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ブライトンに行った話
5ヶ月も前の話ではあるが、その過ごした1週間の記憶が今でもまだ鮮明で、忘れられないものである。
この経験を暇な夏休みを利用し、長々と綴ることにした。
ブライトンに行くと決めたのは2023年の8月下旬。
それから貯めた30万ほどの資金で翌年3月に渡英することにした。
もちろん目的はプレミアリーグ、Brighton & Hove Albion F.C.の試合観戦である。
当初はブライトンvsマンチェスターシティのリーグ戦を観戦予定だったが、シティがFA杯を勝ち進んだことにより日程がずれ、行けなくなってしまった。
航空券もチケットも既に取得していたため、シティには理不尽にもキレていたことを覚えている。
116件目の不正。
航空券や試合観戦のためのチケット取得は度重なるキャンセルや代行の確保で面倒で大変なものであった。
マンチェスターシティさん。
それはともかく、プレミアリーグは諦めてヨーロッパリーグ、vsローマ戦を観に行くことにした。
クラブ史上初のEL挑戦を現地で見届けられるということで。
私は本州から出たことのない人間であったため、海外はおろか飛行機も初であった。
また航空券の費用を抑えるために中国南方航空という格安航空会社を利用し、中国の広州で乗継ぎを行う旅程を組んだため、飛行機初心者には難易度が高そうに感じ不安が大きかった。
余裕をもって搭乗手続き等を済ませ、出発。
機内アナウンスは中国語、英語で話されていてチンプンカンプンだった。
CAさんは私のことを中国人だと思っているので機内サービスの提供を中国語で話しかけてくる。
中国語など理解できるはずもなく「おれんじじゅーすぷりーず!」「ちきんぷりーず!」だけで乗り切った。
私が日本人なことに気づいた隣の中国人カップルがサポートしてくれたりといったこともあり、無事に初フライトを終えた。
乗継ぎは「transfer」を見つけてなんとか突破し、18時間のトランジット。
日本好きのニュージーランド人がタバコを勧めてきたり、寝心地のいいソファを一緒に探したりした。
そして今度は広州からヒースローへ12時間のフライト。
寝たりマリオカートをしたりしていたら意外とすぐだった。
ヒースロー着弾。
入国したのはちょうど18時頃だった。
無事にフライトを終え、夢のイギリス上陸を果たしたわけだが問題が生じた。
ヒースローからブライトンへの行き方がわからないのである。
下調べでは、ヒースローからブライトンまでのバスがあるため、時間はかかるが安いこの方法で行くつもりだった。
しかしバスの予約はしておらず、またバス乗り場も乗車券の販売場所も把握できず途方に暮れた。
大焦りしながら、では電車移動をしようと切り替えたが今度は電車の乗り方が分からなかった。
メソメソしながら警備員にbrighton駅までの行き方を聞き、紙の乗車券を購入した。
今思えばgoogle mapを使えば行き方なんて分かるし、乗車券なんか買わなくてもクレカで通過できる(しかもそっちの方が多分安い)しとなるが、そのときはありえないぐらい焦っていたのである。
事前準備、事前知識がいかに大切か学んだ出来事となった。
brighton駅までの移動もうまくいかなかった。
乗り換えは失敗し、ホームも間違え、ガラガラの車内で無事に着くことができるのか不安になった。
一方で車内に犬がいたりトイレがあったりといった日本との違いを楽しんでもいた。
そんなこんなでなんとかbrighton駅に到着。
時刻は23時を回っていた。
夕方に到着する便に乗るのはやめようと誓った夜である。
その夜は急いで宿へ向かった。
泊まったのは海沿いで4人1部屋のホステル。
私が入室したとき同部屋の人はみんな寝ていた。
かなり疲れていたので上着も脱がずにそのまま寝て、1日が終わった。
朝。
同部屋の人と軽く挨拶を交わし、外に出た。
宿に着いた時は暗くてわからなかったが海が本当に近くて嬉しかった。
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west pierに挨拶を済ませ、街を散策することにした。
念の為現金の両替もしとくかと思い、交換レートが良いらしいM&Sへ向かった。
両替所は「bureau de change」と表記されるらしい。
フランス語っぽさがある。
両替してフラフラしていたら昼になったのでフィッシュ&チップスを食べることにした。
ここでちょっとした事件が起こる。
私はフィッシュ&チップスを当然1人分頼んだのだが、なぜか2人分頼んだことになってしまったのである。
