忌避される「血まみれ肉」に向き合ってみた話
amphibianです。
文体はまだ模索中です。
こちらの記事では小さいイノシシの解体を初めてやった感想や疑問を書いています。
あれから集団での解体をイノシシ4~5回、シカ2回。単独での解体をシカ1回。それぞれ経験してきました。
その途中でどうしても気になったのが「血まみれ肉問題」です。
ところで今回の記事は血まみれ写真が入っています。
今回はあくまで「肉」なので、動物の形が分かるようなものではないですが、血が苦手な方はいちおうご注意ください。
なおamphibianは血が苦手です。
がんばって生きています。
血まみれ肉問題とは
前回書いた「糞尿まみれ肉問題」については、猟師さんによって気にするかしないかの温度感がわりと違うっぽいです。
(幸い腸が爆発したような個体に当たってないから分からないだけかも)
一方で、ほとんどの猟師さんが忌み嫌い、警戒しているのが「血まみれ肉」です。
(血合い肉とは違います。アレは血じゃなく筋肉なのだって)
「血まみれ肉」というのは別に公称じゃないです。
現場では「血肉」とよばれたり「血もぐれ(まみれ)」という方言の形容詞でよばれたり「ぐちゃぐちゃ」と身もフタもなく表現されたりしています。
狩猟の過程で激しく傷つき、結果として血みどろになった部位や肉のことです。
「血まみれ肉」が生じる主な理由は以下です。
銃撃によって仕留める際、急所を外す、何発も打ち込むなどしたためダメージが大きくなりすぎた
罠にかかって暴れたため大怪我を負った
猟犬がむちゃくちゃに噛みついた
止め刺し後の血抜きが不十分だった
こうしてできあがった「血まみれ肉」を猟師はたいそう嫌悪しており、犬にさえやらず捨ててしまうことも多々あるようです。
おっとここで賢明なる読者各位はお思いでしょうか。
「洗えばいいじゃん」と。
血は洗い落とせないのか?
では、そもそもの「血」を見てみてください。
ゲルゲルしていますね……
この真っ黒いゲルが野生大型動物の血です。
いやもちろん殺したての血は液体です。この状態では体を循環できない。
しかしシカやイノシシの血はぴょーっと流れてすぐ(1分くらい? で)、こういうゲル状に固まってしまいます。岩やコンクリにつくとガチでとれないです。
野生の厳しい環境でケガした時に速攻で止めるため、血小板がむちゃくそ強力なのでしょうか。
あるいは人間もリアル流血したらこうなるのか。いやでもたまに激烈な鼻血出す人学校にいたけどこうじゃなかったし、エリザベート・バートリがゲル風呂に入ったという話は聞かないから、きっと濃さとか成分が大違いなのでしょう。
したがって「血まみれ肉」とはこのようになります。
デロデロですね。
つまり「血まみれ肉」とは、血液が筋繊維やらグズグズになった傷口やらにしみこんで固まり、赤黒いゲルに染まったデロデロスポンジ状態の肉なのです。
そうは言うものの、いちおう洗うことは無意味ではないです。
こうやって水につけとくことで多少、血を抜くことができます
赤い肉がピンクになってる感じでしょう。
肉を水に晒すと水っぽくなるので禁忌とされる猟師さんもおられましたが、「しっかり洗ったあと色んな手で脱水する」方もおられ、amphibianはとりあえず後者採用でやっています。
が……右側にデロデロが残っていますね。
ここまでがっつりゲルがしみた肉は正直、なんぼ水につけても真っ赤な汁が出続けるだけです。一度固まった大型獣の血は水に不溶。
結論として、洗いは全てを解決しないです。
なお現場では「細切れにしたうえでゆでると血がアクとしていっぱい出てくるので食える」というアドバイスをいただきました。
それらしいこともしてみましたが、確かに流れる血はアクとして取れるものの、結局肉に血は残りました。よほど細かくすればいいのかもしれませんが、それは湯がいたミンチのカスみたいになりそうです。
超食糧不足のときは考慮すべきか? それなら血まみれのまま食うことを考えるべきではないか?
そう、それが次の疑問につながります。
血まみれ肉は「食べられない」のか?
