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18. 品出しとリストカット


18回目。

みなさん、アルバイトの経験はありますか?
きっと、あると思います。
それじゃあ、品出しをしたことは?
これは、品出しに熱中した私の末路です。
どうかお付き合いください。




品出し。
それは、積み上がった段ボールと時間、私の三つ巴の戦いである。
限られた時間の中でいかにヤツらの勢力を削れるか。それが私の使命であった。


私はお店で品出しの速さで並ぶものはいないと専ら有名である。


ヤツらと対面すると同時に、情報を分析していく。
商品の種類。それぞれのケース数。現在の店舗での配置場所。
そこから最短ルートを編み出し、攻略するため作戦を立てる。


作戦はすぐに立った。
よし、これで今日も完璧だ。


いつも通り品出しをし、終えたと同時に報告。
そのままレジ打ちに入ることになった。
いつも通りの流れ。いつも通りの業務。


違ったのは、この日の段ボールの量がいつもより多かったこと。
そして、いつもより数倍暑く、半袖で作業していたことだった。



レジに入る。
商品を通して、袋詰め。会計。


何やら、お客さんの視線を感じる。
変なことをしただろうか。
何か間違えただろうか。
いや。



(黒マスクのせいか)



数日前に雨に降られ、体調を崩し治りかけだった私は、黒マスクをつけていた。
家に黒マスクしかなかったのだ。
仕方ない。






バイト終わり。


「お前、ストレス溜まってんの?」


なんの前触れもなく、レシートをまとめながら友人がそう言った。


「なんで?」


そう言いながらも、私はレジに吸い込まれない千円と格闘していた。

がちゃん、うぃーーん、うぃーーん
入らん。


「今まさに、ストレスを感じてるわ」


「そうじゃなくて」


友人は、私の手元から千円を抜き取り、とんとん、と腕を指した。私の。


リストカットしてんの?」


なんのことやら。
リストカットなんてしてるわけない。黒マスクだけど。黒マスクへの偏見がひどい。申し訳ない。


友人に促されて、腕を見た。


「リストカットやん」
「言ったろ」


リストカットだった。
もっと具体的に言うと、リストカットの後のような、赤いラインが、手首の上で無数に走っていた。



なるほど。
お客さんはこれを見ていたのか。
それは確かに気になる。


しかし、リストカットなどしたことは当然ない。
では、なぜこんな跡が。



答えは品出しだった。


段ボールを開けるとき。
段ボールの中から商品を取り出すとき。

手首が段ボールで薄く切れていたのだった。






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