文法か発音か、何を間違えたのだろうか。
2人分を作り始めているキッチンを見て、「私が頼んだのは1人分ですよ」なんて言えないクソ雑魚ナメクジメンタルの私。
しっかり2個分の料金を萎えながら払い、店を出てビーチで食べることにした。
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一見2つでもいけるかも?と思ったが無理だった。
美味しい、美味しいけど一つで精一杯であった。
見た目に反してものすごいボリュームなのである。
一つ余ってしまって困った私。
ホームレスに無償であげることも考えたが、値段が高かったためもったいなさが勝った。
そこで私はこのフィッシュ&チップスを利用してナンパすることにした。
「海老で鯛を釣る」戦法である。
恥を捨ててノリでアタックできるのが一人旅の良いところだ。
いざビーチで1人佇む女性に声をかけた。
撃沈。
強めの口調で「No」と言われ、日本に帰りたくなってしまった。
やはりこういうのは向いていない。
結局もう一つはスタジアムまで持って行って夜ご飯にすることにした。
フィッシュ&チップス、クソッタレ。
昼食後、West pierを見つめてからしばらく経ち、いざAmex stadiumに向かうことにした。
Brighton駅からFalmer駅へ。
試合の日は電車賃が無料になることに感動しながらフィッシュ&チップスを抱えて電車に乗った。
Falmer駅着。
張り切って早めに来すぎてしまったようで、人が全然いない。
とりあえず人について行ったら、スタジアムとは逆方面の大学に着いてしまった。
大学を少しだけウロウロして今度こそスタジアムへ向かった。
夢のamexである。
人のいないうちに写真を撮りまくり、マフラーを購入した。
ブライトンとローマが半々にデザインされている、その試合限定の例のやつである。
暇ゆえにスタジアムを周回し、時間を潰した。
それでもなお時間が余った。
振り返れば試合キックオフは20時なのに対し駅に14時に着いていたのである。
気合いが入りすぎてしまったようだ。
やることもないのでベンチでたそがれて時間が経つのを待った。
18時頃には人がワラワラやってくるようになった。
試合開始2時間前に来るのが妥当なのだろう。
私は居座っていたベンチで夜食を、その日二度目のフィッシュ&チップスを食し始める。
当然もう冷たくなってはいたが、元が美味しいので悪くはない。
と思ったのは最初に数口だけである。
意思とは関係なく身体が拒絶しているのである。
オエオエしながら水でなんとか流し込み食べすすめていると、隣に座っていたおばちゃんが応援してくれた。
泣きながら完食。
30分以上の格闘を制した。
ちょうど食べ終わったころローマサポの団体が到着し、厳重な警備隊を挟んでブライトンサポとローマサポの煽り合いが起こった。
1stレグを4-0で下したことから、ローマサポは4本指を立てて振ってみせた。
対してブライトンサポはアルビオンコール。
試合前からバチバチで最高にゾクゾクした。
いざスタジアムに入場。
手荷物検査は小さな荷物でも行われる。
驚いたのが現地の人たちは手ぶらな人が多かったことだ。
ポケットに入る程度の、財布やスマホぐらいしか持ち歩いていないのだろう。
私はこの人々のフットボールの試合に対するラフな感じというか、日常に溶け込んでいるというのを強く感じたりした。
また彼らは同じチームを応援する人に対してとてもフランクであるように感じた。
入場列に並んでいる時も私が日本人なのに気づくと優しく話しかけてくれる人もいた。
その存在が一人観戦のわたしにとっては心強かった。
Kaoru Mitoma効果はすごい。
コンコースではビールが売られているが席には持ち込めないため皆その場で飲んでいた。
コンコースを抜けて階段を登ればスタジアムを望める。
私はこの瞬間がたまらなく好きだ。
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ついにきた。
ブライトンのホームスタジアム、アメックススタジアムである。
席はなんと一番前。
ウォーミングアップ中の選手の顔が鮮明に見えた。
最高である。
隣席は日本人の方で色んな話をした。
異国の地で日本語で会話するのがなんだか不思議な感覚だった。
まもなく試合開始。
ELアンセムとお待ちかねのSussex by the sea。
現地で聞ける日が来るとは、と感慨深い気持ちだった。
試合開始。
そのとき感じた臨場感や迫力は体験したことのないものだった。
私はJリーグも好きでたくさん現地に赴いた経験があるが、スケールが違った。
