…」(原作58巻)
そしてこの夜、赤井はジンの謀略にはまり、命を落とします。
14回のうちには、いわゆる日常回も含まれていますが、最終的にたどり着くのは13日の金曜日、赤井秀一の死。
だからでしょうか、このシリーズ時のみに使われたオープニング主題歌「愛は暗闇の中で」の映像には、“13”を意識して作られているように感じる点がいくつかあります。
「愛は暗闇の中で」がほかのコナンOPとは違う点
“13”にまつわる話をするまえに、『コナン』OPにおけるこの曲が、ほかの曲と比べると、かなり異質であることにも触れておきたいと思います。
ひとつめは、この曲はカバー曲であるということ。
先に『コナン』の主題歌になっていた曲のカバー曲や劇場版の主題歌をのぞいて、基本的にはその時にできたばかりの曲が『コナン』の主題歌になっています。
「愛は暗闇の中で」も放送当時、2008年に発売されたシングルですが、この曲はいわゆる本人カバー曲。元々は放送当時より17年も前に発売された、ZARDのメジャーデビューシングルのカップリング曲。Wikipediaを信じるならば、この曲は『コナン』の主題歌として“発掘”された曲なのです。
ふたつめは、このOPの主人公はベルモットであるということ。
アニメOPあるある、“サビの部分で全力疾走する主人公(たち)”。
コナンもよく、走ったり手をのばしたりしていますよね。
そしてこれもあるある、“サビの終盤で立ちはだかるラスボス”。
近年までラスボスの名前が明かされず、いまでもその正体は謎に包まれている『コナン』ではあまり見かけない表現ですが、これもあるあるだと思います。
また、舞台に上手下手があるように、アニメの画面にも上手下手があり、安定した流れ、主人公サイドの正位置の向きは右から左、←の流れです(気になった人は調べてみると、面白いです)。
抗う流れのときは→の向きをとることも多いですが(OPでコナンが集中線的なエフェクトに囲まれて“届かないなにか”に手を伸ばすときは必ずこの向き)、基本的には「左へ向かっていく」のが主人公です。
「赤と黒のクラッシュ」シリーズOP「愛は暗闇の中で」において
OPのサビに入ったところで画面左に向かって全力疾走するのはベルモットで、
サビの終盤で泰然と登場するのは赤井です。
なので、このOP映像で語られているのは、ベルモット(たち黒の組織)が赤井秀一を打ち負かそうとする、というストーリーだといえます。
割愛しますが、光の表現においてもベルモットを主人公に据えて描いているのだなということが感じ取れます。
コナン(たち)が黒の組織、あるいは犯人(黒タイツ)と対峙する、という構図のOP映像はいくつかありますが、主語が黒の組織のOP映像は現状、このひとつしかありません。
そしてみっつめは、このOPがシリーズ専用であるということ。
最近だと49代目OP「薔薇色の人生」はスペシャル前後編として放送された紅の修学旅行編開始と同時に使用され(前編時はOPではないが)、その後の放送回でも修学旅行編の映像が使われていて、まさにシリーズを象徴したOP曲といっても過言ではないと思いますが、書いたとおり、その後の放送回でも使われています。
そのシリーズ“だけ”でしか使われていないOPは、現時点で「愛は暗闇の中で」ただ一曲なのです。
これらのことからも、このOP「愛は暗闇の中で」、そして「赤と黒のクラッシュ」……ただものではない! ということが伝わってくるかと思います。
「愛は暗闇の中で」と“13”という数字の関係性
しかし、当時ぎりぎり子どもだったいち視聴者として、このシリーズを見て感じていたのは「いつまでこれ続くんだ…」という思いでした。
全編通して1クールアニメより長い14話。
期間にすると、1月14日から5月19日の四ヶ月超。
毎週きっちり見ていたわけでもないので、「まだ赤と黒のクラッシュって事件やってる! 一ヶ月前もやってなかったかこれ!」とタイトル画面を見て信じられない、と思った記憶もあります。少年探偵団よりちょっとばかりお兄さんやお姉さんなくらいの小学生は到底ついていけなかったと思うし、「一話完結、長くても前後編程度で終わる、ご飯どきに適当に見るのにちょうどいいアニメ」として『コナン』を見ているライト視聴者層へ叩きつけた挑戦状のようなシリーズだなとも思います。
けれどもいまとなって振り返ると、(メタ的に見て、どー考えても赤井秀一が原作者・青山剛昌氏のお気に入りのキャラであることも含めて)このシリーズは時間をかけてじっくり描かれるべきものだったんだなと感じます。
さて。
前置きが長くなりましたが、アニメ『名探偵コナン』史上において、かなりの気合いを入れて作られたことは確実であろう「赤と黒のクラッシュ」シリーズ。すべての事象が、赤井秀一が命を落とす13日の金曜日へと集結するこのシリーズのOP映像には、いくつもの“13”という数字との関連性が見られるな、ということに気がつきました。
1:このOPが使われたのは、シーズン13の1話目からである。
一番目に持ってきましたが、ぶっちゃけこれは前後の年のアニオリの入り具合などを見てもたまたまだろうと思います。
あとはスタッフほぼ総入れ替えとかの大人の事情なんかもあると思いますが、仮にスタッフ続投だったとしても、シーズン13で放送されることになっていたであろうエピソードです。
“後”はむしろ原作エピソードがこの時期の数年の平均以上に詰まっていて、ここがスカスカ(アニオリ多め)であれば13年目のトップバッターにするために急いだ、と考えることもできそうですが、とくにそういったこともありません。
2:このOP映像がすべて使われたのは、13回である。
「赤と黒のクラッシュ」は14話からなるシリーズなので、14回、OP曲が流れています。
