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コロナ時代は、経営/組織マネジメントをどう変えるのか

新型コロナウイルスが猛威をふるいだしてから、2ヶ月近くがたとうとしています。

私は、Fringe81という会社の経営を、15年間している田中弦と申します。

私は、1999年に社会人になりました。その間、数々の経済危機(●●ショック)と言われたものがありました。私の社会人一年目に、ドットコムバブルがはじけました。

当時内定していた(そして社会人一社目となった)ソフトバンクの株価は1/100になりました。リーマンショック時には、親会社で大量リストラがありました。東日本大震災の時には、広告産業は非常に厳しい状況ともなりました。

これまでにも、いくつもの試練や困難を経験してきました。

そのたびに、ビジネスモデルを変え、聖域無きコストカットを行い、なんとか生き残り、成長してきました。

自分が思い描いていたビジネスが、経済危機によって、失敗したこと、無くなってしまったこともありました。友人の会社が無くなってしまったこと、等も多々ありました。また、なぜ、自分がこんな目にあうのだろうか、と思い悩んだこともありました。

新型コロナウイルスが終息した未来(afterコロナ)、もしくは長く終息しない未来(withコロナ)の2つの未来があります。どちらの未来となるのか、私も全く見通せません。

新薬等が発見されれば、完全に元通りになるのでしょうか。私は、それほど楽観視していません。今回の危機は、大きな社会の変化も伴っているからです。

本来であれば、私は上場企業の代表者ですから、当社株主の皆様へ報いる、というのが大前提の立場ではあります。自分の会社の業績にまつわることを発言したり、未来を語ったりする立場では無いのかもしれません。

ですが、特にスタートアップ経営者や、スタートアップで働く方・大きな会社で組織マネジメントをしているマネージャの方向けに、お伝えしたいことがあり、この文章を書いています。こういった危機の時は、マネジメントの心が折れやすいです。それをとても心配しています。私の数少ない経験が、少しでもお役に立てればうれしいです。

インターネット産業、スタートアップは成長しているから安泰、ではなくなった

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私は、今までの経済危機においては、ドットコムバブルを除けば、インターネット産業は成長産業であったので、多くの産業分野より影響は少なかったのではないかと考えています。

インターネット産業は、他の市場から市場を奪って成長してきたことも、その要因ではないでしょうか。どことなく、経済危機がスタートアップやベンチャーにとって対岸の火事のようになっていた節はないか、と考えています。

もはや、10年前とは異なり、全てがインターネットで完結するサービスだけでは無くなってきました。コミュニティサービスやエンタメ、メディアはオンライン完結型ですが、最近ではネット経由のリアル施設の予約、シェアリングサービス等、オンラインだけでは完結しない、生活のインフラをインターネットが支えています。

こうしたことから、コロナウイルス禍においては、多くのベンチャーの業績、特にリアルとの関わりが深いサービスほど、業績の打撃を受けています。

「選択と集中」の難しさ

「選択と集中」は、経営の基本の考え方です。平時であれば、特定分野に集中投資をしながら、競争に打ち勝っていくのがセオリー。しかしながら、危機の中の経営ということ考えると、とたんに一本足打法といいますか、不安定になっているのではないか、という不安がやってきます。

一つが倒れるとすべてが倒れるように思えてきます。これは不安です。特にスタートアップ経営者は不安だと思います。株主から資金をお預かりしている中で、生き残るためには、ある意味、戦力分散した経営を迫られる可能性もあります。これは説明責任上、大変むずかしい決断です。特に主力プロダクトやサービスが打撃を受けている場合、この不安は不意に、しかし急にやってきます。競争もある、株主への説明もある、日銭を稼ぐために、受託開発をしなければいけない場合もあります。

Fringe81の場合は、当初はアドテクのソフトウェア一本で行きたかったのです。技術オリエンテッドな会社を目指していました。そして、そういった名目で出資も受けていました。ただし、それでは全く危機を生き残る事はできませんでした。我々が始めたのは、広告代理業でした。労働集約型のビジネスです。システム開発は必要ありません。ある分野に特化して始めました。生き残るために始めたビジネスは、今は主力事業のひとつとなっています。

こういった、平時の時には効果を発揮するセオリーやノウハウも、平時以外では意思決定を邪魔をすることもあります。邪魔をすると、それだけ会社の復活が遅くなってしまいます。