先輩猟師さんの話は、かなりバラバラかつ霞がかっています。
「臭い」とか「不味い」といった話もあります。
「ジビエが獣臭いというのは血抜きがまずいからで、見事に血抜きされたジビエはそれはそれはおいしい」という話もよく聞きます。
が、いちばん聞くのは「気持ちが悪い」という話です。
血まみれ肉を実際食べたらどうなる、という話があまり聞けない。
確かに、この見た目で延々赤い汁が出てくる肉は気色が悪いです。
真空パックするときも血が邪魔になるし、調理場も汚れるし。
あと「血を食べる」のはいかにも吸血鬼みたいでちょっと嫌だ。amphibianも。
でも、それって文化的な忌避感かもしれない。
日本において血はケガレであり忌むべきという考えは古くからあります。
獣肉食がスタンダードになったのも明治からですし。
一方で、古来より狩猟や畜産によって文化を発展させた国々では、その資源を極限までムダにしないよう、「血を使った料理」が多数考案されております。
ドイツのブルートヴルストとか、朝鮮半島のスンデとか、沖縄のチーイリチーとか。
忌避感さえなければ高栄養で、もしかしたら美味ですらあるかもしれないなら、単にキショいというだけで捨ててしまうのも勿体ないとか思います。
だったらまあ、食ってみるしかない。
血に染まった部分は、真っ黒になった。
真っ赤よりは食いやすい気がするね。ちょっと焦げた肉みたいなもんよね。
(咀嚼)
……えっとね。
まず、獣臭いということはないと思います。
獣臭いというのが何を指しているか実は不明瞭なので断言は避けます。
血の味がするかと言われれば、しないとは言えないかな。
火は通ってるので生血みたいな味はしませんが、レバーとかの方向性の風味が乗っています。
正直、この程度の味であれば、レバー食える人なら全然問題としないでしょう。個性の範疇で片付くものに感じます。
ただ食感が悪い。
とても。
噛めば噛むほど、口の中がワシャワシャしてきます。
熱で固まった血の塊が崩れ、肉の食感と無関係に口中で拡散しているのです。
ちょっと吐き出すと、砕けた真っ黒いカケラがいっぱい出てきました。
うーん、これは……ちょっと……確かに……気持ちが悪い……
それでも血まみれ肉は山積みなので、色々工夫はしました。
結果、血が抜けた部分については普通の肉と変わらず調理が可能。
血が残った部分についても、圧力鍋で1時間煮るような超パワー調理法で肉をぐっだぐだにしてカレーとかで食べれば、食感も臭いもあんまり気にせずいけそうです。
ただ、傷口付近で血がいっぱいついてて抜けない部分などは結局のところトリミングするしかなさそうです。
料理ぜんぶがワシャワシャになってしまう。
上述した血の料理たちはこの食感どうクリアしてるんだろう。
わかったらいつか書くかもです。
とりあえず「食べられない」わけではない、ただ食感が悪く解決が必要、というのが暫定結論。
なおこれはあくまで自分自身で人体実験した範囲での感想です。そもそも血まみれ肉になった原因があるわけで、大怪我にしろ犬アタックにしろ決して清潔なものではなく、「食わない」選択はそれなりに合理的とおもいます。
マネは非推奨、テストに書いたら0点です、ということでひとつ。
工夫できない理由
「血まみれ肉」に関しては、やり方を工夫すればもっと食べられるようになる気がしています。
でも今は、そこに大きな壁があるのも分かっています。
猟師は狩猟、解体、料理をぜんぶ自分でやります。
しんどいのです。
狩猟は下手すりゃフルタイム。
解体は1~2時間。
返って肉を洗ったり干したりして、道具を洗って、翌日肉をパッケージして、適宜ぶったぎって料理して……
それはもうしんどいです。
しんどい状況においてはトリアージが発生します。面倒な工程はすっとばすしかないのです。
狩猟や畜産がメインの食糧調達手段で、集落全体で狩猟(屠畜)、解体、料理とかをうまく分担しているなら、いろんな工夫が生まれ発展する余地はあり、結果として肉を無駄なく処理できるようになるかもしれません。
でも現状の日本の狩猟はおもに猟師が全部やって猟師中心に消費する感じなので、工夫が生まれる余地はないような気がします。
人間、余裕がないと文明・文化を発展させられんのだなということがわかります。
ムダを排除する行為って追い詰められてる証拠かもしれない。
話がでかくなってきたのでおわりです。
おわり
今回は一応、自分なりの結論が出せてよかったです。
次はたぶんこれまでに作って写真とった料理と2種の獣肉の性質について記事にすると思います。
「獣臭さ」についても触れられたらと思います。
需要があるのかは不明です。
もうすぐ猟期おわりです。皆様最後までご安全にお過ごしください。
良い生き残りを。