しかしそのうち最後の一話、14話目にあたる「赤と黒のクラッシュ 殉職」の放送回では、OP映像は一部本編映像に差し替えられています。
なので、OP映像が通しで流れた回数としては13回。
よくある“初回と最終回はなんか主題歌の使いどころが違う現象”なのですが、この放送が国民的ご長寿アニメ(になりつつあった作品)の通常30分枠であることを考えると、きわめて珍しいことのように思います。
3:このOP映像に出てくるベルモットは、全部あわせて13カット。
さきに話した通り、このOP映像の主人公は、『名探偵コナン』の主人公である江戸川コナンではなく、黒の組織のボスに近しい人物、ベルモットです。
そのベルモットの顔や身体の一部が入ったカットが、このOPのなかに13カットでてきます。
深く組まれる太腿、タバコを持つ指先、なにかを捉えた眼……。
それが、全部で13カット。
4:歌詞テロップの13行目に出てくるカットが、赤井秀一の横顔。
ちょうどサビの終盤にあたる部分です。
このOP映像のストーリーで語られる“倒すべき敵”、赤井秀一がどどん、と圧倒的な存在感をもってカットインするのが歌詞の13行目です。
監督のクレジットが入っているのもこのカットです。
5:映像のなかに挿入されるキャラやら愛車やらの単語が、あわせて実質13。
ちょっとめんどくさいけど、最初から全部書いてみたいと思います。
VERMOUTH(ベルモット)、V-Rod(ベルモットの愛車)、C-1500(赤井の愛車)、GIN(ジン)、VODKA(ウォッカ)、356A(ジンの愛車)、CHIANTI(キャンティ)、KORN(コルン)、KIR(キール)、赤井秀一、ジェームズ・ブラック、ジョディ・スターリング、瑛祐、怜奈
全部で14じゃねぇか! と思ったあなた、大正解です。
しかしこのうち、キールと怜奈は同一人物なので、実質13ということにしたい、させてほしい。
でも正直、『頭文字D』でも『湾岸ミッドナイト』でもないのに、車種の紹介要るか? とは真剣に思うので(もちろん、知らなくても物語の理解にはなにも困らない)、このへんをつけ足すことで実質13に揃えたのではないか、とにらんでいます。
6:OP最後の全員集合絵に描かれている人物が、全部で13人。
さすがに最後の集合絵では『名探偵コナン』の主人公であるコナンが中央に描かれています、かなり苦しそうな表情で。
羅列していくと、
中央にコナン、赤井。
右側にジョディ、ジェームズ、瑛祐、明美、灰原。
左側にベルモット、ジン、キール/怜奈、ウォッカ、キャンティ、コルン。
これで全部で13人。
一連のエピソードを見終わって思いませんでしたか? 「キャメルも入れてやれよ」と。わたしは思いました。でもキャメルを入れてしまうと14になってしまうので、だめなんです。知らんけど。
……ということで、これら6つの点が
『名探偵コナン』の「赤と黒とクラッシュ」シリーズの主題歌「愛は暗闇の中で」のOP映像が“13”を意識して作られている説
を主張したい、と思うに至った根拠です。
もし、ほかにも13につながるなにかを発見した人は、ぜひともこの説を補強していただきたい所存でございます。
いわゆるCパートのようなつぶやき
13という数字とは関係ありませんが、最後の集合絵、かなりうまくできているなと思っています。
この赤井秀一の死は、コナンと赤井の共謀による偽装工作。
「赤井秀一の死」という主題を完成させた二人がまず、真ん中に置かれます。
彼らから右側にいわゆる主人公勢、左側に敵の面々が配置されます。
主人公勢は右向き、敵メンツは左向き。コナンの真下の赤井も右向きです。
OP最中の映像でもそうですが、主人公勢は緑色、敵メンツは赤紫色のオーラを纏ってます。
このオーラ配分が、ぱっと見6:4くらいで敵メンツのほうが多いんです。
“主人公勢が押される話”、待ち受ける“敗北エンド”が暗示されます。
ただこのオーラ、よく見ると5:5なんです。
それを6:4に見せているのが、左を向きながらコナンの真上にいるキール/怜奈の存在です。それは、この放送からかなり後になって判明することですが、彼女も偽装死の一端を担っていたから。
それが視聴者に明示されるのは、この時から7年も後、シーズン20の「緋色」シリーズでのこと。単行本収録だと「赤と黒のクラッシュ」にあたる部分が56〜59巻で、「緋色」は84・85巻です。
身体の向きと位置の関係にくわえて、“主人公勢”の色である緑色に見える服を着せられているのも「巧い!」と思います。
沖矢昴の登場により、“赤井が死んでいない”ことにはものの二ヶ月で気づいた人は気づいたと思いますが(理由はGoogleで検索してください)、原作をリアルタイムで追っていた人でも、“赤井の死の偽装にキール/怜奈の協力があった”ことまでたどり着いた人は少なかったんじゃないかな、と思います。
なのでおそらく、この時点でアニメ『名探偵コナン』に関わるスタッフのうちの何人か、少なくともこのOPの絵コンテを切った人は赤井の死の真相と、それにおけるキール/怜奈の役割を知らされていた(不明だけど佐藤監督だと思う・絵コンテ切った人が別にいたとしても監督が知らないわけがない)のだろうと思います。
俗にいうスネイプ先生役の人だけが『ハリー・ポッター』の重要なあれこれを先に原作者から聞いていた、みたいなあれです。
7年の時が経って見返してはじめて、「そういうことだったのか!」と気づく集合絵、見事としか言いようがありません。
このOPをこんなに素晴らしい作品として世に送り出すのに関わったすべての人に、多大なる感謝。完。
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