タイミングはコントロールできない

たまたま、新型コロナウイルスの流行前に、大型資金調達をしている会社と、今準備中だった会社に、特に何か大きな差異はありません。調達を早くやっておけばよかった、、、と悔いている方もいると思います。でも、運も実力のうち、という言葉で軽く片付けてはいけないと思います。

運がいい経営者は実際います。私も、同世代でタイミングが良い経営者と比べて、「なんで俺は運が悪いんだろう・・・経営者としてダメなのではないか」とか、「あいつと何が異なるのだろう」と思った事もあります。でも、運も実力のうち、と考えすぎると、心が壊れます。心が折れたら、会社は成長しません。

運が悪かったから、経営者として実力が無い、ということではありません。これはコントロールできないものです。徹底してコストダウンです。

「感情の体験設計」を基に制度をつくり、生き残った

東日本大震災が起こった時、Fringe81はまだ20人くらいのごく小さな会社でした。その時に私は、もちろんコストダウンなどの色々な生き残りのためのあらゆる手段を講じました。ただ、結局会社を救ったのは、「強いカルチャーと相互理解」だったと思います。危機の時こそ、強いカルチャーがその会社の生き残りを支えました。

その際に考えていたのは、こういった危機の状況において、いかに働く仲間の「エモーション(感情)デザイン」を徹底するか、ということでした。「感情体験の設計」と言ったほうが伝わりやすいでしょうか。感情のコントロール、ではありません。人間の感情はそんなに簡単にコントロールしたりできるものではないと思います。ましてや、危機の時にはネガティブな感情の方が多いものです。

コントロールではなく、体験。体験してもらうことによって、カルチャーの純度を高めることをやりました。

当時は、お金は何もありませんでしたから、こういう段ボール箱を使った、「発見大賞」という制度をはじめました。これは、ようは他薦のMVP制度で、自ら手を挙げてアピールするのではなく、働く仲間からのポジティブな感情を、他薦表彰という形で体験してもらおう、という制度をつくりました。

当時のFringe81は、営業会社でした。若干ブラックなところもあったと思います。ところが、経済危機が起こった時は、受注は一気になくなりますね。今までは、目立つ数字で測りやすい人が組織内でも目立つ会社でした。

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全員が、不安です。資金も、どんどん無くなっていきます。その時に私が体験設計したのは、下支えしてくれる経理の人や、人事の人のような、人たちをいかに盛り上げるか、というものでした。

組織内で、誰が、どういう思いで、何をやっているのか、成長しようとしているのか、それが分かる事が大事だったのです。カルチャーの純度を高め、感情体験を向上することができれば、組織は、一致団結して危機に対応できるようになります。

テレワークは、相互理解の機会、カルチャーの浸透を奪う

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新型コロナウイルスによる危機は、今までの経済危機とは大きく異なる点があると考えています。

それは、働く人のコミュニケーションの変化です。

過去の経済危機でも、数ヶ月は飲み会などが減ったと記憶しています。一方、多くの人のワークスタイルには、それほど大きな変化は起こりませんでした。数ヶ月後には、多くの人が同じ職場に通い、共にワイワイ、ガヤガヤとミーティングをして、時には仲間と食事をともにしてきました。

ところが、コロナウイルス禍では、こういったリアルなコミュニケーション手段が奪われました。東京では約半数のビジネスパーソンがテレワークに突入しました。多くの会社や組織において、いきなりのテレワークとなりました。

これは、組織内のコミュニケーションや、相互理解の促進において、大きな打撃ではないでしょうか。危機の時には、団結力が何より重要となります。ところが、テレワークでは団結もしづらくなってしまいます。

私が昔から憧れている会社はいくつもありますが、その中のコミュニケーションスタイルのお手本としてきた企業は、ホンダと京セラ、そしてGoogleでした。ホンダは「ワイガヤ」、京セラは「コンパ」、Google は「TGIF」といった場を用意することで、従業員や経営者とのリアルな繋がりを大切にしてきました。こういった繋がりこそが、競争力のある組織や文化を作り上げてきました。