夢のような90分だった。
なんとも形容しがたいものがあった。
試合は1-0での勝利。
しかしトータルスコアで1-4のため、ヨーロッパリーグは敗退となった。
それでもサポーターは選手を拍手で迎えた。
わたしにとって、もはやスコアなどどうでもよかった。
アメックスでブライトンを見ることができたから。
忘れられない、特別な夜になった。
なんども妄想していた世界。
でも実際はもっと、肌で感じることでしか得られないものがあった。
そのときの感情は稚拙な文では表現できないけれど、ずっと忘れないと思う。
試合後の帰路のあちこちで起こるアルビオンコール。
この街がすきだ。
一夜明けて、余韻に浸りながらひたすら街をフラフラした。
マックに行ったり、デゼルビの壁画を見に行ったり、お土産を買ったりした。
ブライトンのシンボル的なロイヤル・パビリオンにも行った。
なんというかまあ想像通りだった。
お金払ってまで中を見たいとはならなかったため、フーン程度で退散。
案内板にはロマニスタが観光しにきた痕跡があって可愛いかった。
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あとはずっとWest pierを眺めていた。
その次の日は快晴だったためセブンシスターズに行った。
降りるバス停を間違えて2時間も歩いてしまったが、かえって素敵な風景に出会えたりした。
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どこまでも続きそうな青々とした海と芝。
ひたすらワシワシ歩くのが楽しかった。
セブンシスターズはかなりよかった。
写真で見るよりも壮大で美しく、そのままの自然と歴史の経過を感じられた。
真っ白な崖と青い海が映えて可愛い。
私はアイスを買って、2人揃って半ケツしているカップルを眺めながら食べた。
こんなに素敵なカップルがいるだろうか。
わたしは結婚したくなった。
この場所に素敵な女性と2人で来れたならそれは貴重な思い出になるだろう。
結婚したい。
街へ戻る。
相変わらずお金が無いため、ALDIという安いスーパーで菓子パンやフルーツを買って食べていた。
ちょっとした贅沢でハムを買ったりもした。
朝は快晴だったのにいつの間にかどんより雲空。
乙女の心のようだ。
結婚したい。
また次の日。
別に特に決まってやることはなく、またフラフラしていた。
Palace Pierにも行ったが、元々ゲーセンに行く人間ではないし、アトラクションに1人で乗るのもな...といった感じでぐるりと回って退散。
友達と来てたら、とも思ったが一人旅の気楽さに勝るものなしである。
予定を立てずにフラフラして、狭い路地に入ったりしたくなる性分だし、海は時間を気にせずに見つめていたい。
自分を正当化させたところでお昼ごはんへ。
日本でのバ先、KFCに向かった。
日本との違いを感じたかったのである。
昼時なのにガラガラの店内は、自分のバ先のようで勝手に親近感。
チキンは小さくて辛かった。
日本だったら炎上ものだろう。
マヨネーズをぶりゅぶりゅにかけて完食した。
そしてまた街をブラついて。
その次の日はイングリッシュブレックファーストを食べて、ずっと街を歩いてWest Pierを眺める、をしていた。
この日がブライトン最後の夜。
悲しくて、弱いのにたくさん飲んだりした。
将来のことを考えて、もっと悲しくなったりして。
ここに来るまでの半年間、ずっとここに来ることをモチベに働いて日々耐えていたため、今後どうしていけばと不安にもなった。
でも自分と向き合う時間ができて嬉しかった。
自分が本当にしたいこともぼんやりわかったし。
ブライトン最後の朝。
少しどんよりしていて嬉しかった。
なにも解決なんてしていないが頭はスッキリしていた。
West Pierを見ながらバナナをもしゃもしゃ朝ご飯。
West Pierは本当に永遠に見ていられる。
儚くてかわいい。
別れは辛かったけれど、目に焼き付けてまた来るって約束した。
スーツケースをガラガラ引きずってバス停へ。
ロンドン行きのバスに乗る前に行きたかったburger brothersに。
世界一のハンバーガー屋だと思う。
本当に美味しくて、おいひーだった。
相変わらず遅れてきたバスに乗ってロンドンへ。
アクシデントで長めになったブライトンの滞在はそれでも短くて、楽しくて、刺激的だった。
異国のサッカークラブをすきになって、街まですきになるなんて。
ありがとう、ブライトン。
また来るね。
夏に書き始めたものが怠けて冬になってしまった。
が、あくまで記録用ということで。
お後がよろしいようで。