この現実世界の「ウリ」は「死」だ、という話
amphibianです。
大晦日なのに、よそに出すでもないセルフ向けテキストを10KBくらい書いてしまい、疲労困憊なので、手短にやっていこうと思います。
+こちらで「物語生成システム」が好きだという話をしました。
この生成システムが何なのか、というと、厳密に言えば、「一連のルールとデータ」なわけです。TRPGでいえば、能力値を決めるにはサイコロを何個振るとか、戦闘を行うにはまずイニシアチブ表を参照して行動順を決め……とかいった、あらゆる制約と情報が物語生成に一役買うと思います。
ただ、もう少し分かりやすく、要点にフォーカスしてみましょう。
ゲームにしろ世界観にしろ、その体系(システム)が独自の物語を生むとしたら、その物語はそのシステム「らしさ」を強く反映しているはずです。
その「らしさ」とは、雑多なルールやデータ一つ一つではなく、もっとマクロで分かりやすい、「その体系の一番大きな特徴」であるはずです。
例として「魔法がある世界」についていえば、世界というシステムの特徴は魔法そのものだといえます。魔法があってこそ描ける奇跡があり、悲劇があり、感動がある。魔法という要素は、その世界やゲームにおいて独自な物語を作り出すルールとして働くわけです。
「巨大人型ロボットがある世界」「超能力がある世界」などでもいっしょです。
「魔法」にしたって様々あって、「MP消費の兵器的魔法がある世界」と「詩吟と音楽によって発動する奇跡じみた魔法がある世界」では生まれる物語が全く違います。
上述したような強い架空要素でなくても、例えば「主人公は女装しており、男だとバレてはならない」とか、「嫌い合っている2人の男女が同じ部屋に住まなければならない」とか、物語を生成しうるルールは様々に設定され得ます。
こういった「物語を強く生成しうる、体系の中核的ルールにして最大の特徴」のことを、amphibianは「ウリ」と呼んでいます。
「ウリ」はシステムの構想時のみならず、物語の執筆時も、作品の販売時も、強く意識されるべきものです。
それは文字通り作品の「ウリ」であり、この作品の特徴と魅力、そして物語生成のポテンシャルを示すものだからです。読者や買い手は「ウリ」を見抜き、吟味し、投資に値するかを考慮してお金を払ってくれるのです。
「ウリ」を特定し、適切に運用し、正しく広報してこそ、作者はシステムの強みを生かし、読者は作品の凄みを的確にとらえることができます。
「ウリ」は企画書作成からキャッチコピーの選定まで重要になるもので、何なら作品づくりのみならずビジネスや教育など万事に肝要だろうと思っていますが、それはともかくとして……
我々が済むこの現実世界の「ウリ」は、「死」ではないでしょうか。
「ウリ」はルールであり、原則であり、真理でもあります。
この世界において最も広く理解されており、国や時代に関わらず普遍的で、かつ不可避であると確信されているものは、「死」です。
「あらゆる者が最後には必ず死んでしまう世界」
これが、我々のシステムの最も中核的なルールにして、物語生成の最大の要因だと思うのです。
このことに気付いた時、amphibianが「人が死ぬような話」に執着する理由を悟りました。
「死」は「この世で最も強力な物語生成エンジン」だから、です。多分。
かつて「泣きゲーは当てやすい」という言説を見たことがあります――よりかみ砕けば、安易に書ける、という意味ではなく、同じくらい良いものを作ったとして、喜劇や社会劇よりも広く共感・感動をよびウケやすい、というものではないかと思います。
また、かつてflashムービーの隆盛期、「どうやって名作flashを作るか」という題材のflashムービーの中で、「別れを題材にすること」という提起がありました。
なぜ悲劇、別れ、死に人間が執着するかといえば、それがこの世界の善住人の「人生」という物語における中核ルールだからだと思うのです。
人は誰しも死ぬ。恐ろしいことに死ぬ。
だから、それを受け入れるための筋立てを、物語を求めているのではないか。
だから、この世界の住人に読んでいただく物語として、「死」にフォーカスすることはおそらく正道(安易ともいう)ですし、「死」がいかなる物語を生みうるか、は今後ともamphibianの興味の中核であり続けるのではないか……と思う次第です。
amphibianは子供の頃、自分や親しい人たちが死ぬことを強く恐怖していました。それゆえか、人が死ぬ話が恐ろしく、忌避していたこともあります。
でも、「死」は物語の生成エンジンとして、大変に面白いものでもあります。
どうせ逃げられないものですから、そうやって面白がりつつ、前向きに付き合っていくのもいいか……などと考えています。
これで今年の更新をしめくくります。
沢山のスキやフォロー、本当にありがとうございます。
もっと沢山書きたいことはあるのですが、最近は気付くと日々が吹っ飛んでゆくので間が空きがちになってしまう。来年はこのあたり、多少なりとも改善していけたらと思います。
よろしければぜひ、お付き合いいただければ幸いです。
それでは皆様、来年も良い生き残りを。