これらの、直接のコミュニケーションと、テレワークでは何が異なるでしょうか。

私はテレワークを実際体験してみて、思ったことは、

● リモートミーティングでは、話者のみが注目されるので、参加者の雰囲気(反対してそうなのか、賛成しているのかなど)が非常に伝わりづらい
●リモート飲みは、なんとなく楽しくない。愚痴や悩みも、打ち明けづらい
●ましてや全員で盛り上がってカラオケ、などはありえない

という、みなさんも感じておられるかもしれませんが、負の側面が大きいなぁ、、そしてリアルで会う、というのは偉大なパワーを持つものだなぁ、というものでした。

「伝える技術」が組織を復活させるのではないか

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テレワークが長引くにつれて、私は、これは負の側面が大きいぞ、と思ってきました。もちろん、ZOOM等のビデオチャットはフル活用しているものの、明らかにリアルと比較すると、感情体験としては良い体験になっていません。

例えば、全社会議でプレゼンテーションの機会があっても、どうも、盛り上がりません。盛り上がっているのかどうかも、わかりづらいです。画面越しで、「伝える」事の難しさを痛感しました。

ところが、先日当社のCTOが、とんでもない技術を開発したのです。技術といってもテクノロジーではありません。先程ご紹介した「発見大賞」の受賞者に、突然手紙を読みだしたのです。

少々長いですが、引用しますね。

拝啓、親愛なる梅木君へ、年間発見大賞MVP受賞、おめでとう。とても嬉しいです。振り返れば3年間、たくさん絡みましたね。最初は技術経験ない状態からTECに入ってきて、俺を認めてくれと息巻いてきた梅木くん。そんな君に『ごちゃごちゃ言ってないでnpm initコマンドを100回叩いてこい!』という厳しい接し方をするところから僕らの関係は始まりましたね。それから約半年後、梅木がアツいと思ったことがありました。新規事業調査で一緒にHR Techカンファレンスにいって、ジョナサンで飯を食った時。ふたりで人事の立場になって、つよい会社はどうやったら作れるのかということを語り合いましたね。あのときの梅木の主語は自分ではなくてFringeに変わっていました。あの頃から梅木の変化にワクワクしだした俺がいました。二年目の夏、エンジニアインターンで一緒に師匠をやりましたね。最初は『難しい難しい』と言っていたけど、関のやり方を頻繁に盗みにきてくれました。『あの時なんでああいう言葉をかけたんですか?』『その技はどこで身につけたんですか?』と頻繁に背景を聞いてきては、自分流にアレンジして実践している姿が印象的でした。一年後、技術の話で月間発見大賞を取りましたね。過去ないほどに技術の領域でお見それしましたとかんじました。一緒にTypeScriptの勉強会を定期的にやっていましたが、関以上に真剣にハックし続けた梅木の努力と、深い思考の賜物だとおもいました。あの時は素直に尊敬しました。いまは●●を頑張っていますが、関が声かけるとだいたいは『難しい・うまくいってない』と言いながら『俺はもうずっと、エンゲージメントがとても高いんです』と力強く言い放ち、徐々に結果もついてきはじめていますね。頼もしさと、期待をもって梅木と●●の行く末を見届けたいと思っています。と、僕らの思い出を色々ふりかえりましたが、気づくと梅木はたくさん悔しい思いをしていますね。ヒーロー願望・最上志向が強い梅木はいつも圧倒的な結果を求めては、打ちのめされ、折れかけ、でも折れず、そのときどきの状況を楽しもうとしている姿に関はいつも刺激をもらっています。 関は梅木のことをスーパーマンのような天才型のスマートなヒーローではなく、ロッキーのような負けながらそれでも立ち上がるリアルなカッコいいヒーローだと思っています。気づくと応援してしまっている自分がいます。これからも未知の領域に挑み続ける梅木と、ワイルドサイドを一緒に歩いて行く未来を楽しみにしています。 くれぐれも体には気をつけてお仕事を頑張っていってくださいね
母より

これを聞いていて、私ははばからずも、涙してしまいました。
(急いで、ビデオオフにしました 笑)

なんてエモい会社を僕は作ってしまったのだ、最高だ、と思いました。リアルでやるよりもむしろ、伝わりましたし、感情は大きく動きました。
(※最後の「母より」もオチがあっていいですね)

そうです、CTOが発明した技術とは、オンラインで読む「手紙」です。

私は、ふざけているわけではありません。オンラインで、大人数で行うミーティングにおいては、話者がクローズアップされ、場をつくります。「手紙」がより効くのです。

CTOの手紙の内容も良いのですが、大人数に、いかにオンラインでエモさ(ポジティブな感情)を伝えるか、「伝えきる技術」が、コロナウイルス禍では必要になってきます。

飲み会や、全員でリアルに集まって会社の方向性やカルチャーを伝える機会が失われてしまった今、必要なのは「伝える」ことへのこだわり、開発なのではないでしょうか。

悪意こそ速く伝わる

悪い噂ほど、従業員の不安を煽るものはありません。かつてリストラがあった時には、有る事無い事、たくさんの悪い噂が飛び交いました。経営者は、逃げられません。悪い噂も、残念ながらポジティブな事よりも、速く伝わります。まして、悪意は、もっと速く伝わってしまいます。

残念ながら「この会社は、ヤバいのではないか」とか、「この部署は無くなるらしい」などです。こういった悪い噂は、防ぎようがありません。事実の場合もあるからです。もっと厄介なのは、「悪意」です。誤解や曲解が、こういった危機の時はたくさん起こります。そういったコントロール不能なものも、経営者の心を蝕みます。これに対抗するには、上記で述べたような「伝えることへのこだわり」が必須だと思うのです。

社員が辞める。ウェットであれ、ナイーブになるな

私は、よく会社の社員と飲みにいったりドライブにいったり写真撮りに行ったりする社長です。(現在はこれらができなくなっていますが)

仲良しの社員も、こういったタイミングでなくとも、辞めていく時があります。特に危機が訪れた場合においては、社員が辞めるケースが多いですよね。とても残念です。残念ですが、私は普段から、ここでナイーブにクヨクヨしないことにしています。悔しいし、傷つくこともあります。クヨクヨすると、つらいです。誤解を解きたい、と思うこともあります。でも、誤解は多くの場合、解けないことが多いんですよね。

だから、全社会議では辞める人を社長が発表して、ねぎらいの言葉を必ず言うことにしています。ウェットです。でもナイーブではありません。今この状況では、徹底的にウェットで行きます。涙を流すわけではありません。毅然とウェット、これがいいと私は思います。

会社の即応性が落ちる。特に現場とマネジメント側のスピード差が出る。ギアを変えられるのはマネジメントだけ

緊縮財政下なので、現場はなるべく慎重になります。これは当然のことですよね。

一方、新しいサービスの発表や、提携発表、マーケティングメッセージの変更などは、もちろん短期間ではありますが、ギアを変えて、一気呵成に行う必要があります。

短期的一気呵成モードに入った場合、マネジメント側は、「なぜ現場のスピードが遅いのか」と思い悩みます。私も良く悩んでいます。現場のギアは勝手に変わっていきません。マネジメント側が、「今こそギアを変えるべきタイミング!」と言うことを高らかに宣言しないと、マネジメントと現場の進む速度が違いすぎて、軋轢や衝突を生んでしまいます。実際、直近でも私はやってしまいました。このスピードの差を解決するには、マネジメントの現場介入が必須だと思います。

現場に入って、「なぜ、今なのか。このタイミングなのか」を懇切丁寧に説明しきり、なんなら自分で手を動かす、権限も剥奪する、やって見せる、くらいしないと、ギアは変わらない事を実感しました。平時でしたら、権限移譲をしている手前、なかなか言い出しづらいのです。しかしながら、この状況で躊躇すると、結局は後から大変になってしまいます。

会社の提供している事業を、この危機を乗り越えるために行う

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Fringe81は、Uniposという、従業員同士で感謝のメッセージを送り合うサービスを提供しています。テレワークがこれほど必要になる前は、リアルな場の補助としてこのサービスを提供してきました。

ところが、テレワーク必須な社会が到来しました。リアルな場が失われてしまったぶん、Uniposが、組織内のすべての貢献が見える化され、すべての人が応援され、誰ひとり取り残される事無く、安心して働ける社会の実現のために、使われるようにしたいと考えています。

今後は、よりテレワーク環境下においても、組織の生産性やチームの生産性がもっとあがるような、危機に合わせたプロダクトにしてまいります。開発方針も、大きく変えました。この危機を乗り越えるための事業を行っていきます。

ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。大変な時期、大変な環境下でありますが、ぜひ皆様とともに、この危機を乗り切って、成長していきたいです。